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まだ君に夏を返せていない  作者: 夏凜


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10/11

置いて行かれた心

冬になっても毎日、防波堤へ行った。


海を見る。


何も変わらない波の音。

でも、現実だけが変わっていく。


ある夕方。


「……久しぶり」


懐かしい声に驚いて顔を上げた


「もう来ないかと思った」


「来ないつもりだった」


健は海を見たまま言う。


「俺、お前といると普通の高校生になりたくなる」


その声は震えていた。


「でも普通って、努力してなれるもんじゃねぇんだな」


めいは首を振る。


「違う」


「え?」


「普通じゃなくていい」


涙が溢れた。


「苦しいなら苦しいって言ってよ」


健は黙っていた。


ずっと、一人で耐えてきた顔だった。


誰にも迷惑をかけないように。

誰にも期待しないように。


その孤独が、めいには痛かった。


「…友香とは付き合ってるの?」


首を横に張った


「なんで?だって一緒にいたじゃん!友香だって言ってたじゃん!!」


「あれは…」


しばらく沈黙が流れた

ふぅ。と一息吐いた健は意を決したような顔で言った


「毎日来てたのは本当。でも相手にしてなかった。それでも毎日待ち伏せされてた。あの日も待ち伏せされて付き纏われてた時だった」


「じゃあなんで…なんで否定しなかったの?」


「言えなかった。何も。否定してもお前を繋ぎ止めることは出来ないし迎えにもいけない。無力なんだよ」


「無力ってなに?私は…わたしはっ!!!健が隣にいてくれるだけでよかったのに!!それだけなのに!!勝手にきめないでよ!!」


「ごめん…」


「勝手すぎるよ!なんで?どうして?一緒に旅行に行こうって言ったじゃん!!どうしてそばにいてくれなかったの?」


最後は消えそうな声でそう問いかけた


「自信がなかった。色々バレて高校もダメになって、仕事もクビになって。普通の高校生でもない、自分で稼ぐこともできない、そんな自分を見せたくなかった」


「それでもっ!健がいてくれるだけで良かったんだよ」


「うん…」


ごめん。

と言って健は俯いた



2人の間に沈黙が訪れる



「…今は?」


ん?



「今は何をしてるの?」


「あぁ、仕事探してる時に出会った親方の元で働いてる。土木関係だよ」


「そうなんだ…」


どちらも俯いたまま静かな時間だけが過ぎた

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