第2章 第47話 粒の大きさをそろえる
第2章 第47話
粒の大きさをそろえるっz
粒の大きさが違えば、土魔術で受ける沈み感も変わる。
そのことを、ソーマは机の上の木札を見ながら、あらためて思い知らされていた。
川上・水洗い後乾燥・白砂。橋下・粗粒分画・磁鉄鉱接近で動きあり。橋下・粗粒分画・目視できる動きなし。金候補一・川砂由来・比較継続。
黒い粒でも、大きさも形も違う。小さな粒を深く感じたからといって、それだけで重い、あるいは密度が高いとは言えない。紙に触れる面積や、粒の角ばり方も、土魔術の感覚に混じるからだ。
フェルド老師は、机へ三つの道具を並べた。
目の粗いふるい。目の細かい布。昨日買った蓋付きの浅箱。
「今日は、比べる前に粒を分ける」
「同じ大きさにそろえるためですか」
「完全に同じにはできん。だが、大きく違うものを同じ箱へ入れないだけでも、比較はましになる」
老師は、橋下で採った砂のうち、まだ磁石試験にも沈降試験にも使っていない袋を示した。
橋下由来。水洗い後乾燥。粒径分け用。未試験。
「今日はこれだけを使う。すでに磁石試験をした袋や、比較継続中の金候補には手を出すな」
「はい」
まず、ふるいを浅箱の中へ置く。試料は木匙ですり切り一杯だけ、ふるいの中央に載せた。蓋を閉めてから、箱ごと一定の幅で十回、ゆっくり揺する。
ふるいに残ったのは粗い粒。下へ落ちたのは、それより小さな粒だった。
ただし、細長い粒は小さくても残り、丸い粒は少し大きくても落ちる。
ソーマは、木札を二枚用意した。
橋下由来・粗粒分画。ふるい残り。形状混在。
橋下由来・細粒分画。ふるい通過。形状混在。
ユーリが浅箱を覗き込んだ。
「風で、同じように揺らせないかな」
「箱の中なら、昨日より安全かもしれません」
ナーシャが言うと、フェルド老師は頷いた。
「試料を失ってもよい量だけで試せ。風の強さは、自分で言葉にして記録しろ」
新しい紙包みから、木匙半分の砂を出す。ふるいと一緒に浅箱へ入れ、蓋の隙間からユーリがごく弱い風を一度だけ流した。
粒はふるいの上を移動した。細粉も箱の内側へ舞い上がる。
外へは出なかったものの、ふるいを通った量が増えたのか、壁へ付着しただけなのかは分からない。
ソーマは記録した。
風補助。浅箱内。木匙半分。ユーリの弱い風を一回。細粉が箱内で舞う。外部への飛散なし。ふるい分けへの効果は判定不能。箱壁付着あり。
「風を使うなら、粉の行き先だけじゃない。箱に残った粉をどう回収するかも決めないといけません」
ナーシャは、蓋の内側を指した。
「ここに付いた粉も、元の試料の一部ですから」
ユーリは頷いた。
「風を弱くしても、消えるわけじゃないんだな」
「うん。今日は、風を使わない分け方を基準にする」
次に、目の細かい布を使った。
細粒分画から木匙半分を布へ載せ、木のへらで一度だけならす。布の下へ落ちた粉と、布に残った粉を別々の小皿へ受けた。
細かな粉は布に残ったが、布の目はすぐ詰まった。少し湿りを含んだ粒は繊維へ貼りつき、へらでもきれいには取れない。
ナーシャは、これは回収方法の確認用だと断ってから、別に取っておいた少量の試料で水洗いを試した。
洗い水は小皿へ受け、布に残った粒と分ける。
「水を使えば、布はきれいになります。でも粉は水へ移ります」
ソーマは三枚目の木札を書く。
橋下由来・細粉分画。布残留。
橋下由来・細粉分画。洗い水へ移動。乾燥待ち。
「布は、捕まえる道具ではあります。でも、回収まで終わらないと分けたことになりません」
ナーシャは、いつもの柔らかな声で言った。
沈降鉢では、ふるいとは別の分け方を確かめた。
同じ橋下由来の未試験砂を、木匙すり切り一杯だけ鉢へ入れる。水瓶の水は青線一目盛り分。水温は未測定。陶管の先を鉢の壁へ近づけて水を注ぎ、木の匙で同じ向きに三回だけ混ぜた。
砂時計を返し、砂が四分の一、半分、一回分まで落ちた時に、水の濁りと底の粒を見る。
大きな粒の多くは先に底へ落ちた。細かな濁りは、水の中に長く残る。
けれど、小さな粒が必ず遅く沈むわけではない。重さや形、表面の状態によって、沈み方は変わる。
「沈む速さだけで、粒の大きさも重さも決められませんね」
「その通りだ。沈降は、一つの手がかりにすぎん」
ソーマは、鉢の外から土魔術を弱く伸ばした。
つかまない。引き寄せない。ナーシャに教わったように、水を窓として、その向こうを見る。
底へ落ちた粗い粒は、ひとつずつ気配を追える。だが、水中に広がる白い濁りは違った。一粒ずつではなく、広がったざらつきとして、土魔術の感覚へ伝わってくる。
「細かすぎる粒は、個別には読めません」
「なら、どう書く」
「個別認識不可。水中の濁りとして感知。土魔術では、広がりのあるざらつきとして感じる。沈降時間ごとの変化を見る必要あり」
「よい」
午後は、粒径の近い試料を並べ、土魔術の沈み感を比べた。
使うのは、川上・水洗い後乾燥・白砂の中粒、橋下・粗粒分画・磁鉄鉱接近で動きありの中粒、橋下・粗粒分画・目視できる動きなしの中粒である。三つとも、見た目の大きさが近いものだけを選んだ。
金候補一は、ほかより小さい。比較の列には入れず、別の紙片に置いて参考としてだけ確かめることにした。
紙の四辺を折って浅い箱にし、試料を一粒ずつ離して置く。フェルド老師が順番を決め、ソーマには木札を見せない。
ソーマは目を閉じた。
白砂は浅いところに留まるように感じる。磁鉄鉱に反応した黒粒は、硬く詰まった印象がある。反応しなかった赤黒い粒は、やや鈍い。
だが、三度目に順番を変えられると、二つの黒粒を取り違えた。
形が似ていた。集中も落ちていた。
ソーマは誤答をそのまま書く。
沈み感による比較、三回目。磁鉄鉱反応黒粒と非反応赤黒粒を誤認。粒径は近いが、形状と疲労の影響あり。沈み感だけでは識別不十分。
別に置いた金候補一は、小さいのに深い位置にあるように感じた。
ただし、大きさがそろっていない以上、黒粒との比較には使えない。ソーマはそのことも書き添えた。
次は、熱だった。
フェルド老師は、同じ大きさに切った銅片、鉄片、焼いた陶片を用意した。三つを室内に置いて温度をそろえ、同じ温石の平らな面へ並べる。温石に触れる面積と、置いた時間もそろえる。
これは黒砂を判定する試験ではない。
大きな基準片で、熱を受けた時の違いを土魔術で感じ取れるかを確かめる練習だった。
時間を決めてから、ソーマは直接触れずに土魔術を向ける。
銅片は、温かさが全体へ広がるのが早いように感じた。鉄片はそれよりゆっくりで、陶片は温かさが一部に留まるように感じる。
だが、これは土魔術で得た感覚であり、熱の性質を正確に測れたわけではない。
黒粒と金候補一にも同じ試験を試みたが、小さすぎて差を安定して追えなかった。
ソーマは記録する。
温石による予備観察。同寸法の銅、鉄、陶片では温まり方の違いを感じた。粒状試料では判定不能。粒径、形状、温石との接触面の影響大。黒砂の識別には使用不可。
「できないことも増えましたね」
ナーシャが言う。
「はい。でも、できない理由が前より分かります」
「それは、少し進んでいます」
最後に、フェルド老師は光札の端材を一枚取り出した。セラが使う情報札の失敗品で、魔力を通すと表面の線がごく弱く光る。
「電気を調べるものではない」
老師は先に言った。
「光札が何にどう反応するかを見るだけだ。物そのものの性質か、表面の状態か、魔力との相性かも、まだ分からん」
乾いた銅片、鉄片、陶片を同じ大きさにそろえ、表面を布でぬぐう。光札の端を同じ位置へ触れさせ、フェルド老師が同じ程度の魔力を流した。
銅片では、線の光がわずかに先まで伸びた。鉄片では短く、陶片ではほとんど変化がない。
濡れた粘土片では、線の周りにぼんやりした光が広がった。
ソーマは興奮しかけて、すぐに記録の紙束を開いた。
光札端材の反応観察。電気伝導率ではない。同寸法、乾燥した銅、鉄、陶片で反応差あり。濡れた粘土では表面に光の広がり。水分、表面状態、魔力の流し方の影響は未分離。判定法未確立。
黒砂には使わない。小さな粒では接触面もそろえられず、光札の反応だけを比べても意味が分からないからだ。
それでも、記録する項目は増えた。
採取場所。前処理。粒径分画。磁石への反応。沈み感。沈降の様子。熱の予備観察。光札の反応。
夕方、机の上には小さな紙包みと木札が増えていた。
橋下由来・粗粒分画。橋下由来・細粒分画。橋下由来・細粉分画・布残留。橋下由来・細粉分画・洗い水へ移動・乾燥待ち。
ユーリがそれを見て、苦笑した。
「粒をそろえる話だったのに、また増えたな」
「分けたら増えた」
「最近、そればっかりだ」
「でも、前より混ざっていない」
ソーマは紙包みを見下ろした。
粒の大きさをそろえることは、きれいに並べることではない。
何と何を比べられるのか。何を比べてはいけないのか。
その境目を作る作業だった。
見えない細粉も、熱の違いも、光札の反応も、まだはっきりとは掴めない。
けれど、掴めないものを、掴めないと書ける。
それが今の進歩だった。
フェルド老師は最後に、短く言った。
「次は、普通の土魔術を見に行く」
「普通の土魔術、ですか」
「お前は土を読みたがる。だが、世の土魔術師が何をしているかを知らん。ロッカに会わせる」
ソーマは手元の黒い粒から顔を上げた。
土属性。
五歳の頃、自分を小さくした言葉。その中身は、今少しずつ変わっている。
読む土魔術。掘る土魔術。寄せる土魔術。固める土魔術。
違いを知ることも、きっと次の条件になる。
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感想も一つ一つ楽しく読ませていただいています。
また次話でお会いしましょう!




