009:デビュー戦
朝6時半、安藤が公園でストレッチをしている。
「ふぅ! 今日は天気も良くて気持ち良いなぁ。ここを独り占めできるって最高だな!」
雨の日はしないが、晴れている時は毎日のように家の近くの公園に行ってストレッチをしている。
それが安藤の日課だ。
今日も独り占めして気持ちよさそうにストレッチをしていると、遠くの方からランニングしている人間が近寄る。
ランニングしてるんだと思って気にしていなかったが、近づいて顔が見えてくると驚く。
「なっ!? 池田じゃねぇか!?」
「あっ、安藤さん……おはようございます」
「おはようございますって。毎朝、走ってんのか?」
「まぁそうですね、ルートは気分によって変えてるんですけど。大体、走ってますね」
近づいて来たのは累だった。
気がついた安藤は累に声をかけて足を止めさせる。
ここら辺で累を見た事が無かったので、毎日のように走っていないのかと思って聞いた。
しかし朝と夜、走るのは累の日課だ。
毎日のように気分で走るコースを変えているので、会わないのも当然だと言える。
走ってると聞いて「そうか」と言った安藤は、自然と累の体を下から上に視線を動かす。
そして汗だくなのに気がついた。
普通に汗をかいているというわけではない、かなりの量の汗を流している。
凄い汗だと思った瞬間、安藤は気がついた。
「確かお前の学区って、かなり遠かったよな?」
「? 確かにそうですね、それなりに離れてます」
そう累の家から公園までは相当な距離ある。
かなりの距離を走ってきたのかと安藤は、動いていないのに汗がタラーッと垂れた。
しかも手首と足首には重りを付けている。
どうやら蓮に聞いて、これを付けているんだと累は、何故か嬉しそうに語った。
「これから練習あんのに動けるのかよ? うちのチームには足手纏いはいらねぇんだぞ?」
「はい、遅れを取らないように走ってます。これくらいしないと勝場さんとの練習には着いて行けないので」
こんなに汗だくになりながら疲れているはずなのに、バスケの話をすると満面の笑みになる。
安藤は感じた。
この累という男はイカれていると。
思わず、ヘッと苦笑いする。
「そういえば安藤さん、進学先は決まってるんですか?」
「あぁん? ふざけんじゃねぇよ、そんなナイーブな事を簡単に聞くんじゃねぇよ!」
「す すみません!」
累は無神経にも安藤に進学先を聞いた。
まだ正式に決まっていない安藤としては、無神経に聞いて来た事にイラッとする。
しかし直ぐに悪気があって行ったわけでは無いと気がついて「はぁ……」と溜息を吐き、少し反省した。
「話によれば京洋大茅野が推薦をくれるみたいだが、それも夏の全日本の結果次第だ。俺たちの代で特待が決まっているのは、2人だけだ」
「2人ですか? 勝場さんじゃ無いですよね?」
「副キャプテンの啓太と、キャプテンの神戸だけだ。啓太は山梨県の強豪校・山梨航空に、神戸は茨城県の強豪校・つくば英明にだ」
レッドスターズで確定で進学が決まっているのは、キャプテンと副キャプテンの2人だけだ。
副キャプテンの啓太は知っているが、キャプテンの神戸という人物に会った事が無い。
「神戸さんに会った事が無いんですけど、どんな人なんですか? どうして練習に居ないんですか?」
「あぁ神戸は頭がおかしいんだよ、バスケは凄まじく上手いくせに……気性がおかしいというか、今風に言えばサイコパスってやつだ。問題を起こしたから謹慎中なんだよ」
キャプテンである神戸という人物は、安藤が言うにサイコパスらしく、今は問題を起こして謹慎中らしい。
それを聞いて「おぉ……」と累は言葉を失う。
しかしサイコパスで問題児ではあるが、何よりも勝利に執着し、バスケは異常に上手い。
だから尚更に腹が立つと安藤は語った。
「さぁもう良いだろ? 俺は朝食を食いに帰るから、テメェも帰れ。練習に遅刻するなよ」
「はい! お疲れ様です!」
もう話していられないと思った安藤は、帰るから累も家に帰って遅刻しないようにしろと言って公園を後にした。
安藤を見送ってから累は、家に向かってランニングを再開するのである。
そして累は朝と夜のランニング、レッドスターズでの練習を重ね春季リーグが始まる。
春季リーグのベンチメンバーは普通の大会と同じ15人であり、メンバーは大輔がコーチと相談し決めた。
1軍の試合から漏れた10人が2軍チームに合流する。
その為、2軍メンバーは5人しか選ばれない。
だからリーグ戦とは言えども、かなり2軍のメンバーたちには厳しいものだ。
そんな中で累は、その5人に選ばれた。
「よし! 初戦が大切だ、しっかりと勝って内容でも圧倒しろ!」
『はいっ!!!!』
Bチームの監督を任されたのは、普段はアシスタントコーチをしている大貫だ。
選ばれた選手たちに喝を飛ばす。
ベンチメンバーには選ばれたが、累はベンチスタート。
当然と言えば当然だろう。
現段階で1軍のメンバーが出るのだから、累だってそう簡単に出られるわけでは無い。
ソワソワしながら試合を眺めている。
Bチームと言えども1軍の選手が半分以上を占めているので、3部の試合では圧倒できる。
2Q目の終了時点で17対63と大差が開いた。
すると大貫コーチが「よし!」と言う。
「累っ! 後半から出るぞ!」
「は はい!」
もう前半は圧倒しているので、後半からはベンチメンバーを起用する事になる。
累にも声をかけて出るように指示する。
ようやく試合がでれると、累は返事をして立ち上がるとベンチの裏に行ってアップを始めた。
レッドスターズになって初めての試合。
興奮するなと言う方が無理な話である。
ニヤニヤしながらアップをしていると、Bチームのキャプテンが「もうこっち来い!」と呼ぶ。
呼ばれた累は返事をしてからベンチに戻る。
「良いか? どれだけ点差がつこうが、最後の最後まで手を抜くんじゃ無いぞ。これは1軍メンバーにとっては正規メンバーになるチャンス、2軍メンバーにとっては1軍に上がるチャンスだ。しっかりとアピールしてみろ!」
『はい!!!!』
大貫コーチは選手たちの士気を高めさせてから、3Qのコートへと累たちを送った。
累はコートに入る前に、膝が胸に付くくらいのジャンプをして最終ストレッチを行なう。
そして頬を2回叩いてからコートに入った。
レッドスターズのスローインから試合が再開する。
レッドスターズのPGがドリブルを突いて、フロントコート内に入った。
累は右サイドの45度で待機している。
反対サイドの0度にいたCが、斜め上に上がって来て累のマークマンにスクリーンをかけた。
ゴール方向に向かってスクリーンを利用してカット。
完全にスクリーンが引っかかったので、相手チームはスイッチしてCをマークしていた選手が追いかける。
このままパスが出せるわけが無い。
なので累はクルッと反転して、さっきまでいた45度に向かって戻り始めた。
累の動きを察知したCが、まだスクリーンをかけた。
スイッチの姿勢が整っていなかった事で、累は45度の3Pラインでフリーになる。
PGがパスを出し、累は3Pシュートを放った。
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