011:掴み取れ
Aチームの実力を目の当たりにした累は、自分も今日の試合で活躍をしたが、こんなモノでは足りないと感じざるを得なかったのである。
悔しい思いをしていながらも累は笑っている。
隣で試合を見ていた千隼は「なに笑ってんだよ、気持ち悪いぞ?」と若干引いて言う。
仕方ない事だ。
累にとって自分を超えるモノを見た時、まだまだ自分には成長の余地があると思うと楽しくなる。
普通の人間ならハナから諦めるか。もう自分とは住んでいる世界が違うと、戦いを放棄するかだろう。
ここが累のイカれているところの片鱗である。
Aチームの試合に感化された累は、次の日から普段の何倍もの心持ちでトレーニングをするようになった。
没頭したらトコトンやるのが累の良いところでもあり、悪いところでもあると言えるだろう。
ランニングも倍に増やしているのが良い例だ。
そして平日のチーム練習は、Bチームの全体練習に加えて樹里とのマンツーマンのメニューを行なう。樹里が多少は緩めてくれてはいるが、それでも1年生にとってはキツいものである。
しかし気合いが普段よりも入っている累は、足腰がガクガクでも目は死なずに立ち上がっていた。
「ん? まだやれるのか?」
「はい! まだやれます!」
この前までは倒れたまま体力の限界で、残りは樹里だけで練習していた。
しかし今日は違う。足腰が小鹿のようだが、まだやれると満面の笑みで続きを頼んだ。
その累を見た樹里は「ほぉ」と顎を触り面白がる。
気合いがあっても体がついて来ないものだ。その時は無理矢理に立ちあがろうとするが、そこは樹里がポンッと累の肩を優しく叩いて「休め」と言った。
「ま まだやれます……」
「良いか? 努力するのとオーバーワークは違うぞ。100%以上の無理をして、満足しているような選手は3流以下だ。ストレッチしながら水分補給してろ、俺は残りのメニューをやってくるから」
「すみません……」
累は楽しいという気持ちと、まだまだ上手くなる必要があるという焦りからオーバーワークになりそうになる。
無理は絶対に後から自分に悪い意味で帰ってくる。そんな無理をして満足しているような人間は、3流以下というのが樹里の考え方である。
話に納得した累は、樹里に言われるがままにボトルを持って来て、飲みながらストレッチを行なう。
それにしても、このレベルのメニューを当たり前にしている樹里や先輩方に寒気がして来る。累の心に、いずれは絶対にやれるようになってやるという思いが芽生えた。
そしてまたリーグ戦を行なう。
累はBチームで1試合の出場時間は短いものの確実に出場機会を伸ばして行った。
5月半ばに最終戦を迎える。
累は10試合中の全試合に出場して《9.6MINPG|12.4PPG|3.2RPG|1.2APG|1.9TOPG》という1年生にしては圧倒的なスコアを残した。
6月に入り全日本Jr.クラブ選手権の予選大会である関東大会が始まろうとする。
しかしその前にレッドスターズにとって大きなイベントが待っていた。それは大会のメンバーを決める選考会を含めたAチームとBチームの対抗戦だ。
「対抗戦な、毎年毎年やってるんだよ。基本的に関東大会に出場するメンバーを決める為の選考会にもなっているのは確かだが……まぁ下剋上の意味もあるな」
「下剋上ですか?」
「あぁこの試合で結果を残した2軍の選手が、1軍に昇格した上でベンチ入りした前例もある」
「本当ですか! それならモチベーション上がりますね」
「だけどな、BチームがAチームに勝った前例は……無いんだよ」
樹里は累と一緒にストレッチをしながら、選考会について教えた。どんな人が対象なのか、どんな利益があるのかなどを色々と手取り足取り教える。
しかし色々と説明した上で、BチームがAチームに勝利した前例など無いと言った。それだけ難しいのだ。
関東大会を経て全国大会と過酷な戦いが多い。
そんな過酷な戦いの前に、チーム内で熾烈なベンチメンバーを奪い合う戦いがある。
「池田、お前も自力で掴んでみろ。ユニフォームをな」
「はい! 凄く楽しみです!」
「良い顔だ。もしメンバーに入れたら、とっておきの場所に連れてってやる」
真っ正面からユニフォームを掴んでみろと樹里は、累の士気を煽るように行った。まんまと累は、結果を残してユニフォームを着てみせると心に誓った。
そして選考会当日。AチームとBチームのスターティング表が張り出される。
発表されたメンバーは、選手たちを困惑させた。
まずBチームのスターティング5に3人の1年生が選出されている。もう1つはAチームが濃厚だった蓮が、まさかのBチームのスターティングメンバーとして名前が書かれていたのである。
「おい、クソ親父! どうして俺がBチームのスタメンなんだよ!」
「おいおい、まさか自分はAチームだと思い込んでいたのか? そりゃあ自意識過剰だな」
「このクソ親父がぁ!」
「まぁ冗談は程々にして、本当のところを言うと……こっちの方が面白そうだしな!」
どうして自分がAチームじゃなくてBチームなのかと、蓮は監督であり父親である大輔に問いただす。そりゃあ抗議するのも理解できなくは無い。なんせレッドスターズの誰もが、蓮の実力を認めているからだ。
蓮に大輔は真顔で自意識過剰なのでは無いかと怒るでもなく言うのである。
だが直ぐにニカッと満面の笑みで面白そうだからと、子供がオモチャを持った時のような感想を述べた。ふざけんじゃねぇと思ったが、もうこんな性格なのは子供として知っているので言うだけ無駄だと諦める。
そして他の1年生は累と千隼の2人。
「おい! 池田と牛沢っ! 絶対にクソ親父のハナを明かすぞ、こんなところで負けてたまるかよ!」
「う うん」
「お おぉ別の方向で燃えてるな」
同じ1年生である累と千隼に、大輔を見返してやろうと鬼のような形相で結束を求める。別のベクトルで燃えている蓮に累は困惑しながらも返事をした。
試合が始まる。
【Aチーム】
PG:小林 康之(2年生169cm)
SG:勝場 樹里(3年生186cm)
SF:安藤 誠 (3年生179cm)
PF:舞華 啓太(3年生185cm)
C :木下 正彦(2年生181cm)
【Bチーム】
PG:牛沢 千隼(1年生151cm)
SG:池田 累 (1年生158cm)
SF:伊門 蓮 (1年生161cm)
PF:岡田 俊太(3年生177cm)
C :加藤 秀昭(3年生180cm)
両チームは互いに向かい合って並び、審判である大輔が全体に向けて「クリーンで熱い試合をするように!」と声をかけてからピッと笛を吹いて「礼!」と叫ぶ。選手たちは「よろしくお願いします!」と頭を下げた。
センターサークルにCの木下と加藤が並ぶ。
後輩である木下の方が、先輩である加藤に「よろしくお願いします」と握手をして挨拶をした。先輩ながらBチームにいる加藤からしたら、挨拶はするが良いライバルだと思って気合いが入っている。
そして大輔がセンターサークルに入り、Cの両選手の状態を確認してからボールを上に上げティップオフする。
空中に上がったボールを先に触ったのは木下。そのまま後ろに弾いて、木下の後ろに居た樹里がボールを保持。
ボールをパンッと叩いて「ゆっくり行こうか、先は長いからね」と言って全体を落ち着かせる。
運命の一戦が幕を開けた。




