014:8度目の戦い
2Q目に入る。
さっきのプレーでトラウマになって消極的になってもおかしく無い中で、累は何度もボールを要求。そのまま樹里に仕掛け完全に止められたり、シュートを打つもリングに嫌われたりと完璧に封じられる。
しかしそれでも累はボールを要求するのを止めない。
目が死んでいないどころか、そのプレーの質は上がっているように樹里は感じていた。だから手を緩める事なく、累を潰しに行っているのだ。
累に持たせるのは悪くないだろうが、PGとして試合を壊しかねないと千隼は感じる。
このBチームには、もう1人の得点源がいる。そう蓮という天才だ。
蓮は3Pラインのトップで、千隼からボールをハンドオフで受け取った。マークマンは山梨県内でも有数なSFである安藤。累と樹里の戦いのように、この蓮と安藤の戦いは注目されているマッチアップだ。
「さぁかかって来いや、この超新星だ! 真っ正面からシュートを打ち落としてやるよ」
「安藤さん、アンタには無理だよ。俺のシュートは止められねぇ!」
蓮は ゆっくりとドリブルを始める。
様子を見ながら、ほんの少しの移動でも位置を調整して安藤はマークしていた。ビリビリ棒をやる時のように。
だがディフェンスだけが慎重なのでは無い。
蓮も周りを確認しながら、しっかりとマークマンの安藤の事を観察する。攻めっ気を悟られないよう落ち着いて落ち着いてピボットを踏む。
一向に攻めて来ない事に痺れを切らし、安藤は1歩前に出て距離を詰める。安藤の性格の1部を見たようなプレーだと言えるだろう。
詰めて来た瞬間、蓮は左ドライブを仕掛けた。もちろんリングに向かってフルの力でのドライブだ。
(なっ!? ストップした状態から、こんなスピード出るのかよ! 本当に中1か?)
動きが止まっている静の状態から、いきなり100%の力でのドライブでは、そこまでスピードは出ない。
しかし蓮は違った。いきなり100%のドライブのはずなのに、既に加速したような速度。安藤は本当に中学1年生なのかと疑うほどである。
それでも抜かれるわけにはいかないので、何とか安藤は蓮の真横にピタッと着いて行く。本当にギリギリで、反応が少し遅れるだけでも抜かれていただろう。
(この後、どうするつもりだ! このままなら俺と、舞華のカバーでダブルチームにして潰す。遅かれ早かれ外に展開するか、中に加藤が合わせるかのどっちかになんだろ! どちらにせよ、この攻撃は破綻してる!)
このまま中に突っ込んで行っても、2線のカバーに控えている啓太のカバーで挟まれる。そこでドライブが終了。あとは中にCが合わせるのか、外にいるPFの選手にキックアウトのパスをするかの2択だ。
どちらにせよ、この攻撃は終わっていると考える安藤。
ゴール下には木村が控えているので、中に合わせるのは難しいと言える。そうなればPFへのキックアウトが最有力候補に浮上した。
安藤と啓太はアイコンタクトして、外へのキックアウトのパスに気をつけるよう意思統一させる。
さぁどんな選択をするのか。
真横でドライブしているはずの蓮が、安藤の視界から突如として消えたのである。いきなりの事に安藤は「は?」と言葉が漏れた。
すると啓太が安藤に「ジャンプシュート!」と叫ぶ。
自分の後方を確認すると、ハイポストと3Pの間でピタッと止まっている安藤を発見した。
(はっ!? ふざけんなよ。あんだけのスピードでドライブしておいて、そんないきなり止まれるはずがねぇ! そんなはずがねぇんだ……!!)
蓮はカバーに来られるのを予期しており、ちょうど良いところでストップしたのだ。
普通ならば、あれだけの速度でドライブしておいてピタッと止まれるはずが無い。安藤ができなかったように。
しかし蓮はやってのけた。
蓮がシュートの為にストップしたのだと、安藤が分かった時には既に遅かった。急いでシュートチェックに行こうとするが、蓮は悠々とジャンプシュートを打つ。
綺麗なシュートフォームを見ながら安藤は「蓮っ!」と叫ぶ事しかできなかった。
シュートは中心に飛んでいきリングに当たる事なく、ネットに当たりシュパッという綺麗な音がなる。完璧なシュートで、観客たちも「おぉ!」と沸く。
蓮の活躍があり、AチームとBチームの戦いはギリギリで均衡を保っている。やはりBチームが勝利する為には、累が樹里に1on1を仕掛けて勝つ必要がある。
左45度で累はボールを保持。
累と樹里は、この試合が始まって8度目の睨み合い。過去7度も累を止めている樹里だったが、全くもって油断する事なく様子を見ている。
すると樹里はある事に気がついた。7度に渡ってボコボコにやられ、今回もやられるかもしれないとなれば人間の表情は普通、これまでに無いほどに暗いはず。しかし累の表情は、全くもって違った。
累は満面の笑みを浮かべながら舌をベーッと出し、異様な雰囲気を醸し出している。
(舌を出してる……これは無意識か!)
舌をベーッと出しているのは、身体の余計な力を抜くと共にパフォーマンスの最大化を引き出す為の行動だ。ちなみに累が舌を出しているのは、完全な無意識である。
小さい時から最大限に集中している時は、舌をベーッと出してしまう癖があった。姉の美咲からは「ちょっと気持ち悪いよ」と言われていた。しかし完全な無意識で癖になっているので、止めろと言われても無理な話だ。
この舌を出す癖は、いろんな国のスポーツ選手もやっている。陸上のウサイン=ボルト、野球のラーズ=ヌードバー、そしてバスケの神様・マイケル=ジョーダンが癖でやっていたものである。
さっきまでの累では無いだろうと樹里は考え、フーッと息を吐いて集中し直す。それくらいしないと、きっと累を止められないと考えたからだ。
ゆっくりと累はドリブルを開始する。
少し後ろに下がり、累は樹里との間合いを空けた。その間合いを利用して勢いを付けたと思ったら、カクッとスピードを落とし緩急をつけるヘジテーションを行なった。
スピードを落としたところから、一気に内側に向かってドライブを仕掛ける。一瞬の緩急で相手の足は止まり、また0から動き出し着いて行くのは至難の業。さらに累は最大限に集中しており、キレッキレに切れている。
(おぉこれなら抜け……いや、そう簡単にはいかないか)
離れたところから見ている蓮は、このキレがあれば抜けるんじゃないかと考えた。
だが直ぐに考えを改める。
樹里は累の横にピタッと張り付いている。普通の選手だったら、この速度で抜けただろう。
しかし樹里は累を1年生だからと油断する事なく、累は危険であると分かっていた。その為、一切油断する事はなく累の速度に反応する事ができたのだ。
(このままなら、さっきの蓮のようにカバーされる前にストップ&シュートか? 今の池田の技術なら、キックアウトもCとの合わせも無理だ。なら、やはりストップ&シュートを選択しそうだな……じゃあ少し後ろ目にディフェンスすればストップ&シュートは無い!)
樹里は冷静に状況を整理する。
このまま行けばカバーがやって来る。そうなれば選択肢として、さっきの蓮のようにストップ&シュートを選ぶ可能性がある。あとはキックアウトやCへの合わせなども考えられるが、累の技術を考慮したら考えられるのは1つ。
樹里は真横よりも少し後ろにディフェンスする。それは累の技術的にキックアウトとCへの合わせが無いと考えたからである。これこそが樹里の考えが。




