十八時三十六分
久世の保守点検票は、祭礼前日に作成されていた。
用紙の上部には、市との年間保守契約番号が印字されている。作業区分は定期点検。作業場所は現行三子局だけだった。
旧N-03は、手書きで末尾へ追加されている。追加時刻は記録されず、承認印もない。
市の契約担当は、旧設備への作業を発注していないと答えた。
久世が会社の機材を私的に使ったのか、現場判断の点検を装ったのか。どちらにしても、正規の作業ではなかった。
警察から任意提出を求められた会社が、市へ写しを送り、市の担当者が遼にも閲覧を認めた。
N-07、N-05、N-04。
各子局の電圧、増幅器出力、スピーカー抵抗。数値は正常範囲。
旧N-03の欄だけ、現行番号なし、外観確認、とある。
使用部材欄には、防水接続材四、返却三。
四が二重線で消され、三へ直されていた。
返却数も、三が二へ直されている。
差は一つのままだった。
訂正印はない。筆圧を見ると、最初の数字も訂正後の数字も同じペンに見える。だが書いた時刻は分からない。
部材倉庫の払出票には四個とある。返却棚の写真には二個。差し引き二個が未返却になる。
点検票では使用一個。もう一個の行方が合わなかった。
「予備として車に残した可能性は」
「ある」
野辺が答えた。
「紛失、別作業、記入漏れもある。数字が合わないから二地点へ使った、とはまだ言えない」
遼は保守車の棚に接続器が二つあった写真を思い出した。撮影時点と払出時点が違うため、同じ在庫かは確かめられない。
「部材を一つ、旧N-03へ使った」
遼が言った。
「そう読める」
野辺は断定しなかった。
点検端末の負荷履歴には、昨夜の時刻が残っていた。
負荷履歴は音声内容を記録しない。
どの識別番号へ起動信号を出し、何秒間、どの程度の電流変化を検出したかだけが並ぶ。
N-07、N-05、N-04は現行台帳の番号と一致した。旧N-03の行は、識別番号ではなく手入力の仮称だった。
つまり端末が旧N-03だと認識したのではない。
久世が、その負荷を旧N-03と名付けた。
十八時六分、N-07。
十八時十二分、N-05。
十八時十八分、N-04。
十八時二十四分、旧N-03。
六分間隔。
一九八九年の避難路と同じ順序。
完全に同じではなかった。
一九八九年の道路閉鎖図では、N-05に相当する地点から旧第二集合所へ向かう途中に二つの分岐がある。音列は片方を飛ばしていた。
それでも、市街側から採石場側へ進む方向は一致している。
遼は「同じ経路」を「同じ方向」へ直した。
弱くなった表現でも、捜索範囲を考えるには足りた。
遼は祭礼パンフレットを横へ置いた。
公開順路は宗像寺、上道、沢道橋、旧第二集合所、湖畔。
旧N-03へは入らない。
昨夜、実際に鳴った設備の線だけが、立入禁止の採石場へ続いていた。
警察は美緒の捜索範囲を西へ広げた。
遼は負荷履歴の末尾を見た。
旧N-03の停止後、十八時三十六分に小さな負荷がもう一度記録されている。
六分間隔なら、十八時三十分に次があるはずだった。
だが三十分には記録がなく、十二分後の三十六分にだけ負荷がある。
周期が続いたと見ることも、機材停止時の放電と見ることもできた。
久世の送信一覧では十八時二十五分にアプリケーション終了、二十六分に点検モード解除とある。
三十六分の負荷は、その十分後だった。
端末の時計ずれは二秒以内。自動試験の予定もない。
機械の記録の中で、その一行だけが操作と結びつかなかった。
久世の送信一覧にはない時刻だった。
「これを見せれば、久世は説明する」
遼が言った。
「説明できることはな」
野辺は保守票を閉じた。
「設備が動いたことと、美緒さんが聞いた内容を混ぜるな」
「分かってます」
「分かってる顔じゃない」
「でも設備の順番は、捜索に使えます」
「使え。原因の証明にはするな」
野辺は負荷履歴の複写を二部作った。
一部は警察へ。一部は記事資料へ。
同じ紙でも、捜索では可能性のある経路を広げるために使い、記事では因果を断定しないために使う。
目的が違えば、必要な確かさも違った。
遼は負荷履歴と地図を持って立ち上がった。
放送を止めることと、失踪を止めることは別だった。
祭礼のあいだ、異常申告は止まった。
その静けさの中で、美緒は消えた。
【記録照会問題 05】
柏木が秘密を話すことを避けたのは、祭りのどの時間だったでしょうか。
第5章の章題を、漢字へ直さず記載どおり照会端末へ入力してください。
ヒント:「祭りが終わるまで」ではなく、放送が続く時間を指す言葉です。
正しく照合されると、保守点検記録と声送り祭パンフレットが開示されます。
https://nonamenonowork.github.io/narushiro-archive/




