016:着る者の資格
関東大会に向けたメンバーに、まさかの累が選ばれた。
AチームとBチームによる選考会でも、かなり惨敗と言っても良いような結果だったはず。それでも累が選ばれたので、他の選手たちが不満を漏らす。
「ど どうして累なんですか! 納得できません!」
「そうですよ! アレだけ酷い試合をしたのに、メンバーに選ぶなんて……」
選手たちの不満を大輔は「うんうん」と、とりあえず聞く耳を持って聞いた。
そしてスッと指を4本だけ立てた。選手たちは「なんですか?」という感じです疑問を持つ。
大輔は「4回だ」と言った。さらに疑問が重なる。
「プレーオフで崖っぷちだったレイカーズは、同点の中で当時新人だったコービー=ブライアントに勝負を託した。そして託されたコービーは4本のシュートを放つが、そのシュート全てがリングに当たる事は無かった。レイカーズは、そのままプレーオフを敗退する」
「そ それがどうしたんですか? 今の話と関係あるんですか?」
「良いか? 普通の選手なら4本もエアボールをして、チームをプレーオフ敗退させたら、次のシュートへの手が鈍るだろ? しかしコービーは同じ場面が、直ぐにあったとしてもシュートを打つと言った。お前たちに、そんな事ができるか? 累はそれをやったぞ?」
大輔は伝説的なプレーヤーであるコービー=ブライアントを例えに出し説明。
普通の選手ならば戦いを放棄する場面で、どれだけミスをしても自分の可能性を信じ、次のパスを要求した。そんな事が普通の選手ができるだろうか。
だからこそ、そんな選手を最後の1人に選びたかったから累を選んだのだと説明する。
「これが累を選んな理由だ。何か反論があるなら言ってみろ、まぁ今さらメンバーを変えるつもりは無いがな」
大輔は文句や意見があるのならば聞くつもりはあるが、それでもメンバーを変えるつもりは無いと断言した。
監督が、そういうのだからどうしようも無い。選手たちは、何も言えなくなって黙り込んでしまう。
すると樹里がニコニコしながら「皆んな」と言う。
「監督が言うように、アレだけボコボコにやられながらシュートを打ち続けるのは至難の業だ。さらに最後の最後に俺たちを出し抜いてシュートを決めた。これを評価しないのは、何よりも競技者として失格だよ?」
樹里は累を選んだ大輔の選択を擁護した。
レッドスターズのエースである樹里が、累のメンバー入りを支持しているので、他の選手たちは認めざる得ない。
どっちにしても監督が決めた事なのだから、選手たちに止めろという権利は持っていない。
誰も文句を言わなくなり、樹里は「さぁこれで一件落着だな」と話を終わらせた。選手たちはワラワラと下がっていき、大輔は樹里にアイコンタクトで「ありがとう」と感謝を伝えるのである。
「さぁ池田、大会までにやれる事を全てやろうか」
「は はい!」
樹里は累に大会までにできる事を全てやると言う。
その日から大会までに必要な色々を、詰め込めるだけ詰め込む事になったのである。
現エースの樹里と、これからエースになるかもしれない可能性を秘めた累が、共に練習しているのは大輔にとって未来への希望を感じざるを得ない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
Jr.クラブチーム夏季関東大会1回戦。山梨県市川コミュニティセンター。
レッドスターズ(山梨県)VSラビッツ(静岡県)
ラビッツは静岡県内でも有数な……弱小チームだ。関東大会も2回戦を突破した事の無いようなチームで、レッドスターズとは天と地ほどに違う。
「へーいへーい! こっちにパース!」
「ふぅー! 見た見た今のプレー、八村みたいじゃ無かったぁ?」
「マジで、それっぽかった!」
完全に弱小のノリだ。チームのアップでも、キチンとしたアップでは無く遊び感覚でやっている。
別に楽しむなと言うわけじゃ無い。それでもふざけるのと楽しむのとでは意味が違う。
何よりも監督の言う事を聞いていない。
(なんなんだ、このクソガキたちわ! 全くもって俺の言う事を聞かない……体格や運動神経は悪くないのに、まともにやりゃあしない! 何より俺の事を、めちゃくちゃ舐め腐ってる!)
ラビッツ自体は弱小チームだが、今年のメンバーは体格も運動神経も悪くはない。なんなら中堅クラスのチームとなら良い試合をするくらいのメンバーだ。
しかし性格が性格で、まともにアップもしないし監督の話も聞かないという始末である。
監督は言う事を聞かない選手たちに苛立っている。
チラッと父兄たちの方を見ると、父兄の人たちは監督の事をゴミを見るような目で見ていた。これにまた監督は、どうして自分がと言う感じで舌打ちをする。
(俺が何をしたって言うんだ……強いて言えばクラブ費用を使い込んだり、数人の奥さんと不倫関係になっただけ。それだけで、ここまでの仕打ちをするか!?)
ラビッツの監督はクラブ費用を使い込み。父兄のお母さんの一部と不倫関係になっていた。これらによって選手や父兄たちから嫌われているのだ。
どうしたものかと監督が考えていると、そこにアシスタントコーチがやって来る。
「監督、レッドスターズのスタメンについてなんですが」
「どうかしたのか? どれど……なに!?」
アシスタントコーチはレッドスターズのスターティングメンバーが書かれた紙を持って来た。誰が出るのかと、監督はメンバー表を確認する。するとメンバー表を確認して驚いて声を漏らしたのである。
(なんたる侮辱か! 東京や神奈川の名門クラブと対等に渡り合う〈山梨の絶対王者・レッドスターズ〉っ! 伊門監督の手腕と実力は尊敬している……しかし! これはウチを馬鹿にしすぎだ、まさに冒涜……バスケットボールを舐めるのも良い加減にしろ!)
メンバー表を確認した監督は自分たちが弱く、レッドスターズが強いからと馬鹿にしていると思っている。
監督は「集合!」と選手たちに叫ぶ。普段は大きな声を出さない監督なので、選手たちは「なに大声を出してるんだ?」や「あんな声出せるんだ」と驚く。
自分の呼びかけに反応しない選手たちに、監督は続けて「早く集まれ!」と叫ぶ。選手たちは困惑しながら「ど どうしたんだよ」と集まった。
「良いか、今日の試合……勝ちに行くぞ!」
「はぁ!? 絶対に無理だから!」
「レッドスターズと当たった時点で、俺たちは諦めてるからよ!」
監督は今日の試合に勝ちに行くと宣言した。
すると選手たちは絶対に勝てるわけが無いと、大笑いして監督の発言を馬鹿にするのである。弱小チームが強豪チームに勝てるわけが無いと諦めている。
しかし監督は「いや、勝てる!」と断言した。
どうしてそんな断言できるのだろうかと、選手たちは監督に疑念の目を向ける。
「理由は2つある! 1つはお前たちの潜在能力の高さ、才能だけで言えばレッドスターズの連中に見劣りしないと考えている。ただ真面目さが足りないだけだ」
『か 監督……』
「もう1つの理由は、向こうのスタメンにある。向こうのスタメンに、小学生時代にチームに所属していない1年生が出ている」
理由を語ったラビッツの選手たちは、自分たちは馬鹿にされていると感じた。監督の言う通り、自分たちにもチャンスがあると考えるようになる。
自分たちを馬鹿にした事を後悔させてやると、かなりやる気になっている。
しかし結果は、そう簡単にはいかない。




