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305  作者: 灰谷 An
第1章・1年次、全日本Jr.クラブ選手権 編
15/26

015:篩にかけられ

 樹里はキックアウトもCへの合わせも無理だと判断し、累のストップ&シュートへの対策をとった。腰の後ろに手を置いてストップさせない。これにより前はカバーに来た選手、後ろを自分という対応をした。

 もはや累は万事休す。袋の鼠と言っても過言ではなく、誰がどう見ても後ろに下がったりして仕切り直すのが、当たり前な定石である。



(さぁどうする! もう詰んでいるぞ!)



 累は止まる事なくペイントエリア内に侵入。

 そこには既にCの木村がカバーに出て来ている。突っ込んだとしてもブロックされるだけだ。

 誰もが引き返すと思った瞬間、ランニングステップを踏み始めた。まさかこんなバカみたいに、真っ正面から突っ込んでくるとは想定外だ。

 しかし想定外ではあるが詰んでいる事には変わりない。



(舐めんなよ、1年生が! どうせ、この前みたいに空中でターンするつもりだろうが、同じ手は喰らわん!)



 どうせ、前みたいに空中でターンをするレーアップをしようとしているのだろうと木村は考えた。どちらにしても弾き落とす事には変わりない。同じ手は喰わないとタイミングを測ってジャンプをしない。

 だが累はターンする事なく、2歩目を踏んでジャンプしたのである。ジャンプの仕方からターンしないのは直ぐに分かるので、さすがの木村も「なに!?」と声を出す。

 何もしないで突っ込んで来るだけなら、間違いなく100%で木村ならばブロックできる。このプレーに木村は警戒していたのがバカらしくなり「ふざけんな!」とジャンプをしてレーアップを真っ向から弾き落とそうとした。

 しかし累は木村がジャンプして空中に来た瞬間、今の今までボールを上に上げていたのを腹の位置まで下げる。つまりはダブルクラッチをしたのである。

 そしてそのまま木村の横を空中で通り過ぎる。



「な なんだと!? 嘘だろ!?」



 後に飛んだはずの木村が、先に飛んだはずの累よりも先に地面に着地したのだ。こんな事があって良いのかと、急いで累がいる方向を振り向く。

 するとそこにはダブルクラッチを綺麗に決め、地面に着地している累が目に入る。その累は、満面の笑みで舌を出しており、集中の最大値が今に出た。そしてその累に、木村はゾッとするのである。

 シュートを決めた累は「うぉおおお!!!」と叫ぶ。会場も累の雄叫びに合わせ「おぉおおお!!!」と沸く。

 完璧なプレーで会場を沸かせ、このまま累は勢いが付くのかと思われた。

 

 しかしここで累の集中力は途切れてしまった。特典はこのダブルクラッチと最初の3Pの計5点だけとなり、フィールドゴールも酷いものとなる。

 監督である大輔は「ここまでか……」と判断し、1年生の3人を交代させる。プレー時間は16分。

 結果は日を見るよりも明らか。Aチームの大勝。

 だがそれ以上に最後の累のプレーが、Aチームのメンバーの脳裏に残る。あのプレーだけは怪物と言うに相応しいプレーでは無いかと。

 結果は結果だ。

 累は5PTS・2\10FGM・2TR・5TOと散々な結果を残す事となってしまう。

 それでも累の表情は明るかった。何かを掴みかけているという実感を感じたのかもしれない。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 全日本選手権。

 Jr.クラブにおける全国大会の名称である。

 中学バスケは7つの連盟から成る。

 北海道連盟、東北連盟、関東連盟、信越連盟、東海連盟、関西連盟、九州連盟の7つだ。

 累たちが入団しているレッドスターズは山梨県にある。その為、加盟しているのは関東連盟なのだが、全日本選手権に出場する為に関東大会を勝ち抜かなければならない。



「おい、池田! ちゃんと聞いてんのか?」


「う うん」



 関東大会に向けたユニフォーム発表の日に、千隼は累に全日本選手権や関東大会について説明している。

 しかし累はソワソワして、ちゃんと聞いているのかが分からない状態だ。本人が聞いてるというので、千隼は溜息を吐いてから説明を続ける。



「関東連盟は200近いチーム数を誇る激戦区だ。だが全日本選手権に出れるのは上位12チームだけ、つまり4回だ……トーナメントを4回勝ち上がれば全国に行ける!」


「12チームだけなんだ、そんなに厳しいんだね」


「まぁベスト16に上がったチームだけによる敗者復活戦での全国出場もあるが。とにかく4回勝ち上がって、ベスト8に入れば文句なしで全国に行ける!」



 全日本選手権に出場する大変さを聞いた累は、とてつも無く大変なんだと感じる。

 すると2人のところに蓮もやって来た。



「もちろん最終目標は優勝だが、最優先事項は全国大会に出る事だ。レッドスターズに入ったからには、全国に出場して活躍するのが目的だ! 強豪校に進学して……ウィンターカップ出場の確率を上げる為にな!」



 蓮の目にはクラブチームでの全国出場以上に、高校進学後のところまで見えている。全国で活躍し少しでも強いところに進学する。そこに待っているのは、ウィンターカップという高校バスケにおいての花園を目指すのだ。

 しかし蓮は全日本選手権に出場する前にも厳しい戦いがあると、累に説明する。



「この目的を果たす権利を持てる人間は限られてる。まずは今日、レッドスターズの中で篩にかけられるんだ……確率は15\60だ!! レッドスターズには60人の部員が所属していて、関東大会の登録メンバーは15人だけ」



 関東大会や全日本選手権に出れるのは、このチーム内で篩にかけられ生き残った人間だけだ。

 60人も居る中で、メンバーに入れるのは15人だけ。

 この現場に累は「15人だけ……」と呟いてから「面白い」と微笑む。累の尻を千隼がゲシッと蹴る。



「オメェは、なにやる気出してんだよ!」


「いて!? な なに!?」


「関東大会のメンバーに選ばれると思ってんのか? オメェが選考会で酷い結果を残したんだろうが!」



 もしかしたら自分が選ばれるかもしれないと、累は思って目を輝かせているのだ。

 そんな累にイラッとした千隼が蹴り飛ばした。絶対にあり得ないと思ったからである。

 なんせ選考会で大いにやらかしたから。あの結果から見てベンチメンバーは不可能。



「確かにオメェの1on1は、目を見張るものがある。だけどな、集団での経験値が浅すぎるんだよ。経験の浅さによってディフェンスもアシストも既定のボーダーに達していない。現状ではメンバーに割り込むのは不可能だ」



 千隼は累に、どうしてメンバーに入るのは無理なのかを分かりやすく欠点を挙げて説明した。この説明で分からない方がおかしいというもの。累は確かに千隼の言う通りであると、ユニフォームは無理だと実感する。



「まっ俺たちは来年……いや、今年の秋にメンバー争いをするってところが筋だろうな。だから今は悔しさを胸に、この光景を目に焼き付けておけ。この先の人生を賭けた壮絶な戦いをな」



 そしてチーム全体に「集合!」と声をかける。

 選手たちは集まって整列し、ユニフォームメンバーの発表を行なうのである。

 4番から順番に呼ばれていく。メンバーがドンドン順調に呼ばれていき残り1人になった。



「最後の1人は……1年、池田 累っ!」



 まさかの最後のメンバーに選ばれたのは累だった。

 その場にはシーンッという音が聞こえて来そうなくらいに、驚きで静まり返っている。

 今の今までメンバーに入れないと思っていた累の表情は、目の前に化け物を見た時のようにピタッと止まる。

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