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まだ君に夏を返せていない  作者: 夏凜


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3/11

大人の狭間

五月の終わり。


めいは夜のコンビニで、偶然健を見かけた。

制服ではなく、黒いパーカー姿。


その周りには派手な男たちがいた。


煙草の匂い。

笑い声。


健は無表情だった。


気づかれないようにそっと踵を返した。


はぁはぁはぁ…

途中から走ったからか心臓がドクドクいって苦しい


「何アレ」


思わず声に出た。

相変わらず静かな家に心臓の音だけが響いていた



翌日。


登校すると健の姿を見つけた。

相変わらず気怠げで田辺が楽しそうに話していても

素っ気ない返事しかしていない。


「勝浦く〜ん、田辺く〜ん、何話してるのぉ?」


友香がニコニコしながら話に加わった


「もうっ、田辺くんったら調子いいんだからっ。ねぇ勝浦くんっ!田辺くんに言ってやって〜」


「えー、友香ちゃんそりゃないよ〜」


「きゃー、名前呼びっ!じゃぁ私も誠くん健くんって呼んじゃおっ」


そんな会話が聞こえてきた。

うるさい、静かにして

イライラしながら机に突っ伏してイヤホンをつける

なんの音楽が流れているのか理解できないほどの頭痛


本当帰りたい。毎日学校きてなんの意味があるんだろ。何してんだろ私。


「おーいいつまでしゃべってるんだー?朝のHR始めるぞ、席につけー!!」


テンション高い担任の声を聞いて

余計頭痛がひどくなった。

ダルイ、帰りたい。

そんな思いを抱えたまま授業が進んでいく


昼休みになると健は教室から静かに出て行った。

田辺誠も友香も気づいていない


そっと後をつけると学校の屋上にでた。

健に近づき声をかける


「昨日、誰といたの」


少しの沈黙


「…見てたんだ」


「……うん」


「別に。知り合い」


「知り合いにしては派手だった。普通の知り合い?」


すると健は、少しだけ笑った。


「普通ってなに」


その笑い方が寂しく見えた。

めいは何も言えなくなる。


風だけが吹いていた。


やがて健が言った。


「俺ん家、かなり借金あんだよ」


ひゅっ。めいの喉が鳴った


「親父が作った借金。だから夜働いてるだけ」


「親の借金なのに?」


「俺がその子どもだから」


「高校生なのに?」


「高校生だから。だろ。」



その言葉には、妙な現実味があった。

子どもなのに、大人みたいな顔。

誰にも助けを求められないと知っている目。

気怠げな雰囲気。


めいは初めて、健という人間を少し知った気がした。


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