表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未登録放送  作者: NoNaMe
12/25

紗季の文字起こし

 紗季の自己記録は、共有フォルダの奥にあった。


 音声ファイルと同じ階層ではなく、「照合前」の中の「私用」というフォルダに、写真として保存されていた。


 罫線のない紙へ、姉の字で書かれている。


〈さき。聞こえてるね。沢道を、三つ目まで。そこで返事をして。〉


 記録時刻は七月二十三日十八時十七分。


 遼が初めて再生するより十三時間前だった。


 同じ音の冒頭を、姉は「さき」、弟は「りょう」と聞いた。


 遼は写真を野辺へ見せた。


「姉さんが加工した可能性は」


「ある」


 野辺は簡単に答えた。


「お前が自分の名前を当てたのかもしれない。二人が同じ曖昧音へ別の名を置いたのか、最初から別の音だったのかも分からない」


「全部あるで済ませたら、何も調べられない」


「だから、一つずつ消すんだ。好きなものを最初に選ぶんじゃない」


 遼は五人分の記録を表へした。


 時間位置、話者、確信度、事前知識。句読点も原文のまま残した。


 美緒の最初の記録では「聞こえてる、ね」と読点が入る。紗季と遼は「聞こえてるね」。市職員は「聞こえてる」で切った。


 句読点は音にはない。


 聞いた人間が置いたものだ。


 それでも一度置かれると、文章の呼吸を決めた。


 御厨からメッセージが届いた。


〈さっきの文言、照合のため掲示板復元協力者へ送っていいですか〉


 遼は拒否しようとした。


 同時に、投稿031の書き手を見つけるには必要だと思った。


〈固有名を除く。音声は送らない。三つ目までの一行だけ〉


 そう返信した。


 野辺が画面を覗いた。


「何を送った」


「照合用の一文だけです」


「誰に」


「御厨です」


「取り消せ」


「投稿者が見つかるかもしれない」


「見つかる前に、その文を知ってる人間が増える」


「文字を見ただけで何か起きるって言うんですか」


「俺が言ってるのは取材の話だ。証言を集める前に模範解答を配るな」


 遼が送信取消を押したときには、御厨の既読が付いていた。


 十分後、御厨からスクリーンショットが届いた。


 復元協力者へ転送する直前の画面だという。宛先は伏せられていた。本文には、遼が許可した一行のほかに、御厨自身の注釈が付いている。


〈「三つ目」は沢道の分岐、または地蔵・祠等の数を示す可能性〉


「転送したんですか」


「取り消しました」


「既読は」


「付く前です」


「確認できますか」


 返答が止まった。


 十五分後、御厨は送信履歴の動画を送ってきた。画面録画を開始した時点より前の操作は映っていない。


 証拠にならなかった。


 遼はそう伝えた。


〈では、水城さんが私へ送った時点から汚染ですよね〉


 言い返せなかった。


 御厨だけを疑うには、遼自身が多くの人間へ録音を聞かせすぎていた。


 紗季が残した複製を、弟が記事の材料にし、記事の材料を得るためにさらに複製する。複製のたびに音質が落ち、説明が足され、聞き手が増えた。


 それでも原本へ近いものを持っているのは自分だ、と遼は考えていた。


 その考えを表の「確認済み」へ入れかけて、やめた。


 姉の携帯電話がない以上、遼が持つファイルも原本ではない。


 共有フォルダから取得した、出所不明の一つの複製だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ