第12話 私の探し人(SIDE IROHA)
「38.5℃……これは学校休まないとダメね」
前日の夜、藤坂さんと『アケロク』で遊んでいた次の日、朝から頭痛がしたので祖母に言って体温を測った結果、見事に熱が出ていた。
「まったく、一昨日、朝方までゲームしてたから疲れた出たんだろうな」
部屋に戻って布団に入ろとしていると、祖父が呆れた顔でこちらを見て、そう告げた。
「今日は薬飲んでゆっくりすれば下がるだろ」
「はーい……」
「彩葉ちゃん、何か食べたいものある? 後で買ってきてもらうから」
横になっていた祖母がそう告げると、祖父は「俺がいくのか!?」とわざとらしく大声を上げていた。
「甘いものが食べたい」
「甘いものか、それじゃ駅前の和菓子専門店に——」
「それは昭三さんが食べたいものでしょ、彩葉ちゃんがほしいのはケーキに決まってるじゃない」
祖母がそう告げると、祖父はわざとらしく「そっかぁ!」と大声で答えていた。
「可愛い孫のためだ、ウォーキングついでに行ってこよう! ちなみに俺の和菓子も買ってきても——」
「ダメと言っても買ってくるでしょ……」
祖母はため息混じりに答えていた。
そんな2人の様子を横になりながら眺めていた。
そして、朝食の後に飲んだ風邪薬が効いてきたのか、いつの間にか眠りについていた。
——その時見た夢は、昔のことだった。
休み時間にみんなが学校で鬼ごっこやドッヂボールなど校庭で遊んでいる中、私は一人で参考書を見ていた。
私は友達と呼べる人がいなかった。
小学校入学と同時に母親は勉強をすること以外許してくれなかった。
テストで満点をとることが当たり前、1点でも取れなかった時は説教が待っていた。
そのため、友達など作ることができなかった。
一度クラスメイト達と遊んでいたところを見つかった際は、ものすごい勢いで怒られた。
それからは怒られないようにずっと勉強ばかりしてきた。
だが、その生活も一変することになる。
中学へあがる直前に母親が急死したからだ。
普通で実の母親が亡くなったのであれば悲しむところだが、その時の私はやっとこの苦しみから解放されると喜んでいた。
今考えてみれば不謹慎この上ないことだが。
母親の死後、私は父方の祖父母と一緒に住むことになった。
「あれ……お父さんは?」
父親も一緒に住むかと思っていたが、葬儀の後、父親はいなくなっていた。
2人に尋ねてみるも2人とも答えてくれなかった。
祖父母と住んでから少しして、私は中学生となった。
私の行動に制限をかけていた母親がいないので、今までにできなかったこと友達作りができると思っていた。
けどできなかった……。
小学校を全て勉強に費やした人間が友達を作る方法を知る由がなかったからだ。
周りはファッションの話や人気ドラマの話など、この時の私には知らないことばかり話していたのでついていくことができなかった。
「やったことはないが、みんなで遊ぶゲームがあるんだろう? 目的は共通だから友達もできるんじゃないか?」
私の事情を知った祖父はパソコンを買ってくれた。
元々、祖父は機械好きでゲーム機やパソコン、それに付随するキーボードやコントローラーなどの用品を集めるの好きだと話していた。
買ってもらったパソコンで色んな人たちと遊べるネットワークRPGを探していき、行き着いた先がDPOだった。
祖父の言う通り、ゲームにおけるプレイヤーの共通目的は『ゲームを楽しむこと』なので、友達を作ることは簡単だと思っていた。
でも、そこでも色々な壁にぶつかる。
「イリスちゃんよかったらリアルでもあったりしない?」
「イリスさん、何で私の相方とずっと一緒にいるの? やめて欲しいんだけど」
私は普通に接しているだけなのに、あらぬ疑いや、変な誘いをうけることが多くなっていった。
その度にフレンドになって人たちをブロック設定にしていった。
そんなことが続き、DPOが嫌になり、辞めるかどうかなっていた時にアッシュさんと会った。
『……大丈夫か?』
初めて会った時は今まで一緒にいたダークナイトのフレンドと意見の食い違いから喧嘩になってそのままフレンドを切られてしまっていた。
しかも、強いモンスターがいるところで1人置いてかれ、モンスターに襲われているところで、アッシュさんは何も言わずに助けてくれた。
確かその後、一緒にボスを倒すことになった。
アッシュさんも攻撃特化のダークナイトだったので、自分が最適だと思えるタイミングで回復をしていく。
その結果、軽々とボスを撃破することができてアッシュさんは褒めてくれたことは今でも忘れない。
フレンドになってからアッシュさんとは会うたびに色々話していった。
そして、紆余曲折あって私と相方になってくれた。
これまで一緒にいた人たちが相方と呼んでいるのが羨ましく思い、自分も使ってみたくなった。
正直、この言葉にどんな意味が含まれているのかはいまだに理解していない。
おそらくは仲の良い友達ってことだと思ってはいるけど。
「サービス終了……」
そして、楽しい日々の終わりを告げる日がやってきた。
DPOのサービス終了日……。
「あと1時間で終わっちゃうんですね〜」
『そうだな……』
サービス終了まで私はアッシュさんと一緒に過ごしていた。
「そうだ、今のうちにLIME交換しませんか?」
結局、アッシュさんとは連絡先を交換することはできなかった。
どんな流れで年齢の話になったかは覚えていないが、アッシュさんのプレイヤーは私と同い年であることがわかった。
今までになったフレンドはすぐに私のLIMEの連絡先を聞いてきたが、ゲームの規約にリアルの連絡先は簡単に教えないようにと書かれていたので断っていた。
その後すぐにフレンドも切られたこともあったけど。
アッシュさんに関してはそんなルールを破ってもいいと思えるほどリアルでもフレンドになりたい人だった。
けれど、連絡を教えてもらえることはなく、サービス終了を迎えてしまったのだった。
「……もう一度アッシュさんに会いたいな」
その時の言葉は夢の中のものか、現実の私の寝言なのかわからなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
目の前に映ったのは、真っ白な天井。
「いつの間にか寝ちゃってたんだ……」
ゆっくりと体を起こしながら夢の内容を思い出していく。
母親のことや、DPOでのアッシュさんと過ごした日々。
だが、それを壊すかのように私のお腹が鳴り出した。
部屋の時計を見ると、もうすぐ夕方になろうとしていた。
朝、祖父母と会話してからの記憶がないため、この時間まで寝ていたのだろう。
通りでお腹の虫が鳴りだすわけだ……。
「……おじいちゃん、ケーキ買ってきてくれたかな」
ゆっくりとベッドから降りて、部屋を出ようとドアを開ける。
「あっ……」
ドアの奥で藤坂さんが2つのケーキが乗ったお盆を持って立っていた。




