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305  作者: 灰谷 An
第1章・1年次、全日本Jr.クラブ選手権 編
7/22

007:着いていけるか

 累はエースの樹里とマンツーマンで練習するように、監督の大輔から言われたのである。

 これは期待されている事の表れだ。

 どんな練習をするのかと累は、ワクワクしながら樹里を後ろを着いていく。

 2人は体育館のステージに上がる。



「それじゃあ俺のメニューを始めるけど、まずはダイナミックストレッチからやり直すよ」


「はい!」


「うんうん、良い返事だ。とりあえず俺がやるのを真似しながら、分からなかったら聞いてくれて良いから」



 樹里のメニューが始まるのだが、まずはやったはずのダイナミックストレッチから始めるという。

 そこからやり直すのかと累は思ったが返事をする。

 樹里を手本に累は、真似るようにダイナミックストレッチを行なうのである。

 さっきのメニューとは異なり、さっきはアップの前のアップという感じだった。

 しかし今のストレッチは完全に柔軟の要素が強い。

 全身の各所が伸びているのを感じ、ストレッチに重きを置いていなかった累には全身が痛い。



「あははは、累くんは固いなぁ。もっと体を柔らかくしないと、怪我を連発しちゃうよ? 去年の俺みたいにね」


「は はい! それにしても勝場さんは、体が柔らかいんですね……元からですか?」


「ん? いやいや昔からじゃないよ、ここ1年くらいで柔らかくなったんだよ。それでプレーの質も上がった、つまりそれだけ柔軟性は大切なんだよ」



 樹里は累に柔軟性の大切さを語る。

 元々は累のように体が固かった樹里は、柔軟性を上げた事で怪我も減り、プレーの質も上がったと言うのだ。

 それを聞いて本当に大切なんだと理解する。

 天才型かと思っていたが、この樹里という選手は想像もできない努力をしているんだと察した。

 

 そして次の項目が始まる。

 次はただ歩きながら腿上げをしているように見えるが、そこにもキチンと樹里が補足を行なう。

 この種目では地面を強く蹴るというのを意識する。

 つまりバネを鍛えるのだ。

 足のバネを意識する事で、ジャンプや切り返しの多いバスケでは重要になる。

 中学生ながらダンクをする樹里がやるのだから、この種目に凄まじい説得力があった。



「よし、じゃあディフェンスドリルをやるぞ。オフェンスで10点取ろうが、ディフェンスで11点取られたら意味が無いからな。エースの仕事はチームを勝たせる事、オフェンスができるからとディフェンスが許されるわけじゃ無いという事を覚えておきなさい」


「はい!」



 樹里のエース論は、ただオフェンスで点数を取るというわけでは無い。

 チームを勝たせなければ意味が無いのだ。

 だからオフェンスと同じくらいエースには、ディフェンス能力が無くては困るのである。

 しっかりと累に説明する。


 累と樹里はクローズアウトからスライドステップの練習を行なうのである。

 まずは樹里が、お手本を累に見せる。

 よく見るように言ってから、少し累から離れた。

 そして「行くぞぉ」と言うと、その瞬間から樹里の雰囲気が変わったのが分かる。

 走り出した樹里は、少し湾曲を描くように走る。

 累は近寄ってくる樹里の威圧感に、額から汗が垂れた。

 本当の試合ならば累はシュートを打てず、そのまま別の選手にパスを出すだろうと思う。

 累に近づいた樹里はクローズアウトを、スタタタタッとやるのでは無く細かく1.2で止まる。



「どうだい、分かったかい?」


「は はい、一応……でも、なんか普通とは違うような」


「んー、クローズアウトって最後の最後でスタタタタッてやるように教える監督が多いんだよ。まぁそれがダメってわけじゃ無いんだけど。それを上手い人にやっちゃうと、どうしても歩幅が狭くなっちゃうんだよ」



 樹里は累に、しっかりとクローズアウトについて説明をして納得させる。

 教えて貰ったように累はクローズアウトをやった。

 しかし樹里は「ほら!」と累のミスを指摘する。



「足ばかりに集中して腰が高いよ、それだとドライブを仕掛けられた時に不利な体勢になっちゃうぞ? しっかりと腰を落として、相手とぶつかる事を意識しなきゃ」



 累はミスを指摘されても確かにという風に、納得してやり直してみる。

 すると今度は「うん、良いんじゃない?」と認めた。



「全体的には良いんだけど。まだ体に慣れてないからスピードが出て無いね。クローズアウトが遅かったら、そのまま普通にシュート打たれるぞ」


「た 確かに! 体の使い方ばっかりで、スピードの事を忘れてました……」


「まぁあとは慣れだからな。気を取り直して次のメニューをやるぞ! まだまだメニューは残ってるからな!」



 そのままディフェンスドリルを数メニューこなし、そこからドリブルドリルやパスドリルを行なう。

 なんとか樹里のメニューについて行った累だったが。

 全てのメニューを全力でやるという樹里のスタイルに、累は着いて行けずに体力が切れる。

 普通は全力でやると言っても、どこかで適度に休むのが当たり前だろう。

 しかし試合で体力の心配があった樹里は、全てのメニューを全力でやるというのを信条にした。

 この信条に、まだ累は着いていけなかったのだ。



「んー、やっぱり初日からは難しいか。まぁ無理にやれとは言わないから休んでな、とりあえず俺はメニューを続けるわ」


「は はい、すみません……」



 無理に累は誘わず、樹里が1人でメニューをこなす。

 凄まじい量の汗をかいているが、それでも樹里の足は止まらないので、相当な体力があるのだと累は思わず笑う。

 良い感じにメニューをこなしていると、チームの副キャプテンである《舞華 啓太(まいか けいた)》が「リング、空いたぞ」と声をかける。

 啓太はムキムキで常に上半身裸だ。

 そんな啓太にリングが空いたと言われ、樹里は「あぁ今、今行くよ」と返した。

 すると樹里は「あっ!」と言った感じで、何かを閃き休んでいる累の方を見る。



「もう体力、戻ったんじゃ無いか? 今から俺と1on1やらないか、どうだ?」


「勝場さんとですか!? やりたいです!」


「おぉその粋だ、どれだけやれるのかを見せてくれ」



 もう体力は戻っただろうから1on1でもやらないかと樹里は累を誘った。

 レッドスターズのエースと1on1ができるなんて、累からしたら願ってもいないこと。

 直ぐにやると立ち上がってステージから降りた。

 現エースと期待の若手の1on1だ。

 1軍の選手たちも「1on1か!」とザワザワしながら見学しようと集まる。

 大輔も「面白そうだ!」とニヤニヤしながら見る。

 だが蓮だけは1人だけ見ずにシューティングしていた。



「おーい、お前は見ないのか? お前の同級生と、エースの1on1だぞ?」


「俺は別に興味ないですね。それにピカピカの1年生に負けるようなら、うちのエースはそれまでですよ」


「お前って……可愛くねぇな!」



 興味ないと言っているが、累を意識してシューティング練習をしているのは火を見るより明らかだ。

 とりあえず蓮は無視する事にした。

 見学者たちは、なんだかんだ言って樹里が圧勝するだろうという雰囲気で満たされている。

 普通の選手なら、こんな雰囲気の中ではやり辛い。

 しかし累は見学者や周りの雰囲気など、全くもって目に入っていないのだ。

 目の前にいる樹里にだけ視線を向けている。



「さぁ始めようか、ルーキーがどんなもんか見させて貰おうじゃないか」


「よろしくお願いします!」



 見学者たちの異様な視線の中、2人だけの1on1がスタートするのである。

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