二人分の食器
捜索届を受けた警察官は、紗季の携帯電話の位置情報について、家族へ答えられることはないと言った。
「事件性が認められれば、必要な照会をします」
「連絡が取れなくなった市職員がいて、部屋に財布が残っている。それで事件性がないんですか」
「ないとは言っていません」
言葉を選んでいるというより、選んでよい言葉が決まっている口調だった。
遼は質問を変えた。
「最後に確認されたのは市役所ですか」
「勤務先へは照会しています」
「退庁記録は」
「水城さん」
野辺が低く呼んだ。
家族として来いと言った人間の声だった。
遼は記者証へ伸ばしかけた手を下ろした。
警察官が玄関へ戻ったあと、直子は湯呑みを洗い始めた。水を出し、もう洗ってあるものまで一つずつ濯いだ。
「昨日、姉さんと電話した?」
直子の手が止まった。
「夕方に少し」
「何時」
「チャイムの前。五時半くらい」
「何の話を」
「祭りに顔を出すかって。仕事だから分からないって言ってた」
「それだけ?」
水の音が続いた。
「それだけよ」
直子は蛇口を閉め、遼を見ずに言った。
質問を続ければ何か出る。遼には分かった。同時に、今それをすれば、母親を亡くした人間から証言を取る記者になることも分かった。
彼は黙った。
玄関で靴を履くと、直子が後ろから呼んだ。
「遼くん」
「うん」
「紗季が送ったもの、警察にも見せて」
「見せる」
「新聞には、まだ載せないで」
遼は返事をせず、靴紐を結び直した。
野辺の車へ戻ると、午前十一時を過ぎていた。
「市役所へ行く」
「記者証は置いていけと言ったぞ」
「家族として、最後の勤務状況を聞く」
「それで答えなかったら?」
「そのとき考えます」
野辺はエンジンをかけた。
「お前は、考える前の方がよく喋る」




