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改 悪役令嬢がいじめてこないのでストーリーが進まない! 〜もしかして私は、悪役令嬢がヒロインの物語で断罪される元ヒロインですか!?〜  作者: うみの もずく
この世界のヒロインは

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8話:攻略対象?いいえ、お目付役です

 生徒会室にいた私に、珍しくアレン王子からお声がかかった。


「ヴィリアリナ嬢、今から大学部の特等室に行っておいで」

「……?分かりました!」

 

 学園は、私たちが通う高等部に大学部が隣接している。

 渡された地図を頼りに、大学部の生徒会室にあたる「特等室」へと向かった。


(特等室も、王家と公爵家の人しか使えないらしいけど……誰が待ち構えているんだろう?)


 理由を聞きそびれたことを今更思い出し、緊張で心臓を鳴らしながら扉を叩く。


「失礼します……」


 重厚な扉を開けた先にいたのは、浮世離れした絶世の美男子だった。美しいブロンドの長髪を後ろで緩く束ね、唇には優雅な微笑みを湛えている。

 その顔立ちに、強烈な既視感を覚えた。

 

「……し、師匠!?」

(いや、師匠にしては若すぎる……若返りの術!?)

 

 入学前、『試練の間』で私に地獄のレベリングを叩き込んでくれた師匠と瓜二つの男性が、中央の椅子に深く腰掛けていた。

 その傍らには、あの「冷徹な方のシルベール様」が控えている。

 驚きで硬直する私に、彼は不思議そうに首を傾げた。

 

「師匠? もしかして、エドマンド叔父上に会ったことがあるのかい?」

「エドマンド……?」

「彼は雷を扱わなかったかな?」

「は、はい! 使っていました!」

「なら、その人は私の叔父だ。ヴォルクも同じ師に鍛えられたんだよ」

 

 彼が隣のシルベール様に視線を送る。今日は「ジーク」ではなく、教えてくれなかった真実の名――ヴォルクと呼ばれていた。

 

「君の妹弟子、ということになるね」

「……そうか」

 

 シルベール様が低く呟く。

 

「どこで出会った」

「ええと、洞窟の中で……」

(『試練の間』って普通に言っていいのかな……?)

 

 言葉を濁す私を、シルベール様が射抜くような視線で訝しむ。しかし、美青年が軽やかな声で助け船を出してくれた。

 

「まあまあ。叔父上のことだ、どこに現れてもおかしくないさ。……自己紹介がまだだったね。私はユリウス・ランカスター。アレンの兄だよ」

(アレン王子の兄!?ということは、この方が第一王子殿下!?そして師匠って王弟陛下だったの!?)

 

 慌てて跪こうとしたが、ユリウス殿下はにこやかにそれを制した。

 

「学園では無礼講だ。堅苦しいのは抜きにしよう。よろしくね、聖女様」

「は、初めまして。ヴィリアリナ・イースティアと申します」

 

 カーテシーで挨拶を返す。彼の頭上にもラブメーターが見えるが、数値は「0」。

(第一王子、彼も攻略対象だっけ……?)

 

 ステータスが見えないことで少なくともレベル60以上と分かる彼は、魔王戦の参加基準をすでに突破している。攻略対象であれば、攻略後のスキルも気になる所だ。

 ……が、それよりも今は呼ばれた理由だ。アレン王子に精神魔法をかけようとした企みがバレたお咎めだろうか。


「あの……殿下、本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

 顔色を伺いながら、恐る恐る尋ねるとユリウス殿下は歌うような口調で答えた。

 

「君を呼んだのは、聖女としての仕事の依頼。そして――護衛の紹介のためだよ」


(良かった…!打ち首じゃなかった!)

 ホッと胸を撫で下ろした私を他所に、ユリウス殿下の話は続く。


「まず、私は君の後見人になった。といっても、衣食住のサポートをするくらいだから、困った時の相談窓口だと思ってくれていい」

「はい、ありがとうございます」


 殿下をサポートセンターにするなど畏れ多いが、一旦頷く。

 

「次に、聖女リリアージュが持つ聖書の解読と、魔物の討伐に協力して欲しい」

「承知いたしました」

「最後に、君の護衛の紹介だ。聖女としての巡礼や公務の際は、彼と共に行動するように」


 ユリウス殿下が促すと、隣にいたシルベール様が一歩前に出た。


「ヴォルク・シルベールだ。貴女の身辺警護を拝命した」

「よ、よろしくお願いします……」


 感情の灯らない冷たい瞳に見下ろされ、尻込みしつつ挨拶を返す。彼の目線は護衛対象というより監視対象を見ているかのように鋭い。

 けれど、これで生徒会室に彼が紛れ込んでいた謎が解けた。


「だから、あの日も生徒会室にいらっしゃったんですね」

 

 護衛としての事前調査か何かだったに違いない。納得して尋ねれば、彼はわずかな沈黙の後、短く肯定した。

 

「……ああ」

「……?」


 返事までに少し空いた間を不思議に思っていると、それを振り払うように、ユリウス殿下が口を開いた。

 

「ヴォルクはレベル68だ。学生だけれども腕は確かだから、安心していいよ」

 

 ユリウス殿下がサラリと言った言葉に耳を疑った。

(レベル68……?)

 貴族の平均レベルが50。その中でも才に恵まれた者がやっとレベル70といったくらい。大学部とはいえ、学生の身分でありながらその数値は異常だ。


「さて、早速だけど、聖女リリアージュが持つ聖書の解読を手伝って欲しい。今週末は問題ないかい?」

「はい、仰せのままに」


 王命を断るほどの予定など、この世に存在しない。

 こうして私は週末、王都にあるリリアージュ様の邸宅――ローゼンラーク公爵邸へと向かうことになったのである。



 ヴィリアリナの退室を見送った2人は、その気配が完全に離れたことを確認してから口を開いた。

 

「やはり、彼女には偽装が効いていない」

「ははっ、ヴォルクの言った通りだね。レベルが高すぎるのも考えものだ」

 

 椅子をくるりと回転させ、ユリウスが芝居がかったため息をつく。

 

「まさか叔父上が鍛えていたなんてね。アレンを望むのは権力目当てか……それとも本能かな?」

「……」

「まあ、どちらにせよ、彼女が『堕ちる』のは避けたいね。被害が出たら私の責任になる。まったく、後見人なんて面倒なものを押し付けられたよ」


 やれやれと嘆くユリウスの脳裏には、彼の廃嫡を願う第二王子派の面々が浮かぶ。

(こんな面倒な事を押し付けなくても、王位なんて興味はないのに)

 ため息を吐いたユリウスに、ヴォルクは淡々と告げる。

 

「その時は暴走前に始末するまでだ」

「頼もしいね。ただ、彼女の機嫌も取ってくれよ?心の闇は『侵蝕』の速度に影響するからね」

「……」


(こちらは期待できそうにないか)

 心の中で苦笑しつつ、ユリウスは思考を切り替えた。

 

(聖女リリアージュの覚醒時に現れた、未来を記すという聖書。所有者本人にすら読めないあの代物を、果たしてあの聖女様は解読できるかな?)


 ――まさか、当の本人が「リリアージュ様の家、池あるかな?」なんて呑気に考えていることは、この時の2人は知る由も無かった。

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