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305  作者: 灰谷 An
第1章・1年次、全日本Jr.クラブ選手権 編
20/26

020:奪い取る

 大輔は樹里が復活したあたりの事を思い出す。

 その頃の樹里の事は忘れようとしても忘れられないほどに鮮烈に覚えているのだ。



「2年の秋大には間に合わなかったが、それ以降の公式戦練習試合を含めたスタッツは……26.3PPG・8.5RPG・8.2APGという圧倒的な結果を残した」


「前から気になってたんだけどよ。勝場さん程の選手なら3年の夏前までには進学先が決まってるはずだ……なぜまだなんだ?」



 復活を遂げた樹里は、復活してからの試合で圧倒的なスタッツを残すようになっていた。

 しかしそうなれば、それだけ素晴らしい選手の進学先が決まっていない事に、蓮は疑問を持つのである。



「勝場には希望している進学先がある。その高校を名指しにし、それ以外の誘いは全て断っているんだ」



 樹里には、どうして進学したい学校がある。その学校以外からの誘いは全て蹴っている。

 そしてその高校の名は〈宮城大学附属明王〉だ。

 宮城大明王はウインターカップを6回、インターハイを1回の優勝経験を誇る宮城県の超名門校。歴史・設備・人気の全てが一流。高校バスケファンなら、その名を知らない者はいない伝説の高校。高校生たちの憧れであり、高校バスケ界の最高峰である。



「俺はどうしても明王に行かなければいけない。だが明王は1学年20人という部員の制限がある……言わば高校バスケの精鋭と言ったところか、もう夏前には定員が埋まっているんだよ」


「え? じゃ じゃあどうしようも無いんじゃ……」


「この夏の最後の大会で、圧倒的な活躍をして決まっている人間から1つの席を奪い取る。大きな舞台で結果を残すというのは、そういう事だからな」



 この段階で宮城大明王の特待枠は全て埋まっている。

 だが、それは内定であって絶対では無い。今回の夏の大会を持って、1つの席を奪い取ると樹里は宣言した。

 それこそが大舞台で活躍するという事だと、自信満々ないつもの笑みを浮かべて累に語る。いつもの笑みだが、その中に威圧感がこもっているような気がした。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 Jr.クラブチーム夏季関東大会2回戦。

 レッドスターズ(山梨県)VSドラゴンズ(東京)の試合で、この試合に偵察に来た人たちやスカウトたちが「これって……」や「ヤバいよな!」とザワザワし出す。

 それは樹里がスタメンで出場しており、そのスタッツが28PTS・9AS・12TRとトリプルダブルまで、残りアシスト1まで迫っていたのだ。

 残り時間5秒のところで、3Pラインでディフェンスとの間合いが空いている安藤にパスが入る。ほぼノーマークと言って良いほどに絶好のナイスパス。これを沈めれば樹里はトリプルダブルを達成する事ができる。

 安藤は躊躇する事なくシュートを放った。だが指からボールが離れた瞬間に「やべ」と安藤は呟く。

 するとボールはリングの手前に、ぶつかってシュートは外れてしまうのである。外れると同時に試合終了のブザーが、ビーッと鳴らされた。

 トリプルダブルは達成できなかったが、試合はレッドスターズの勝利で終了する。選手たちは整列する為に、センターサークルまで戻った。



「気にしてる? なぁ気にしてる?」


「ふん! 別に気にしてねぇよ」



 樹里はシュートを外した安藤に、満面の笑みで気にしているかと嫌味っぽく聞いた。安藤はソッポ向きながら気にしていないと誤魔化すように言う。

 しかし観客たちは異様な雰囲気である。今回と前回でトリプルダブルを達成する選手が、2人も出てくるなんて観客たちからしたら想定外なのだ。

 累はベンチから樹里の活躍に見惚れていた。

 すると累の隣に安藤がやって来る。



「お前も分かってると思うが……お前のマグレのトリプルダブルよりも、今日の勝場のダブルダブルの方が内容が格段に上だからな。今日の相手は弱いわけじゃねぇ、ドラゴンズは自力が違ぇ!」


「はい!」


「ゾーンディフェンスやミラーディフェンスで、勝場を潰そうと工夫して来たが。その全てで勝場が上回った……つまり完璧な勝利、完勝ってわけだ」



 安藤は累のトリプルダブルよりも、今日の樹里のダブルダブルの方が凄かったと説明する。もちろんわざわざ言われなくても、今日の樹里のできは素晴らしいと分かる。



「お前がシュートを決めればトリプルダブルだったがな」


「仕方ねぇだろ! あれはアシストにならねぇよ!」


「言い訳するな!」


「パスの回転が悪かったんだよ!」



 累を叱責している安藤に、啓太は痛いところを突いた。

 またしても2人は喧嘩を始めるが、そんな事に目が行かないほどに観客たちは、まだザワザワしている。



「勝場くん……一時期はイップスでシュートを打てない状態まで行ったのに………」


「Aスコア……いや、特Aスコアまで行くぞ!」


「まだ進学先が決まってないって言うし、これは……争奪戦になるだろ!」



 スカウトたちはイップスで、シュートを打てなくなったところから復活して来た事に感動すら覚えている。

 まだ進学先が決まっていないのを知っているので、この大会が終わったら争奪戦になると確信。


 累たちはベンチを片付けると、控え室まで戻るのであるが、そこで監督は「片付けたら体育館に集合」と言う。今日は、このまま次の試合をスカウティングする。

 選手たちは理解していた。次の試合がブルドックスの試合だからである。

 急いで着替えて試合が見やすいところを確保しようと、急いで累たちは着替える。

 着替え終わった蓮が累に「早くしろ!」と急かす。色々と急かされるまま着替えを終えて、控え室を出ると同じ会場で試合をしていた倉糸がいた。



「私も一緒に試合見ても良いかな?」


「はぁ? 俺たちに聞かれてもなぁ……」


「ウチの監督は良いって言ってたし、邪魔しないから問題ないよな! なぁ良いだろう、累?」


「え!? う うん、別に良いんじゃない?」



 倉糸は一緒に試合が見たいと言って来たのだ。男子にも負けたくないと思っている倉糸は、ブルドックスの試合を蓮の解説も交えて聞きたいと思っている。

 別に良いんじゃ無いかと大輔は許可した。もちろん女子部門の監督にも許可は貰っている。なので倉糸と累たちは一緒に試合を見る事になった。


 やはりブルドックスの試合という事もあって、会場にはスカウトマンや観客が、かなり入っている。

 どんな試合をするのかと観客たちが話していると、ブルドックスがやってやって来る。



「俺たちの試合を見たら、観客もスカウトもレッドスターズの試合など忘れてしまう……ですよね、手越さん!」



 王者のような風格を纏いながら、ブルドックスはコートにやって来てアップを始める。

 そのアップはメニューが。というわけじゃないが、質が他のチームよりも高いのはレッドスターズのメンバーたちも感じて「すげぇな」と口走る。



「ビビってんじゃねぇよ! アレくらい、ウチでもやってるだろうがよ!」


「す すみません……」



 弱気になっている後輩を安藤が、自分たちもアレくらいやっていると叱責する。それくらい安藤もブルドックスに対しての対抗心があるのが分かる。

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