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未登録放送  作者: NoNaMe
25/27

四十三分

 四十三分の公開によって、情報は十二件届いた。


 遼と野辺は一件ずつ、受信時刻、送信元、本文、添付ファイルの有無を一覧にした。


 体験談八件のうち、六件は記事に書かれた「三つ目」「返事」「名前」の二語以上を使っていた。二件は記事公開前の日付を主張したが、当時の記録はない。


 一件は自宅のスマートスピーカーから聞いたといい、一件は市外の人間だった。


 体験談が増えたこと自体は、現象が広がった証拠にも、記事の文型が広がった証拠にもならなかった。


 祭礼写真二件は、どちらも観光協会が既に公開している画像の切り抜きだった。悪戯の一件には、遼の名前を呼ぶ合成音声が添付されていた。


 再生する前に野辺が止めた。


「保全だけして、聞くな。内容は送信者が本文へ書いてる」


 遼は音声を再生しなかった。


 聞かずに残す資料が、一つ増えた。


 八件は聞いたという体験談。二件は過去の祭礼写真。一件は悪戯。残る一件には、七月二十四日未明、採石場へ向かう保守会社の車を見たと書かれていた。


 写真もあった。


 暗い県道を走る白い車。時刻表示は三時四十一分。車体の文字は潰れているが、後部の橙色灯と屋根の形は久世の保守車に似ていた。


 写真の撮影情報は残っていた。七月二十四日三時四十一分十二秒。位置情報はない。端末時計が自動設定だったかは確認できない。


 送信者は新聞配達員だった。


「毎朝、そこを通ります。工事なら事前に回覧が来るから、珍しいと思って撮った」


「運転手を見ましたか」


「男が一人。顔は分からない。助手席にもいたかもしれない」


 遼は市の契約業者一覧を調べた。同型の白い作業車を使う会社は、少なくとも四社ある。久世の会社も、その一つだった。


 写真を見せながら久世の名を出せば、証言を寄せることになる。遼は車種の特徴だけを訊き、回答を原文のまま残した。


 公開しなければ得られなかった情報だった。


 同じ公開を読んだ美緒は、自分の記憶を疑い始めた。


 害と利益を、別の欄へ分けることはできなかった。


 遼は社内の事故報告書へ、車両写真を成果として書いた。


 その下に、美緒の証言変化と、合成音声の投稿と、削除できなかった転載を損失として書いた。


 野辺は「成果」「損失」という見出しを消した。


「なぜです」


「車の写真が役に立てば、公開が正しかったことになるのか」


「少なくとも捜索は進みます」


「その写真が無関係な車なら? 逆に姉さんが見つかったら、美緒さんへの影響は帳消しになるのか」


 野辺は二つの見出しを、〈公開後に確認された事実〉へ統一した。


 価値の違う出来事を、収支のように相殺しないためだった。


 遼は公開操作をした可能性が高いと、自分の名で追記した。


 眠っていなかったことも書いた。


 怪異や第三者による操作の可能性を、完全には否定できないという一文は削った。


 否定できない可能性を並べる前に、最も証拠の多い説明へ責任を置く必要があった。


 野辺はアクセス履歴を印刷し、遼の机へ置いた。


「処分はあとだ。まず全員に削除依頼を出す」


 検索サービスへ非表示申請を送り、転載を確認できた二つのアカウントへ削除を求めた。一つは応答せず、一つは既に画像を消していた。


 画面写真が保存された端末までは消せない。


 御厨は復元調査のため、公開頁を保存していた。


「削除しますか」


 彼は訊いた。


 消せば拡散を一つ減らせる。残せば、何が四十三分間公開されたか検証できる。


 野辺は暗号化した媒体へ保存し、閲覧者を限定するよう求めた。


 削除と保全は、同時に必要だった。


「車の写真が来ました」


「警察へ渡せ」


「記事にすれば、ほかにも」


「その言葉を何度使う」


 野辺は怒鳴らなかった。


「見つかるかもしれない。情報が来るかもしれない。全部本当だ。だから厄介なんだよ」


 遼は音響報告書を開いた。


 環境音は一致する。


 声は一致すると言えない。


 掲示板では、投稿が増えるほど声の文型が揃っていく。


 記事を読んだ美緒の記憶も、その文型へ近づいた。


 もし現象が音ではなく、記録を通して伝わるなら。


 そこまで考え、遼は首を振った。


 記事が暗示を与えたという、十分に現実的な説明がある。


 それでも、投稿031の椅子音は、遼が文字にする前から画像に残っていた。


 御厨から、復元ログの追加が届いた。


 投稿六十七番の直後、六十八番が訊いている。


〈誰?〉


 六十九番は削除済み。


 本文はどこにも残っていなかった。


 遼は画面を閉じた。


 机の上の音響報告書、その補助解析者欄には、個人情報保護のための伏字があった。


 水瀬*香。


 事故報告の水瀬澄一。


 過去帳のミナセ。


 職員が消した「見なせ」。


 同じものとして並べてはいけない。


 遼はそう理解しながら、四つの語をノートの同じ頁へ書いた。


 頁の上には投稿三十一番、下には百十二というアクセス数。


 記事が公開される前に存在した可能性のある言葉と、公開後に増えた言葉が、一枚の紙の上では同じ濃さになっている。


 遼は中央へ線を引いた。


 線より上は、七月二十三日以前に存在を確認できる資料。線より下は、自分の記事を読んだ可能性を排除できない資料。


 投稿三十一番だけが、線の上にも下にも置けなかった。


 画像の表示時刻を信じれば上。後から作られた画像なら下。


 遼は線の上へ重ねるように、その番号を書いた。


 分類不能。


 怪異の証拠としてではない。


 この事件で最も重要な資料が、最も不確かな来歴を持つという、その事実の証拠として。


【記録照会問題 04】

三つの録音では環境音が一致していました。それでも、聞き手ごとに異なっていたものは何でしょうか。


第4章の章題を、記載どおり照会端末へ入力してください。

ヒント:「いつ」と「何が」を対にした言葉です。


正しく照合されると、音響解析、削除掲示板の復元記録、遼の未発表原稿が開示されます。

https://nonamenonowork.github.io/narushiro-archive/

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