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改 悪役令嬢がいじめてこないのでストーリーが進まない! 〜もしかして私は、悪役令嬢がヒロインの物語で断罪される元ヒロインですか!?〜  作者: うみの もずく
この世界のヒロインは

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9話:もしかして私は、悪役令嬢が主役の物語で断罪される「元ヒロイン」ですか!?

(でっか……ドーム球場でも建てられそう……)

 

 週末。案内されたローゼンラーク公爵家の本邸は、一目では見渡せないほど広大だった。

 

 通された応接間でリリアージュ様の両親――公爵夫妻への挨拶を済ませると、リリアージュ様が例の「聖書」を抱えて現れた。

 その顔色は幽霊のように青く、今にも倒れてしまいそうだ。


(そういえば、設定では病弱だったっけ)

 生まれつき身体が弱く、10才まで生きられないと言われていた彼女を、家族は蝶よ花よと甘やかした。その甲斐あってか奇跡の回復を遂げたが、結果として「手が付けられない我儘令嬢」になった……というのがゲームの設定だった。

 けれど、目の前の彼女を見ていると、回復しきっていないどころか、何かに怯えて削り取られているように見える。

 

 彼女が震える手で差し出してきた「聖書」。その表紙には、幸せそうに見つめ合うリリアージュ様とアレン王子が描かれていた。

 ……だがそれよりも、そこに書かれた「タイトル」を見て私は驚愕に目を見開いた。

 

『捨てられた幼女は、2度目の人生で「完璧」を纏う。〜悪役令嬢に転生しましたが、溺愛ルートに入ったようです〜』

 

「えっ!?これって……」

(ラノベ!!?なんでここに……?しかもこの世界に来る直前に読もうとしてたやつ!?)


 その反応を見たリリアージュの瞳に諦めと絶望が影を落とす。

 彼女の絶望が呟きとなってポツリと溢れた。


「やはり……貴女には読めるのですね……転生した私では力不足なのね……」

「えっ……?転生……?」


 さらりと明かされた衝撃の告白に耳を疑う。


「リリアージュ様は転生者なのですか……?」

「……?ええ、そうよ。聖属性が使えるもの…。……ヴィリアリナさんは「転移者」よね?」

「え……?なんで知って……」

 

 常識だと言わんばかりの言葉に、今度は私が青ざめる番だった。

 ゲームとは180度違う、聖女のような振る舞い。一向に始まらないいじめイベント。彼女も「中身」が違う、転生者というなら、全ての合点がいく。元悪役に転生して、破滅を回避しつつヒーローと結ばれる――最近流行りの「悪役令嬢もの」として、王道の展開だ。

 

 彼女の話によれば、この国の歴史において「聖女」は『転生者』か『転移者』しかおらず、この世界の赤ん坊として生まれるのが転生、異世界からそのままの姿で召喚されるのが転移と定義されているらしい。

 そして、転生者より転移者の方が力が強いと言う。


(それで言ったら、私は転『生』者じゃ……?)

 前世とは似ても似つかぬ容姿の私を、転移者と定義することに疑問を抱きつつ、もう一つの疑問が頭をもたげる。

(転生者なら、なぜこの聖書(ラノベ)が読めないの?)

 不思議に思いつつ表紙をめくり、私はリリアージュが主役の物語を食い入るように読み進めた。


 ――最後の一文を読み終えたところで、私は本を閉じた。

 

「……解読、できたのですか?」

 リリアージュ様が、僅かに潤んだ瞳で私を見上げてくる。震える長い睫毛。その可憐な姿は、まさしく物語のヒロインに相応しい。

「一応、……はい」

「…すごい、 内容を教えてはいただけませんか?」

「えっと……」

 

 なんて説明すればいい。たった今読み終えたこの聖書によると――私は、悪役令嬢が主役の世界で、最終的に断罪される運命の「元ヒロイン」らしい。


 *

 

 物語のあらすじはこうだ。

 現代日本で虐待を受けて亡くなった少女が、悪役令嬢リリアージュに転生。彼女は捨てられたくない一心で血の滲むような努力を重ね、誰からも愛される完璧な聖女となる。

 一方、後から現れた元ヒロインの聖女(私)は、ゲームの知識を悪用して私利私欲に走り、魅了魔法で王子を奪おうとする悪女。最後にはリリアージュの真実の愛の前に敗北し、断罪され、魔王化して討伐される。

 

 私に課された罪状は3つ。

 一、同意のない強制的な魅了。

 二、リリアージュからのいじめの捏造などの詐称罪。

 三、王族と高位貴族の暗殺未遂。

 これらにより、私は2年生の時に断罪・討伐される運命だ。

 

(魅了魔法……いじめの捏造……危ない、考えかけてた……!)

 犯しかけていた大罪に冷や汗をかきつつ、リリアージュ様の過去に目を向ける。

 5歳でその生涯を終えた、莉愛(りあ)ちゃん。彼女の「完璧」な努力は、すべて捨てられることを恐れる悲鳴だったのだ。

 

「……莉愛ちゃん。……頑張ったんだね、1人で」

 ポツリとこぼすと、リリアージュ様がハッとして目を見開いた。

「……どうして、その名を……?」

 

 彼女がこの本を読めなかった理由が、ようやくわかった。彼女は5歳で亡くなったから、日本語の「漢字」が読めなかったのだ。だから自分の過去も、この物語の結末も知らずに怯えていた。

 

 3年後に復活する魔王は、絶対に倒さなければならない。

 けれど、この物語を読んだ今、私は彼女から居場所を奪う気なんて、さらさらなくなっていた。


 本の後半、3分の1は白紙だ。私が断罪された後の「本物の魔王戦」について何も書かれていないのが気になるが、まずは私が魔王戦の前に物語からリタイア(処刑)されるのを防がなければならない。

 

「リリアージュ様、聞いて。この聖書によれば、3年後に魔王が復活する。私は殿下を奪ったりしないし、あなたを全力で応援する。だから、協力してほしいの!」

「そんな……魔王が復活する……? でも、私に何ができるというの……」


 怯える彼女の両肩を、私はガシッと掴んだ。

 

「アレン王子を全力で籠絡して、溺愛されて!!」

「……えっ!?」


 ずっと青白かった顔が、一転してリンゴのように真っ赤になる。

 王子のスキルが世界を救うために必要なこと。そのためには「真実の愛」が必要不可欠なこと。そしてその愛を向ける相手はリリアージュであること。私は熱弁を振るった。


 今後の羅針盤となるはずだったゲーム知識は、音を立てて崩れ去った。

 代わりに手に入れた『聖書』を新たな道しるべに、魔王討伐と断罪回避という最高難易度のクエストが、今幕を開ける。

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