002:同じチームに
朝の6時半から累は、近所をランニングしている。
どれくらいの距離を走っているのかというレベルで、汗をかいているが息切れは少ない。
走っている累と、長女の美咲が家の敷地から少し出たところで腕を組んで待っていた。
頬をプクーッと膨らませているのが遠くからでも見え、累はクルッとターンして逃げようとした。
しかし美咲に「逃げるな!」と叫ばれてしまう。
逃げられないと思った累は観念し、足取り重いと感じながら美咲の元に駆け寄る。
「もう何やってんの! 8時から入団試験なんでしょ、そんなにヘトヘトになったら落ちるよ!」
「大丈夫だよ、これくらいなら」
「何が大丈夫だよ、よ!」
今日の8時半から累が、入りたいクラブチームの入団試験があるからヘトヘトになったらダメだろうと、美咲は姉として心配しているのだ。
当たり前のように毎日やっているので、累にとっては日課をやらない方が気になるらしい。
バスケの事は知らない美咲だが、毎日のようにこれだけのメニューをやっている累を見れば、どれだけ真剣にやっているかは理解している。
だから万全の状態で臨んだ方が良いと考える。
「それにしても本当に大丈夫なの? 累の入りたいクラブチームって、かなり強いって聞いたよ? 3年間も人と一緒にやってないのに協調性あるの?」
「うん、そこは大丈夫だと思うよ。僕って意外と協調性ある方だと思うんだ」
「協調性がある人は、自分であるとは言わないと思う。とにかくお父さんも心配してるから、そこまでにして朝ごはんを食べなさい! 手も洗うのよ!」
「は はい……」
今日、累が試験を受けようとしているクラブチーム。
それはかつて累が所属していた弱小チームを、コテンパンに倒した超強豪。
そう〈高田新田RED STARS〉である。
小学生カテゴリーと中学生カテゴリーがあり、どちらのカテゴリーでも全国に出ている超強豪だ。
何より累の心を折った蓮がいるチームでもある。
そこに今日、累は試験を受けに行く。
累が早朝からランニングをしているように、蓮も汗だくになる程に走っている。
前には先導するように原チャが走っており、原チャには長頭部が寂しくなって来ているオッサンが乗る。
そして蓮に「遅い! 遅すぎる!」と叫んでいた。
ブチッと蓮がブチギレ。
「うっさいはクソ親父! 大体ペースが早すぎんだよ!」
「そんなこと言っててプロになれると思ってんの? あぁダメだわぁ、諦めろ諦めろ!」
「息子の夢を諦めろっていう親がどこにいんだよ! そこまで言うなら着いてってやるよ!」
蓮の父親・大輔が煽るようにして、蓮のスピードを上げさせる。
負けず嫌いの蓮はスピードを上げた。
そしてメニューが終了すると、息を荒立て河川敷の河原に大の字になって空を見る。
隣に缶コーヒーをカシュッと開けた大輔が立つ。
「それのしても親父、今日なんだろ? セレクション」
「あぁそうだな、どんな選手が来るのかが楽しみだ! まだ見ぬ原石が来るかもしれないし!」
「全国制覇できる奴を選べよ? 即戦力も欲しいところだな、1年目から全国優勝したいし」
大輔はレッドスターズの中学カテゴリーの監督をしていて、チームを作ったのは大輔である。
なので蓮はセレクションがあるのを知っていた。
ちなみに蓮は小学カテゴリーからの昇格組みなので、セレクションを受ける必要は無い。
レッドスターズの選手のほとんどは内部昇格者だ。
逆に言えば累のようにセレクションを受ける選手の方が少ないくらいである。
全国制覇を目指している蓮は、まともな選手を取れと大輔に釘を刺す。
そして累にとって運命のセレクションを迎える。
レッドスターズの練習場である櫛形総合体育館には既存の選手である30人と、累を合わせたセレクション生10人が集まったのである。
累と蓮が会うのは、コレが3年ぶり2度目。
だが互いに強いイメージを残していたので、顔を見た瞬間に「あ!」という感じになった。
しかしとりあえず話したいのを我慢をして、監督であり代表である大輔の話を聞く。
「やぁやぁダイヤモンドの原石たちよ! 我々は君たちに期待しているよ、今日は全力の君たちを見せてくれ!」
「試験内容はマネージャーの私、小堺が説明します。今から5対5の試合形式の試験を行います。メンバーはセレクション生の君たちと、うちの2軍メンバーと試合をして貰います」
セレクションの内容は、セレクション生とレッドスターズの2軍メンバーによる試合形式。
どれだけ2軍だと言っても全国常連校の2軍となれば、他のチームのエース級ばかりだろう。
そんな人たちと試合をするのかと、セレクション生は緊張して顔が青くなっている。
皆んなの隣で累は楽しそうに笑みを浮かべていた。
「じゃあ試合は40分後に始めるからアップするなり、セレクション生同士に作戦会議をするなりしてくれ」
今から40分後に試合が始まるので、セレクション生に同じセレクション生同士で話し合ったりアップをしたりひて、試合を行えるようにしておけと大輔は言った。
そのまま試合を行わないメンバーたちは、試合の準備を始めたりしている。
蓮はアップを始めた累に近寄る。
「俺が辞めろって言った後、本当に辞めたんだな。それで今更になってクラブチームかよ」
「君が言ったように、確かにあのままチームに残ってたら僕の人生は変わってたかもしれなかったよ。それにアレからも君の話は、いろんなところで聞いてたよ」
「当たり前だろ! 俺は日本代表レベルだからな。だが日本代表レベルじゃあ足りないんだよ……俺はまだまだもっと上にいけるんだ!」
累が自分の言った事で、本当にチームを抜けるとは思ってもいなかった。
なので十分イカれた奴だと感じている。
累の性格を知って不気味がっている蓮に、累はチームを抜けた後も蓮の同行は調べていたと言うのだ。
ちなみに蓮は4年生の頃からU12の日本代表に入っているような天才である。
しかしそれには満足していない。
もっと上に行けると信じているのだ。
「それで今日の試合には、蓮くんはでないの?」
「あぁ俺たち、昇格組みは試合をやらない。相手にするのは2軍と言ってもバスケの超エリートだ。それなりに強いから覚悟しておけよ?」
「あぁ凄く楽しみだよ、久しぶりに大人数でバスケするからね」
「本当に頭おかしいな。よく3年間も1人でやれたな」
セレクションの試合とは言えども、累にとっては久しぶりに大人数でバスケをやる。
楽しみで楽しみでワクワクしている。
少し残念なところといえば、蓮たち昇格組みが試合には出て来ないというわけところだろう。
しかし逆にいえば累たちにとって格上と試合になる。
同世代の選手と闘えば多少は良い勝負になるかもしれないが、2軍相手となると話が変わってくる。
それでも試合をやれると累は楽しそうにしている。
セレクション生たちは、話し合いをする前にアップを終わらせちゃおうと各自ストレッチを始めた。
するとそこに1人のスーツを着たオッサンが現れた。
そのオッサンは体育館を見渡して「おぉ今日はセレクションか」と言った。
オッサンに気がついた大輔は、ペコッと頭を下げてからオッサンに駆け寄るのである。
「入江さん、どうも。今日もスカウティングですか?」
「えぇ大輔さんの指導が良いもので、早めに確認したい選手が多いんですよねぇ。さすがは全国常連チームの監督を長年務めた方だ」
「そんなに褒めたって、何も出ませんよぉ」
この男は長野県の名門〈京洋大学附属茅野〉のスカウトをやっている《入江 由孝》だ。
何年もレッドスターズから選手を推薦で取っている。
その為、何度もレッドスターズの練習を確認しにやって来ているのである。
なので今日もたまたま練習を見に来たらしい。
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