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未登録放送  作者: NoNaMe
6/25

正常なチャイム

 取材申請は、その日のうちに認められた。


 市職員の失踪が既に庁内へ広まり、曖昧な拒否を続ける方が不都合だと判断されたのだろう。撮影なし、録音なし、個人情報に触れないという条件で、遼と野辺は危機管理課へ通された。


 室内は紗季の録音で想像したより狭かった。


 窓際に長机があり、中央に操作卓がある。機械は放送局の調整卓のような大掛かりなものではなく、事務机へ埋め込まれた画面と数列のボタンだった。


 紗季の席は空いていた。


 机の端に、鉛筆で「母」と書いて消したような跡があった。遼が顔を近づけると、久世が画面を操作しながら言った。


「昨日の履歴です」


 十八時〇〇分〇〇秒。定時チャイム開始。


 十八時〇〇分二十九秒。正常終了。


 その前後に臨時送信はない。


「履歴を消すことは?」


「権限があれば操作記録の整理はできます。ただ、送信側と中継側に別の記録が残ります」


「両方消せる人は」


「その前提で話をするなら、私は何を見せても信用されません」


「可能かどうかを訊いています」


「理論上と、実際に痕跡なくできるかは別です」


 久世は定時チャイムを試験再生した。


 昨日と同じ旋律が、卓上の小さなスピーカーから鳴った。


 遼は姉の録音を頭の中で重ねた。音程も長さも同じに思えた。最後の一音のあと、身体が次の十一秒を待った。


 空調は止まらない。


 廊下で台車が動く。


 誰も名前を呼ばない。


「これだけです」


 久世が言った。


 遼は窓の外を見た。中心市街の屋根の向こうに湖が光っていた。旧鳴沢地区は反対側の山の陰で、ここからは見えない。


「旧N-03の撤去記録をください」


「情報公開請求になります」


「保守会社には残ってないんですか」


「残っています」


「見せられない?」


「契約者は市です」


 久世は一貫していた。


 答えられることには答え、答えない理由も説明する。それが遼には、かえって用意された壁のように見えた。


 課を出る直前、紗季の席の電話が鳴った。


 近くの職員が取る。


「はい、危機管理課です。防災無線について――いつの放送でしょうか」


 職員の声が変わった。


「昨日の十八時。湖東台ですね」


 遼と野辺は足を止めた。


 職員は二人に背を向け、メモを取った。


「聞こえた内容は、差し支えなければそのまま……はい。ご家族の声に似ていた、と」


 久世が受話器を持つ職員を見た。


 その顔に浮かんだものを、遼は恐怖だとは決められなかった。


 ただ、驚いてはいなかった。


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