第三話 父親への憧れ
第三話
俺が生まれて一ヶ月の月日が経った。
どうやら俺は転生したらしい。
その証拠にあんなにムキムキ(自称)だった俺の体が、
今となってはこんなに可愛らしいぷっくりとした、丸々ポティになってしまった。
俺の努力が!!くそぉ!
まぁ、今世でも筋トレはするつもりだから別にそんなに気にしていない。
今すぐにでもブッシュアップでも始めたいが、
まだ、ハイハイもままならない。
しかし。揺り籠から見てわかった事がいくつかある。
俺の家は大体が木材で出来ている。
それも、オークなんかの木材で出来ているみたいだ。
壁は漆喰を表面に貼り付けてあり、家の隅の方の漆喰が剥がれ中の土壁が見え、木材の柱やはりが壁から露出している。
まさに中世ヨーロッパで、劇団〇季の背景で使われそうな家をしている。
外からは馬車が通る音や人の声が多く聞こえる。
比較的都心部に近いのだろう。
電化製品は無く、明かりはロウソクかランタンを使っている。
俺はどこに転生したんだ?
中世ヨーロッパなら、ナポレオンに転生して、ヨーロッパ全土の支配者になりたいな。
かっこいいよなやっぱ。
母親と父親の服装は少しザラザラとした、なんだっけ?……ウールーだと思う。
あまり、お金持ちには見えない。
家は少しボロいし、服装はザラザラとしたものが多い。
現代日本と比べたら、正に月とすっぽんだ。
やはりここは、中世ヨーロッパなのだろうか。
ナポレオンって平民生まれだったか?
後で調べて……って、スマホもないんだった……。
言語はまだ、おはようぐらいしか覚えられないな。やはり中学時代、英語が毎年1の俺には言語を覚えるなんて難しいことなのだろう。
それから、俺のご飯は基本的に母親の母乳だ。
正直言って内心めちゃくちゃ恥ずかしい。
なんだろう、しちゃいけないことをしている気分になる。
しかし、性的興奮は赤子なのだから皆無だ。
皆さんご安心を。
半年の月日が経った。
俺の体の経過は順調で、健康児そのものだと言えるだろう。
最近になって、言語も日常会話程度は分かるようになった。
四六時中聞いていれば何となく動作でわかるものだ。赤子だから、物覚えも異常に早い。
なんとハイハイが出来るようになった。
移動ができることはやはり素晴らしい。
これでやっとプッシュアップが出来るぜ!
まぁ、プッシュアップした瞬間に俺の腕が壊れちまうけどな。
それから、これは気のせいな気もするが、生まれてから、空気がとても美味しい。
空気が汚れた、現代社会の東京に住んでいたからなのかもしれないな。
今日も俺はこの家の探検と洒落こもう。
寝室を飛び出し、廊下へ出たところで大きな壁に当たった。いや、脚だった。
「おー!どこに行くんでんでちゅか?ジュンちゃーん!」
俺の脇を軽く持ち、ひょいと持ち上げる。
俺を抱き上げたのは、見た目は好青年茶髪イケメンの父親。
口を尖らせて俺の頬にチューをする。
こいつが、俺の父親アンデだ。
普段は正に好青年と言えるが、俺の前だと親バカになってしまう。
ほんと気持ち悪いほどに。
アンデはいつも家に居て、俺の世話をしている。
きっと、この顔で無職なんだ。
可哀想に……。
しかし、コイツの作るご飯はマジで美味い。
基本的に何でも作れるらしいが、
俺はまだ少ない粥ぐらいしか食べたことがないが、粥ですらクソ美味い。
それから、俺の名前はジュン。
ジュン・クリスティアと言うらしい。
何の因果か、俺の名前は前世と同じジュンになった。
どうしてだろう、どこか悔しいような懐かしいような気持ちになる。
ここでは、ジュンちゃん、ジュンくんなどと呼ばれている。
苗字と名前の間にヴァンや国の名前が入ると王族や貴族で、変な長いのは民族系統らしい。
そうだ、母親は今どこにいるのだろうか。
おしめを取り替えてもらいたい。
さっき思いっきりやっちまったから、とても気持ち悪い。
アンデから降りるために、アンデの左頬に渾身の右ストレートをキメる。
しかし、猫パンチぐらいの威力しか出せずに俺の渾身のパンチは撃沈した。
下に降りたいとアンデに合図をするとアンデは快く引き受け、俺の頬にキスをした。
うぇー。
下の階へ降りると、母親がキッチンに立ち、料理をしていた。
木でくべた竈の火の上で鍋がグツグツと煮立っている。
「美味そうだな。」
青年モードに切り替わったアンデが彼女に聞く。
「今日は、シチューを作ったの。」
彼女の名前はマリア。
聖母の名前を語る不届きものかと思いきや、性格は聖母のように優しかった。
俺はその息子、キリストというわけだ。
いや、やめよ。磔にされちまう。
二人とも、二十歳かそれぐらいの年齢に見える。
とても仲が良く、喧嘩しているのを見たことがない。
母親と父親は二人とも金髪に近い茶髪をしている。
俺の住む街は、大きな港町でとても栄えていた。
大きな馬車や、漁船の往来が激しく、街が賑わっていた。
窓から周りの家を見ても俺の家に匹敵する家はほとんどなく、家の財力が分かる。
この家は、貧乏ではなかった。
家の中には中庭があり、大きな岩と木が植えてあった。
「ご飯できたよー。」
マリアからの合図で、アンデは素早く動き出す。
食器を出し、スプーンとフォークを取り出して、座る場所に並べた。
長方形のテーブルの俺の横にマリアが座り、テーブルのお誕生日席もとい、端にアンデが座っている。
これは、アンデが一家の象徴、一家の大黒柱というのを表している。
今日のご飯はいつも通り少ない粥だ。
まだ、生まれて半年程度しか経っていないのだから、仕方がない。
が、骨付き肉が食べたいよぉー。
席に座り、カチャカチャと食器が擦れる音が響く。
何気ない会話や、仕事の会話をしているのだと思う。
が、俺にはまだ、分からなかった。
しばらくして、全員が食べ終わった頃、家のドアに3回ノックがかかった。
「俺が出るよ。」とスマートに立ったアンデはスタスタと扉に向かって歩き出す。
扉の外には少し無精髭が目立つ中年のおっさんが立っていた。
アンデとは顔見知りらしく、少し気を楽にして話す。
「どうかしたのか?」
「それが……。アイツら───の──になってしまって、────の───を頼むよ。」
難しい言葉が混在しており、上手く聞き取れない。
それと同時に血糖値が爆上がりしたせいか、眠気が襲ってきた。
ウトウトと首をカクンカクンとされる俺を見かねたマリアが俺を抱っこする。
背中をトントンと優しく、触れるように叩く。
その心地よい場所は世界中ここだけだと、確信した。
俺はそのまま、眠りこけてしまった。
目が覚めるとそこは知らない森の中だった。
日はすっかりと落ち、辺りは真っ暗となっていた。
アンデとマリアは黒いローブを身に纏っている。
アンデの前には一人、誰かが先導している
マリアは俺を抱き抱えながらローブを着ていた。
明かりは手元のランタンしかない。
しかし、辺りは20メートルほど先まで照らせるくらいに明るい物だった。
下草が膝まである、森の獣道をどんどんと進む。
するとやがて、開けた川のほとりに出た。
そこには、キャンプをした後と、さらに、真っ赤に染った血痕があった。
その匂いは強烈で鼻が曲がりそうだった。
マリアはすぐに俺の目を隠した。
しかし、ローブの隙間から俺は周りを見る。
「ここだな。」
アンデが低く、気を引き締めた声で聞く。
「あぁ、ここであったんだ。」
「さっさと片付けようか。」
何を片付けるのか俺は一切知らされていない。
何をするのかも、なんで俺がここにいるのかもまだ、分からない。
その時だった。
林の中から体が緑く、耳が尖っており、汚い服を着た見るに堪えない動物が何匹か現れた。
────そう。ゴブリンだ。
!?
この生き物って、ゴブリンなのか!?
ここはつまり!まさか!異世界ということか!?
そのゴブリン何匹かに続いて茂みに隠れていたゴブリン達が出てきた。
その数総勢15匹程になる。
更に、奥からはでかい腹に、棍棒を持った豚の頭をした全長2メートル程ある生き物、オークが姿を現した。
やっぱりここは異世界だ!!
俺はそう確信した。
しかし、興奮と同時に俺の頭に不安が過ぎる。
あの巨大な怪物が襲いかかってきた時、俺は本当に戦えるのだろうか。
このような、不気味でファンタジー溢れる生き物は俺の元いた地球では考えられない事だ。
だからこそ、俺の心臓はひどく脈を打っていた。
アンデとフードの男はフードを脱ぎ、俺たちを────もとい、正確にはマリアを守るような臨戦態勢に移った。
フードの男は寝る前に見た無精髭の男だった。
アンデは腰の剣を振り抜き、地面を蹴って飛び出した。
瞬きする間に相手の懐にいたアンデは一振りでゴブリン2匹の頭を斬り飛ばした。
アンデの行動はとてつもなく早く、瞬きをする間にどんどんとゴブリン達を切り伏せていく。
無精髭の男は小さな杖を取り出し、小さな岩を操りゴブリンの頭にぶつけ、潰した。
あれはサイコキネシスなのか!?
しかし、俺の知ってる斉木楠〇のような超人と違い、杖を使いやっとの思いで動かしたように見えた。
そこには、違いがあるけどもサイコキネシスなのは間違いない。
あっという間にゴブリン達を一掃したアンデは最後の一匹のオークを倒しにかかる。
オークが横に大きく棍棒を振り回す。
しかし、アンデは素早い身のこなしで避ける。
腕を大きく振り、隙の空いた腹に剣を突き立て、縦に真っ二つにした。
オークの赤い血が、噴き出す。
俺はアンデの事を無職のイケメンぐらいにしか思っていなかったが、俺のアンデへの評価が変わった。
俺はアンデに強い憧れを持つようになった。
その後の処理は淡々と済んだ。
オークとゴブリンの耳を切り取り、袋に詰めて、別の袋から出した紙を使いオーク達の死体を焼いた。
焼いた匂いは少し香ばしく、やはりオークは豚に近い生き物だと改めて分かる。
無精髭の男に耳の入った袋を渡し、俺達は帰路に着いた。
家に帰ってからは、普通の生活に戻った。
昼の残りのシチューを平らげ、ベッドに横たわる。
二人は疲れたのかすぐに寝てしまった。
しかし、俺の目はすっかりと冴えわたり、その夜は眠れなかった。
次の日、俺の前に真剣な顔をしてアンデが話す。
「忘れるかもしれないが、一応説明しておこう。
うちの子は賢いから覚えるかもしれないしな。」
と、前置きを入れて話し始める。
「昨日会ったのはゴブリンとオーク。
アイツらは人間を、襲うマジュウという生き物だ。」
「そして、フランクが使っていた技術、それはスキルという。マリョクを体に通してできる、生まれつきの異能。」
マリョク!?スキル!?
ワクワクが止まらない……!
あぁ、フランクってあの無精髭のおっさんか。
「誰しもが持っている物だ。もちろんお前もな。
そのスキルやマリョクが強い人達があの、マジュウを倒す職業がボウケンシャという仕事だ。」
ボウケンシャ!?冒険者ってことか!?
俺の目はずっと見開いたまま、動かなかった。
「どうだ、少しは興味持ったか?冒険者について。」
俺は首をコクンコクンと二回縦に振った。
こんな話を聞いて興奮しないやつはいないだろう。
これからが、楽しみだ!
この異世界での生活が、この経験が
きっと俺の冒険の始まりになる。
そんな予感がした。
The補足
ランタンは魔石という、魔力を込めるとより明るく光る石となってます。




