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305  作者: 灰谷 An
第1章・1年次、全日本Jr.クラブ選手権 編
22/26

022:最後のチャンス

 レッドスターズの補欠選手たちからしたら、樹里や啓太や安藤も怪物である事には変わりない。しかしそれでもまだ進学先が決まっていない人たちもいる。

 だがブルドックスには、超強豪校から名門校まで進学内定者が当然のようにいる。

 怪物を超えたような存在がゴロゴロといて、補欠選手たちは頭の中に「勝てな」「勝てるわけ」などが過ぎた。

 すると累が「楽しみ……です」と笑いながら言う。選手たちの視線が累に集まる。



「4回戦でブルドックスと試合をするのが……だってレッドスターズが勝てば、全ての評価が覆る。大舞台で結果を残すっていうのは、そういう事………なんですよね?」


「あぁその通りだ」



 累は化け物じみた強さを目の前で見ておきながら、笑って楽しみだと言えるだけの胆力があった。

 他の選手たちも鼻で笑いながらも「やってやる」と累に同調するのである。


 翌日から全体練習と共に個人練習にも力を入れる。

 累は樹里との個人メニューの頻度を上げる。ランニングや体力アップのトレーニングをしていたのもあって、樹里との練習に着いていけるようになり始めていた。

 そして今回はドライブの精度を上げる練習をする。



「ダメだ! 前までのドライブと違って、かなりキレが落ちてるぞ。そんなんじゃあ二流の選手ですら、お前の事を止められるぞ」


「は はい、申し訳ありません……」


「どうしたんだ? まさか何かしようとしているのか?」


「はい、樹里さんのヘジテーションを真似したくて」



 樹里は累に1on1の形式で、指導しようとしたがキレの悪さが目立ってしまった。この程度のキレならば、自分じゃない二流の選手でも止められると指摘する。

 しかし直ぐに累が、何かしようとしている事に気がついて何をしようとしているのかを聞く。

 どうやら累は樹里のヘジテーションを真似したくて、やった結果が遅いだけよドライブになってしまった。



「良いか? ヘジテーションっていうのは、ドライブのキレが良くなければ意味が無い。ヘジテーションばかりを意識して、ドライブが疎かになれば止められるだけだ」


「そうですよね」


「もう1回だ、ドライブからやってみろ!」


「はい!」



 樹里は累に、もう1度ドライブからやらせる。今回はヘジテーションよりもドライブの方を意識するように言ってから練習を再開する。

 グッと腰を落とした樹里に、累も同じように腰を落としてピボットを踏み始める。そして一気に右側にドライブを仕掛けるが、樹里はスライドステップで累を止めた。



「おいおい、分かりやすすぎるぞ。お前は目と体が正直すぎるんだよ、もっと騙すようにやらなきゃダメだ。ここに来てチームでやっていない事の弊害が出るとは……」


「そんなにダメですか?」


「別に持っている技術は悪いものでは無いからな。相手を騙して、裏を突く技術を学んだら、お前のドライブは止められなくなるぞ」



 個人で練習をしていた事の弊害が出てしまう。視線や体の向きからドライブする方向がバレるのだ。そこを改善する事ができれば止められない選手になる可能性がある。

 そこから2時間に渡って、累への個人指導が続いた。滝のような汗を流しながら、やっており樹里は「ラスト、1回にするぞ!」と言う。

 もう限界も近くて足腰に力が入りづらくなった。それでもラストだというので、累は力を振り絞る。


 累はユターッと脱力した感じでピボットを踏み、視線は樹里とリングを交互に見ている。この視線の使い方は、さっきまでとは違うので樹里は「おっ!」と思った。

 そして体もユターッと脱力した状態から、一気に左側にドライブを始める。0%から100%という速度に切り替わったので樹里は一瞬、出遅れてしまったのである。

 なんとか動き出し累の背中を追う。累の背中を見ながら樹里は「ここに来て、コツを掴みかけてるな」と溢す。


 その時の累の表情は、選考会の時のように舌をベーッと出して笑っている。それはそれは楽しそうに。

 累はドライブを続けて、リングにまで向かう。そのままレイアップシュートを放とうとした。

 しかし背後からヌッと樹里が現れたのである。追いついた樹里の表情は、にこやかだった。



「そう簡単に後輩には抜かせないよ。エースの座っていうのは、そんなに軽いものじゃ無いからね!」



 追いついた樹里は、そのまま累のレイアップシュートを弾き落としたのである。

 まさかあそこから追いついて来るなんて、累としては予想外で完全にやられたと笑っている。

 樹里は少し熱くなってしまったと少し反省する。

 熱くなったのも累が良いプレーをしたからだ。やはり累には才能があると樹里は強く感じた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 Jr.クラブチーム夏季関東大会3回戦。

 レッドスターズ(山梨県)VSウィングス(埼玉)の試合が行なわれた。この試合はエースの樹里を筆頭に、安藤と啓太も爆発し完勝を収める。この勝利でレッドスターズは4回戦へと駒を進める事となった。

 そして試合が終わると大輔のスマホに、別会場で試合を偵察しているコーチの大貫から電話が入る。



「おう! 良い報告なんだろうな?」


『えぇ102対51です。監督の希望通りですよ!』


「おぉそうか、分かった!」



 大貫から報告を受けた大輔は、満面の笑みで通話を切ると選手たちから「決まったんですね?」と言われる。

 笑いながら選手たちに報告するのだ。



「やっぱこの展開の方が面白いよな! 明日、4回戦の相手は……ブルドックスだ!」



 大輔が明日4回戦の相手が、予想通りのブルドックスであると発表した。もちろんこの展開を大輔を筆頭に、選手たちも望んでいたのである。

 相手がブルドックスだと聞いた選手たちは、覚悟を決めたような表情をしていて、ブルドックスとの試合が大きな山場であるという事を理解している。



「明日に向けて、しっかりと体を休めろよ!」


『はい!!!!』



 大輔は選手たちに、明日の大一番の試合に向けて今日は体を、しっかりと休めるように言うのである。

 そして選手たちは解散した。

 皆んなが帰ろうとしたところで、上半身裸になっている啓太が安藤に声をかけた。



「見ろ……シュートエリアが明らかに45度が多過ぎる。もっと気をつけた方が良いぞ」


「は? マジかよ、無意識だったわ」


「45度からのシュートが得意で、シュートタッチが良いんだろうな。もっとエリアを限定しないで、もっと広げた方が良いと思うぞ」


「あぁ確かにな。そういやお前も試合が進むと、ゴール下でのポンプフェイクの数が少なくなってるぞ。もっと映像を見直しておけよ」



 いつもならば口論に発展するはずの啓太と安藤だが、今回は互いに互いの悪いポイントを指摘し合う。うるさいとかって言いそうなところだが、安藤は「マジだ」という感じで啓太の指摘を飲み込むのである。

 その光景を少し離れたところから見ている累と千隼は、明日は雪が降るんじゃないかと驚きで声が出ない。どうしたんだろうと2人は思ったが直ぐに理解する。

 先輩方3年生には、もう後が残されていない。今大会こそが最大のチャンス。

 明日は絶対に勝たなければいけないのだ。

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