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未登録放送  作者: NoNaMe
19/25

一本の線

 遼は三件の受付票の住所を、鳴代市の地図へ落とした。


 現在の住所表記だけでは位置がずれた。


 旧鳴沢町の字境界図、合併時の住居表示対照表、一九八九年の道路閉鎖図を順に重ねる。縮尺が違い、北の向きも数度ずれている。遼は沢道橋、寺、旧公民館の三点を基準に合わせた。


 紙を重ねれば、わずかなずれは簡単に消せる。


 見たい線へ近づくように基準点を選ぶこともできた。


 遼は作業を最初から画面録画し、使用した三点を記録した。別の基準点でも同じ並びになるか、旧学校跡と採石場入口を使ってやり直した。


 完全には一致しない。


 それでも三地区は、旧道に沿う帯の中へ入った。


 湖東台二丁目。鳴沢字上道。鳴沢字採石場口。


 離れた三地点は、直線には並ばない。


 だが一九八九年の道路閉鎖図を重ねると、別の線が現れた。


 第一避難指示の集合先から、変更後の旧第二集合所へ。そこから採石場口へ至る旧道。


 三つの申告地点は、その経路を東から西へ辿るように並んでいた。


 遼は地図を野辺の机へ置いた。


「偶然だ」


 野辺は最初に言った。


「まだ何も説明してません」


「説明のために線を引いた顔をしてる」


 遼は旧避難路を指で辿った。


「受付時刻の順でも並びます。湖東台が十八時一分十七秒。上道が二十三秒。採石場口が二分四秒」


「人間が四十七秒で移動できる距離じゃない」


「音なら」


「音速でも遅すぎる」


「設備が順に鳴ったなら」


「中央ログにはない」


「中央を通さなければ?」


 野辺は地図を見た。


「旧N-03は無電源だ」


「新しい接続痕がありました」


 写真を見せる。


 野辺は拡大し、黒いテープと倒れた草を確認した。


「久世には?」


「まだ」


「警察へ送れ」


「これだけで?」


「姉さんの捜索に関係すると思うんだろう」


 遼は写真と位置情報を警察へ送った。


 送信後、地図へ戻る。


 野辺は受付票の時刻を別紙へ書き写した。


「この時刻は何の時刻だ」


「受付時刻です」


「聞いた時刻じゃない」


 三件のうち、電話二件は通話開始時刻。夜間窓口の一件は職員が端末へ入力した時刻だった。申告者が放送を聞いてから電話を探し、番号を調べ、つながるまでの時間は分からない。


「四十七秒で順に鳴った、とは言えない」


「受付が同じ時間帯へ集中したとは言えます」


「それは言える」


 野辺は三つの時刻を消さず、見出しだけを直した。


 〈放送到達順〉から〈受付成立順〉へ。


 意味は弱くなった。


 記録としては強くなった。


 旧避難路の先には採石場がある。


 事故報告では、変更された避難指示に従った住民が、その方向へ移動した。


 現在の三件の申告も、同じ方向へ連なっている。


 過去帳には、八つ目に見える欄がある。


 聞き取りノートには、一つ足りないと向こうが名を足す、とある。


 並べれば、一つの話になった。


 事故で八人目が名を失った。


 名を失ったものが、放送で現在の人間の名を呼ぶ。


 返事をした者を、旧避難路の先へ連れていく。


 あまりにも整っていた。


 遼は一枚の紙へ、その筋書きを書いた。


 次の紙へ、反対の筋書きを書いた。


 移動者と所在確認者の母集団が違ったため、数字が一人ずれた。判読不能の名が転記のたびに水瀬、水無瀬、ミナセへ変わった。事故後、断片的な禁忌が一つの祭礼説明へ編集された。現在の申告者たちは、その説明を知った上で曖昧な放送を聞いた。


 こちらも、一つの話になった。


 だが後者だけでは、新しい防水テープを説明できない。


 前者だけでは、久世が答えない理由を人ならざるものへ任せすぎる。


 二枚のどちらにも、姉の現在地はなかった。


 野辺が赤鉛筆を取り、地図の線の横へ書いた。


〈道路は存在する。申告も存在する。両者の因果は未確認〉


「せっかく引いた線を消すんですか」


「消してない。線が何を意味するか、勝手に決めるなと言ってる」


 遼は旧N-03の写真を見た。


 機械が鳴ったことは、録音に残っていない。


 新しいテープが、誰かの作業を示している。


 その二つを、同じ証拠として扱ってはいけない。


 分かっていた。


 それでも遼には、地図の線が呼びかけているように見えた。


 湖から山へ。


 市街から旧鳴沢へ。


 そして、三つ目の曲がりの先へ。


 遼は地図を折らず、壁へ貼った。


 一本の線として見える距離から離れ、住所、受付時刻、事故経路、子局位置を別々の色で示した。


 赤い線は事故の避難路。


 青い点は現在の申告地点。


 黒い四角は旧N-03。


 色を分けても、形は消えなかった。


 だが形があることは、形に意思があることの証明ではない。


 瀬戸が別々の語りを一つの祭礼へしたように、遼も別々の記録を一つの地図へしていた。


 その地図を見た次の人間は、最初から一本の道があったと思うかもしれない。


 遼は地図の下へ、作成者名と作成日を入れた。


 〈相原遼・八月二日作成。仮説図。因果関係未確認〉


 姉なら、そうしたはずだった。


【記録照会問題 03】

夜回りの規則は、暗がりから名を呼ばれたとき、どのようにせよと結ばれていたでしょうか。


現代語へ言い換えず、記録に印刷された結びの句をそのまま照会端末へ入力してください。

ヒント:「返事をしない」を古い文体で記した言葉です。


正しく照合されると、1989年事故報告、祭礼復元前の聞き取り、寺院過去帳が開示されます。

https://nonamenonowork.github.io/narushiro-archive/


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