017:怪物
レッドスターズの関東大会1回戦の相手であるラビッツたちは、チームに所属していなかった素人と言っても過言では無い累を下に見ている。と言うよりも舐めていると思われても仕方は無いだろう。
だからこそ自分たちは弱小だと分かっているが、ラビッツたちはレッドスターズとの試合に気合を入れる。普段は雑に戦うが、今日は痛い目を見せてやると意気込む。
しかし始まって見たら、全くもって予想外である。
まぁある意味、予想通りの試合ではある。なんせレッドスターズが、圧勝して試合が終わったからだ。
予想外なのは、ここからだ。
累は公式大会デビュー戦で〈20MIN・16PTS・11TR・10ST〉のトリプルダブルを達成。
まさかの事態にラビッツの選手たちは「嘘だろ……」と現実が信じられず、言葉を失うのである。
「応援、ありがとうございました!」
試合を終えた累たちは、応援に来ていた父兄の人たちに感謝を伝える挨拶を行なった。
チームプレーをやって数ヶ月であり、中学デビュー戦での活躍に父兄の人たちは興奮している。累の応援に来ていた父や姉の美咲と綺羅も喜んでいた。まぁスポーツの事なんて分かってはいないが。
そして美咲と綺羅を見た蓮が、ズキューンッとハートを射抜かれてしまったのである。
「お おい、池田! あの麗しい女性たちは、お前のお姉さまなのか!?」
「え!? あっうん……そうだけど?」
「そうかそうか。よし、これからも仲良くしようじゃないか!」
とてつもなく美咲と綺羅を狙っているのが分かり、なんと反応して良いのか分からなくなる累だった。
試合を終えたチームたちは、コートを後にして控え室に戻ろうとするのであるが、その廊下で安藤が累の肩をグイッと掴んで顔を自分の顔に近づける。
「お前、怪物誕生した……とかって思ってるんじゃねぇだろうな?」
「い いえ……思ってません」
「余計なターンオーバーが3つに、カットされてもおかしく無かったパスが2つ! トリプルダブルは完全なマグレだ、マグレ! 調子に乗るなよ!」
「は はい……乗りません!」
「何より相手が雑魚すぎるんだよ! あんな連中相手にトリプルダブルしても無意味だ! 勝ちなし!」
安藤は累のトリプルダブルに対して、全くもって意味がないから調子に乗るなと指摘する。
あまりにも唐突だったのと、安藤の顔面圧に累は何も言い返せずに言われるがままだ。
すると啓太が「俺は、そう思わん!」と割って入る。
何故か分からないが、既に啓太は上半身裸の状態だったのである。啓太は興奮すると上を脱ぎたがるような海外?思考であり、脱いでいる分だけ興奮している証拠だ。
「どんなスーパースターだろうが、大会の初戦はどうしても固くなる。なんなら池田はチームとして初めて大会に臨んだんだ、その割に冷静で自分らしいプレーだった。賞賛に値する結果だと思うぞ!」
「甘ぇな! これから先に当たるチームにゃあ通用しないって話なんだよ! 今のうちに教えといてやんねぇと」
「人の事を心配するくらいなら、自分のシュート確率を上げる事に集中したらどうだ!」
何故か分からないが、累の事で安藤と啓太が激しい喧嘩をし始めた。それはそれは激しく。
急いで同級生や2年生の人たちが助けに入る。
それを遠目で見ている千隼は、隣にいる蓮に「伊門、お前はどう思うんだ?」と気軽に聞いた。
すると蓮は凄まじい真剣な眼差しになる。
「全面的に安藤さんに賛成だな。現時点で累の弱点を挙げろと言われたら、いくらでも挙げられる」
「やっぱりそうなのか」
「今日の相手は、まるで作戦なんて考えていないような雑魚だった。だが強い相手になればスカウティングを行なって、試合前に池田は丸裸にされる。今はまだまだスター級の投手には到底及ばずってところだな」
「じゃあレッドスターズと同等のチームと当たったら?」
「間違いなく1点も取る事できずに交代だ。今の池田を攻略する手なら、いくらでもあるからな」
千隼は気軽に質問したのだが、帰って来た答えが想像よりも固い感想だった。何よりトリプルダブルをやったんだから、もっと褒めて良いと千隼は思っている。しかし返って来たのは、累の弱点を話すだけだった。
するとそこに「さすがはレッドスターズ!」と聞こえて来て、全員の視線が声のした方に向く。
「もしあの程度のチームに、トリプルダブルしただけで調子に乗っているようじゃ……今年もウチの敵では無い! と確信するところだった………そうですよね、手越さん」
そこには小柄で坊主の少年と、人を殺してるんじゃないかと疑うレベルに顔が怖い少年が立っていた。
顔が怖い方が手越というらしい。
そして坊主の少年の方が、今年もウチが勝つと確信するところだったと言って来る。色々と言ったところで坊主の少年が、人殺ししそうな手越に確認して小さく頷いた。
「お前は確か……ブルドックスの死神・手越 勝利」
『え? 死神?』
啓太と安藤は手越の事を死神と呼んだ。
その場にいた人間たちで、手越の事を知らない1年生たちは死神と聞いて驚く。
坊主少年は手越の手にギュッと抱きついた。
「酷いよねぇ? こんなに可愛らしい顔してるのに」
「か 可愛らしい?」
坊主少年は死神というあだ名が、顔からも来ている事について可哀想だと語る。そして顔が可愛らしいともいうのだが、その事については可愛らしくは無いと誰もが心の中でツッコミを入れた。
「っていうか、チビ! 一体テメェは誰なんだよ? さっきからペチャクチャ喋ってるけどよ」
「そうだなぁ、僕の事は君から紹介してよ……伊門 蓮」
安藤は、さっきから喋っている坊主少年に誰なのかを聞く。あまりにも面倒な絡み方をして来るから我慢の限界を迎えたらしい。
しかし少年は自分の口では答えず、近くにいる蓮を指名して説明して欲しいと言った。いきなり指名された蓮は、ハッと驚きの表情を浮かべ、少しの間を置いてから蓮は少年について喋る。
「えっと……どちら様で?」
「はぁああ!!?? ジャパンで同じチームだったじゃねぇかよ! 岩崎だよ、岩崎っ!」
「え? 岩崎?」
「お前がSFで、僕がPGだったろ!」
蓮は知らなかった。
自分の事を知らないと言われた岩崎と語る少年は、日本代表だったらしい。なんなら同じ日本代表で蓮と岩崎は戦っていると言うのだ。それでもピンッと来ない。
話を聞いた啓太は「U12のPGか……」と呟き、その隣で安藤が「ちっ! エリートかよ」と悪態つく。
同じ世代の日本代表を見た累は、この男が蓮と同じ代表なのかと、目を見開いて見ている。
「騒がしいな……どうしたんだ、お前ら? 監督が先にミーティングやるって………あっ手越」
「勝場……」
騒いでいるのを聞きつけた樹里が、何をやっているのかと累たちを呼びに来た。
樹里と手越は互いに顔を見合う。今の今まで喋っていなかった手越が喋ったので、樹里の隣で真剣な表情を浮かべている安藤は「あっ、喋った」と思う。
樹里は「今日は偵察か?」と聞いた。
すると岩崎が目を見開いて、可愛らしく笑っている累とは異なり、不気味なチャッキーのような笑いを浮かべながら「へししし!」と笑う。
いきなり笑い出して累たちは怖がる。
「アンタが勝場さんですか? へしししし!」
「そうだけど……何かおかしいのか?」
「そうか、この人が……ウチに去年、ボコボコにやられたっていう。レッドスターズの勝場さんかぁ!」
この場にいる累たちは「勝場さんが?」と困惑。
こんな事を言われながらも樹里は、全く表情を変える事なく、にこやかに微笑んでいる。




