第二話 絶望の光
第二話 絶望の光
俺……夏目順は死んだ。
トラックに引かれて……。
宙を舞い、姫乃の目の前で死んだ。
姫乃はどうなったんだろうか。
助ける事はできた……けれど、彼女はまた、一人になってしまった。
俺が死ななければ、
まだ、アイツが生きてさえいてくれれば、姫乃は生き地獄にならずに済んだのかもしれない……。
しかし、過ぎた事を悔やんでも仕方がない。
今は自分の事を考えなければ……。
今、俺は何も無い暗闇を歩き続けている。
足の裏の感覚は深海のように冷たく、何も見えず、何も臭わない。
手元も見えない暗闇を彷徨い始めて何時間が経っただろう……。
時間の感覚も消えている。
何秒、何時間、何日。もしかしたら何年もここをさまよい続けているのかも。
俺は不安に駆られた。
どこへ向かっているのかもどのくらいの速さで進んでいるのかも、分からない。
そもそも、進んでいるのか?
今は、分からないことでも進み続ける事が大事だと俺は思う。
俺は自分で決めた教訓を心の命綱にしていた。
……彷徨い始めて、3日……いや、7日。
ようやく視界の端に一筋の光が見えた。
この7日間腹も減らず、体力も減らず、ただ歩き続けていた事を考えて俺は完全に死んでいる事が分かった。
分かりきってはいたが、改めて確認……もしかしたら、と考えていた希望が潰えたという感じだ。
一筋の光は明るく眩い。
この暗闇の中で突如として現れた。
太陽が登るようにゆっくりとでもなく、ただ目の前に存在していた。
まだ、俺の希望は潰えていなかった。
その光は希望を孕んで、ここは精神世界で俺は仮死状態という可能性を。
その光にただ、進むだけ。
俺が近づく度、光はその体を大きくさせる。
近づいて行っている証拠だ。
─────────
夢中になっていた俺は隣に赤く輝く光に気づかなかった。
心臓が、その光に反応するかのように1度だけ大きく脈打った。
俺は歩き続けながら深く考えた。
どちらに行けば良いのか。
悩んでも悩んでも、考えは至らなかった。
だからこそ、ここは運に任せる事にした。
運は昔から強い方だったし、それに俺は運命はあると信じているから────!
俺は右利きだからという理由で新たに出来た赤い光を目指し方向転換した。
すると、不思議な事にさっきまで追いかけていた光はどこかへ消えた。
もう何日が経ったかも忘れた頃、ようやく赤い光の元にたどり着く寸前までに来た。
赤い光は今もなお、眩い光を放ち俺のゆく道を照らしている。
光の根元が見えた。
根元には何かが……確かに何かがそこにはあった。
建物……
人がもしかしたらいるのかもしれない。
もし出会ったら、何を話そう?
この場所について。
ここはどこなのか。
どのくらいここにいるのか。
とか。
俺は内心、興奮していた。
ずっとひとりで戦ってきた俺は孤独で死にそうだった。
その事を、話せる────笑える─────。
話し合える!
俺の足はいつの間にか早足になっていた。
こんなにも人に会うことが楽しみだと思ったのは生まれて初めてと言っていいほど
興奮していた。
だから、だろう。
こんなにも絶望を感じたのは。
段々近づいていく度に家の数が増えていった。
ひとつ───ふたつ────みっつ────。
しかし、動く人影は無かった。
やがて、疑問に思えてきた。
何故、家が赤く光っているのか。
あれだけ遠くからでも見えたのか。
何故俺はこの光に惹かれたのか。
答えは明らかだった。
この家は、家だったものは……。燃えていた。
灼熱の炎に包まれ、焼け続けていた。
人はいた。
そう。いたのだ。
十字に建てられた丸太に吊るされた白骨死体が、何本も立ち。
これもまた、炎に包まれ
死に絶えていた。
人が居た形跡だけが、目に留まった。
さっきまで抱き続けていた希望が灰となって崩れ落ちる音がした。
そして、また疑問が浮かび上がる。
この人達は死んでいる。
しかし、俺はどうだ……。
炎に焼かれるどころか熱さも痛みも、焼ける匂いでさえ何も感じない。
ただ、パチパチと火花が散る音だけが聞こえる。
俺は泣き出した─────
今まで信じ続けていた希望が消え、前まで追っていた光も踵を返して、
俺の目指していた物はただの燃えかけの骨と木だけだった。
「ど……どうして……こんな……」
嗚咽しながら俺は自分の誤ちを呪った。
燃える炎は猛々しく、それはそれは、美しく感じた。
炎は俺を見つめる─────。
俺も炎を憎たらしく見つめ返す─────。
お前、面白いなぁ─────
誰かの低くドスの効いた声が俺の耳ではなく、脳に響いた。
すると、家を燃やし続けていた炎は吸い込まれるかのようにして俺に集まった。
俺の体に吸い込まれるようにくっつき、体は麻酔が切れたかのように感覚を取り戻した。
感覚は酷く冴え、炎の温度を確かめさせる。
っ!熱い!────容赦のない炎の猛攻が俺へと牙を向ける。
その炎に数分としないうちに慣れた。
ふぅー、ふぅーと息を切らして熱さに耐える。
息を切らす事も、熱さを感じることもさっきまでは無かったのに、息を吹き返すかのようにして戻った。
辺りを見ると、一面焼け野原だった火が全て消えていた。
俺の中に入ったのだろうか。
今のは一体何が起こったのだろう────。
悶々と考えているうちにまた、視界の端に光が見えた。
今度は今までのとは違い、近くに大きく出た。
距離感はあまり分からないが近いことは分かる。
仕方ない────そう思った。
俺の目指す場所はここじゃない。
俺の目指す場所はあの暖かく楽しい、姫乃達が笑って、アイツがおちゃらけて、俺も笑って……。あの懐かしい日常だ。
今来た道を戻ってもその先にアイツや姫乃のいるところでは無い──。
それだけは確かだ。
だからこそ俺は進み続ける。
あの日常を取り戻すために───
姫乃達のいる場所へ戻るために─────!
俺は走り出した。
足は今までとは違い軽く、
今まで何時間とかかった道のりを数秒で駆け抜けれるほど、軽やかで
今までが遅かったと感じる。
全力で夢中になって走り続けた。
ここが俺のスタート地点だと、確信していたからだ。
止まったら、もう二度と走り出すことは出来ない。
そんな気がした。
だからだろうか、気づかなかった……。
俺が近づく度に体が小さく、年齢が若くなって行っていることに。
俺は視界に入った手を見つめる。
俺の手が小さくなっている。
「え……。」
しかし俺は進む足を止めない。
俺の胸の中で誰かが「進め」と叫んだ。
あの光に届けさえすれば俺に何かが起こる。
気がするんだ。
だからこそ、気にも留めず走り続けた。
俺が光の根元に着いた時、俺は赤ん坊で四つん這いになって地面を這っていた。
高くそびえ立つ光の柱に入っていった。
その頃の俺は赤ん坊としての原型も危うい状態だった。
中に入った瞬間、真っ逆さまに落ちた。
光で目が開けられない……。
地面は……壁は……どこだ……。
俺の意識は段々と薄れていった。
「……────……────
─────!・・・・・・・!──────!」
「────・・・・!」
訳の分からない言葉が飛び交う。
その声で視界は暗転した。
目を開けると俺の目の前には大きな顔があった。ヨーロッパ風の顔立ちの男女が俺の顔を覗き込んで泣いていた。
何してんだ!?
ヤバいって!!
知らない俺にこんなに泣くやついないだろ!?
「────……!」
なんて言っているのかさっぱりわからん。
近くには白衣を着たお医者さんが後始末をしている。
ここはどこだ?日本語で一応聞いてみるか。
「あーーーーあぅ。」
!?
声高ぇ!上手く発音できない!?
どうなってる!?
俺はまさかと思い、手を見た。
やはり、俺の予想は的中してしまったみたいだ。
俺の手は豆粒程しかない、小さく弱々しい手をしていた。
周りを見渡す。
知らない天井、知らない部屋……。
知らない人達……。
これは巷で人気のあの……。
ラノベでよくある。
生まれ変わり!?
つまり……俺は転生したということか!?
俺はまだ、知るよしもなかった。
俺の身に何が起こるのか、炎とは何なのか
あの声は誰だったのか。
炎と魔力、そしてスキルに振り回され、「炎」によって変わる俺の運命────
俺はまだ知らない。
歴史に名を刻む、英雄になることになる事も。
俺の激動の人生の幕開けだ。




