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305  作者: 灰谷 An
第1章・1年次、全日本Jr.クラブ選手権 編
24/26

024:簡単にやらせない

 樹里と手越が向かい合う。

 ベンチで見ている累すらも2人の間に、人が入る隙も無いほどに火花が飛び散っている事を感じた。ゴクンッと固唾を飲むほどである。

 先に仕掛けたのは樹里の方だ。ワンアームよりも距離を詰めて何もさせないという姿勢をとった。

 この姿勢に手越は、ニタァと不気味な笑みを浮かべる。

 ボールをスティールされないように、手越は体を上手くぶつけながらピボットを踏む。始まって直ぐにガシガシと激しいぶつかり合いが起こる。

 手越は樹里を背中で受け止めると、ボールをスウィングしながら正面を向くと同時にドライブを開始した。

 手越の怖いところはパワーやスピードもそうだが、何より腕が常人よりも長いのだ。スウィングしてドリブルを始めたら、それだけで樹里を抜き去る。



「うわ!? アレで勝場くんを抜けるのか!?」



 手越は最も簡単にペイントエリア内に侵入……しようとしたが、3線で安藤が逆サイからカバーに来た。



「そう簡単にやらせてたまるかよ!」


「……」



 ナイスタイミングでカバーに来たと全人間が思ったのだが、手越はスピードに乗ったままクルッとターンして一瞬で安藤を抜き去った。

 もうこのまま得点されると思った。

 しかし手越がシュートを打とうとした瞬間、背後からヌッと樹里が追いついて来た。



「そう簡単にはやらせないさ」



 樹里は手越のシュートをブロックして弾き落とし、ボールはゴール下でアウトオブバウンズ。

 会場は「うぉおおお!!!」と試合1発目から凄いプレーを見たと興奮するのである。

 樹里は安藤のところに行く。



「安藤がカバーに来てくれたから、何とか間に合った。ありがとうな」


「ふんっ! これくらい余裕だ。そんな事よりも簡単に抜かれ過ぎだ! 俺がマーク変わってやろうか?」


「いやいや、負けたままでは終われないさ」



 安藤がカバーに来てくれた事で、ほんの少しの遅れを作る事ができたのである。それにより樹里が追いつけた。

 素直に感謝を伝えて来たので、安藤はゾワッとする。照れ隠しのように安藤は樹里に悪態をつく。


 ブルドックスのゴール下からのスローインで再開。

 セットプレイでレッドスターズの選手たちを翻弄し、ゴール下でフリーになった倉田がボールを貰う。そのままパスを貰うとノーマークでシュートを放ち、先制点はブルドックスが挙げた。


 木村のスローインで蓮がボールを貰う。

 蓮の頭の中は、他の人が想像できないレベルでフル回転している。どこの誰を使うか、今日は誰が調子いいのかなどをドリブルを突きながら考えている。

 やはり手越にやられそうになっていたから、ここは樹里に任せてチームに勢いを付けさせようかと考えた。しかしフロントコートに入ったら、その考えはガラッと変わる。

 それは目の前に人をイライラさせる笑い方をしている岩崎が地面を叩いて、マークについて来たからだ。その顔を見ると、蓮は額に血管が浮き出るほどに苛立つ。



「へしししし! かかって来いよ!」


「望むところじゃねぇか!」



 煽られた蓮はドライブを仕掛けようとした。

 しかし蓮のところに安藤が走り出し、スクリーンをかけにやって来た。岩崎から見て右側にスクリーンをかける。

 なんとか冷静さを取り戻した蓮は、右手から左手へのクロスオーバーし、安藤のスクリーンを使ってドライブ。蓮と安藤の絶妙な間合いで、岩崎はスクリーンにかかる。

 岩崎がかかっているので、安藤のマークマンである最上が顔を出してスイッチしようとした。

 だが2人のディフェンスが蓮に視線が向いた瞬間、安藤が綺麗なピック&ロールでペイントエリア内に飛び込む。岩崎と最上は「しまった!?」と視線が安藤に向く。

 この隙を蓮は見逃さない。

 普通ならばペイントエリア内に入った安藤にパスを出すのがセオリーだ。誰もが出すと思ったが、蓮だけは違う。2人の視線と態勢が自分から離れた事に気がついたのだ。



「な なに!?」


「ここでジャンプシュート!?」



 観客も誰もがピック&ロールを選択すると思っていた。

 しかし蓮が選択したのは、自らのジャンプシュートだった。完全に逆を突かれた2人はチェックに出る事もできずに蓮のシュートを打つ瞬間を眺める。

 そして蓮のシュートは、綺麗な弧を描いてリングの中央に吸い込まれていってシュパッという音が鳴った。ベンチメンバーたちは「ナイシュー」と立ち上がって叫ぶ。

 マークしている選手に決められた岩崎は「ちっ!」と舌打ちして悔しがりながら、リスタートする為にスローインを要求するのである。


 フロントコートに入った岩崎は、やり返してやろうと思ったがチームの事を考えて思いとどまった。

 最上がトップまで上がって来ると、岩崎からハンドオフでボールを貰う。そのままドライブを仕掛けるのかと思ったが、右45度の3Pラインにいる倉田にパスを出す。

 さらに倉田は同じサイドの0度にいる手越にパスを出した。それと同時に樹里にスクリーンをかけに行った。

 啓太は樹里に「左側スクリーン!」と叫ぶ。

 声に反応した樹里は、ファイトオーバーでスクリーンである倉田を避けて手越に着いて行く。

 しかし手越は左足で地面を強く蹴ると3Pラインの外にステップバックする。樹里は着いていきながら手を伸ばして手越の顔の前にシュートチェックを入れる。それでも手越は止まる事なく3Pを放った。

 手越の手から離れたボールは、リングの中に綺麗に吸い込まれていきシュートを決める。



「マジかよ……」


「それを鎮められるのか」



 観客たちは手越の1本目のシュートに、立ち上がって拳を突き上げるほどの興奮を見せる。

 レッドスターズの蓮や安藤も、それには引いている。

 決められた樹里は笑顔が引き攣っていた。明らかに緊張しているのか、動きが硬くて普段の樹里では無い。やはり緊張するなという方が無理なのだろう。

 

 とにかく切り替えようと蓮は声をかけながらボールを貰って、フロントコートまで持って行く。

 すると待っていましたと言わんばかりに啓太が、岩崎の左側にスクリーンをかけた。同じ手は食わないと、岩崎はファイトオーバーしようとするが、蓮は肩でフェイクを入れてスクリーンとは反対側にドライブする。

 ヤバいと思った岩崎は後ろから追いかける。目の前にはカバーとして2線の最上が来ていた。

 最上が踏み込んできた瞬間、最上のマークマンである安藤にパスを出す。すると0度で樹里のマークについていた手越がチェンジングで安藤に突っ込む。

 ボールを弾くようにして、ノーマークになっている樹里へとパスを出した。普通ならばドライブして中に突っ込むのだろうが、チェンジングで岩崎が向かっているし、中にはCの清水がカバーに出ようとしているので、ノーマークだからと3Pを放った。

 しかしそれはリングに嫌われてしまう。


 蓮はトップから「リバウンド!」と叫ぶ。

 ゴール下には木村と清水がおり、リバウンドを制したのは木村だった。そのまま直ぐにゴール下のシュートを放ち決めると共に、清水からファールを受ける。値千金のバスケットボールカウントである。

 木村がフリースローを沈め点数は5対5と均衡を保つ。

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