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「道明寺どいていろ!」
あのいつもの若々しい深見の声ではなく獣の唸る様な重低音の声が晶に浴びせられる晶は何が起こっているのか理解できず目を見開き恐る恐る深見を見上げた、深見の漆黒に染まる眼球には表情の引き攣った晶が写っていた。
「あっ⋯いや、これは⋯」
「何すんねんおっさん、ウチのサラの服が台無しや」
雪音の声が何処からともなく聞こえてきた、声の方向を見ると服に空いた穴を手でさすりながら雪音が恨めしそうな顔で深見を睨んでいた、深見は獲物を狙う猫科動物特有の前傾姿勢で脚に力を溜めていた、晶は止めるべきであるシチュエーションではあるが何の装備もない状態で化け物の間に割って入る勇気はなくただ交互に雪音と深見を見ていた。
「おっさん止めとき、おっさんにウチは天敵や怪我せん内にお姉ちゃんの説明聞いたらどうや」
「黙れガキが」
「はぁ⋯これが老害ってやつやな、悪いけどウチおっさんより年上⋯」
雪音が言い終わる前に深見が目の前を疾風の如く横切り晶は驚き椅子ごと後ろに倒れた、深見は雪音に飛びつくと首元に噛み付いた、晶は倒れたまま視線だけで深見を追った雪音の上半身は深見の身体で覆い隠されており何が起こっているか大体の想像はついた、到底人間の所業ではなかったその攻撃方法だけではない大の大人が子供に飛び付き頸動脈を噛み切ろうとしているのだ、これではどちらが善でどちらが悪か判ったものではなかったがそもそもこの場を善悪二分する事など晶には無理であった、深見がゆっくり姿勢を起こすとその陰から雪音の顔が徐々に見え始めた晶は白肌を血で染める凄惨な情景を想像していたが当の雪音は人差し指でこめかみを掻き余裕の表情、よく見ると深見は姿勢を起こしているのではなく天命を終え落下する蝉そのものだった手足は少し曲がり硬直し顔は正面を向いたまま床に落下した。
「えっ?」
最悪の状況を望んでいた訳では断じてなかったが余りにも想定外の結末に晶は間抜けな声を出した、すると雪音が腰に手をやり少し怒ったり表情で言った。
「お姉ちゃん!ウチが血だらけの方が良かったみたいな反応やな?」
「あっいや、そうなると思ってたから⋯」
「ウチがこんなおっさんに負けるわけないやろ、ほんまええ加減にしてや、それよりええんか一応お姉ちゃんの上司ちゃうん?」
晶は雪音に言われて慌てて立ち上がると深見に近付いた、すると晶は不謹慎にも吹き出してしまった深見は正面を向いたまま腰を曲げ手足を縮こませて仰向けに倒れているのだ、拡張された下顎の歯は全て欠けておりまさしく漫画状態で晶は指を指して笑いたい気分を抑えるのに必死だった。
「お姉ちゃん笑ってもええんやで、おっさん死んでへんし部下に笑われた方が学習するやろ」
雪音はそう言って缶ジュースと同じく深見に指を当てた、すると深見は縮こまった手足を伸ばし大の字になって呻き声をあげた。
「隊長っ大丈夫ですか?」
ワザとらしい台詞に雪音は晶を指差し笑った、深見は下顎をさすり現状把握に努めていた。
「なっおっさん、ガキの言う事も耳傾けんと長生き出来まへんで」




