聞くたびにはっきりする
その夜、美緒から三枚目の文字起こしが届いた。
〈もう一度だけ聞きました〉
誰の音源を使ったのか訊くと、自分の携帯電話へ残した喫茶店での録音だと答えた。イヤホンから漏れた音を録ったものだった。
劣化した録音の、さらに劣化した複製。
〈おかえり、ではなく、私の名前かもしれません〉
遼は電話をかけた。
「もう聞かないでください」
「水城さんは何度聞きました?」
答えられなかった。
「聞くたびに、はっきりするんです」
「音が良くなるわけじゃない」
「分かってます。でも、前に聞こえなかったところが聞こえる」
「それは、知っている言葉を当ててるだけかもしれない」
「じゃあ、最初に聞いた母の声は、私が当てたんですか」
美緒の声は怒っていなかった。
本当に答えを求めていた。
「分かりません」
遼は言った。
「分からないから、これ以上聞かないでください」
「分かりました」
美緒は素直に答えた。
通話が切れる直前、食器の音がした。
遼は五枚の文字起こしを机へ並べた。
同じ時間位置に、違う言葉が置かれている。
違う言葉の周囲に、似た文型がある。
同じ音を聞いたとは言えない。
違う音を聞いたとも言えない。
文字にした時点で、全員が似た文章へ寄った可能性がある。
遼は比較表の下へ、その一文を書いた。
野辺が赤ペンで囲み、余白へ記した。
〈「似た文型」を最初に示したのは誰だ?〉
遼は答えを書けなかった。
自分ではないと思った。
だが、その確信を証明する記録もなかった。
【記録照会問題 02】
紗季の録音に混じった声は、沢道のどこで返事をするよう求めていたでしょうか。
答えは、本文に記された「漢数字+つ目」の形で照会端末へ入力してください。
ヒント:場所の名前ではなく、順番を示す三文字です。
正しく照合されると、複数の聞き手が残した文字起こしが開示されます。
https://nonamenonowork.github.io/narushiro-archive/




