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未登録放送  作者: NoNaMe
20/25

投稿031

 削除された掲示板には、順番がなかった。


 御厨が持ち込んだ復元資料は、検索キャッシュ、転載ブログ、画面写真、まとめ動画の字幕を切り貼りしたものだった。同じ投稿が別の時刻で保存され、存在しない番号が引用だけに残っている。


「だから、最初に時系列を戻します」


 御厨は支局の会議室の壁へ、投稿を印刷した紙を貼った。


 十八時十六分。


〈さっきのチャイムのあと何か言ってなかった? 湖東台〉


 十八時十八分。


〈うちも。女の声。何言ってるかは分からない〉


 十八時二十一分。


〈三つ目の曲がりで返事しろ、みたいに聞こえた〉


「三つ目は、遼さんが私へ教える前から出ている」


「投稿者が本当にその時刻に書いたならな」


 野辺が言った。


「キャッシュ時刻は改変できますか」


「元サイト側の表示なら。検索側の取得時刻は難しい。ただ、転載画像は信用できません」


 御厨は確度によって紙の色を分けていた。


 白は検索キャッシュで確認。灰色は複数転載が一致。赤は一つの画像にしかない。


 壁の端には、青い紙もあった。


「これは?」


「存在したことだけ確認できる投稿です。本文は引用にも残っていない」


 番号と投稿時刻、削除表示だけが並んでいる。


 三、六、九、十。十四から十八。二十七。三十四から三十六。


 御厨は、欠番も時系列の中へ置いた。


「本文がないのに、何が分かるんです」


「何も分からない、と分かります」


「削除された理由は」


「投稿者が消した。運営が消した。画像を保存した人が、その番号を飛ばした。そもそも自動採番で、書き込みが成立しなかった。どれもあります」


 遼は青い紙の多さを見た。


 残った投稿だけなら、声は曖昧な音から固有名へ、固有名から失踪の警告へ、段階的に成長している。


 欠番に「何も聞こえない」「勘違いだった」という投稿があれば、その成長は崩れる。


 逆に、もっと早い時点で固有名が書かれていたなら、成長ではなく選別になる。


 どちらも、本文がない限り確かめられない。


 十九番から、名前と失踪が現れる。


 二十四番で、拍子木二回、鉦一回、一拍空けるという祭礼の型が加わる。


 三十一番は赤い紙だった。


〈三つ目の曲がりを越えると古いスピーカーがある。そこで椅子を引く音がして「水城遼」って呼ばれる。返事した人は採石場の下に連れていかれる〉


「これだけ具体的なのに、保存元が一つ?」


「最初の画像を転載した記録は複数あります。元投稿そのものを取得したキャッシュがない」


「画像の捏造は」


「可能です」


「投稿者は」


「三十三番で、自分は三十一番だと名乗っています。『だから創作』と」


「創作なら、椅子の音をどうして知っていた」


 遼が訊くと、御厨は壁の紙を見た。


「あなたのお姉さんが別の相手へ録音を送った。市役所で誰かが聞いた。投稿画像を作った人があとから情報を足した。あるいは、椅子の音自体が珍しくなくて偶然一致した」


「最後のは苦しくないですか」


「苦しい代案を消したら、残ったものが真実になるわけじゃない」


 野辺がわずかに頷いた。


 御厨は投稿三十一番の画像を、四つ並べて拡大した。


 最初に保存されたとされる画像は、時刻表示が十八時五十九分。別の転載では十九時五分。同じ本文なのに、文字の折り返し位置が違う。三つ目には端末の電池残量が写り、四つ目にはない。


「別端末で同じ頁を開いたなら、折り返しは変わります」


「画像を作り直しても変わる」


「はい」


「最初の画像はどれです」


「分かりません。ファイル作成日時は保存した日時へ変わっています」


 御厨は画像の圧縮痕を色分けした解析図も出した。本文の周囲だけ圧縮率が違うように見えるが、スクリーンショットをメッセージアプリで再送した場合にも同じ痕が出るという。


「調べるほど、どちらにも説明できるんですね」


「だから、捏造と断定も、本物と断定もできない」


 御厨は赤い紙の隅へ、〈本文未検証〉と太く書いた。


 オカルト研究家という肩書きから、遼は彼が怪異を残す側だと思っていた。


 実際には御厨も、残したい謎を自分で削っていた。


 御厨は次の紙を貼った。


 投稿四十一番。


〈水城って誰〉


 その後に欠番がある。


 まとめサイトには「記者の名前だった」とだけ残っていた。


 遼は自分の名が、録音より先に掲示板へ存在したように見える時系列を眺めた。


 だが掲示板の時刻が正しいとは限らない。


 録音を姉だけが持っていたとも限らない。


 怪異を疑うには、人間の記録はあまりに簡単に加工できた。


 人為を疑うには、加工した人物の動機と経路が足りなかった。


「六十七番は?」


 遼が訊いた。


 翌朝四時六分の投稿だった。


〈聞こえているなら、まだ返事をしないで。〉


 紗季が遼へ送った文と同じだった。


「これも画像だけです」


 御厨が答えた。


「投稿時刻は、お姉さんが失踪したと見られる時間のあとです」


 投稿六十七番の画像には、引用元を示す細い縦線があった。


 だが引用先の番号は画面外へ切れている。


「誰かの言葉を写した可能性があります」


「姉の共有リンクから?」


「可能性です。逆に、お姉さんが掲示板を見て文字起こしへ使った可能性もある」


 どちらが先かを決める時刻は、どちらも信用しきれない。


 録音、文字起こし、掲示板画像、転載記事。


 四つの資料が同じ文を含むことは、四つの独立した証拠があることを意味しなかった。


 一つの文が四つへ複製された可能性がある。


 野辺は壁の中央へ、資料同士を結ぶ矢印を書いた。


 録音から文字起こし。


 文字起こしから共有フォルダ。


 共有フォルダから掲示板。


 掲示板から御厨の復元資料。


 御厨の資料から遼の記事。


 遼の記事から新しい体験談。


 最後の矢印を、最初の録音へ戻すように曲げた。


「これを独立証言の数として数えるな」


 輪のどこから情報が入ったのか。


 誰が最初に文を作ったのか。


 矢印を増やすほど、始点は見えなくなった。


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