69話:転移のペンダント
付与の工房では、聖属性にも応用できそうな珍しい技術を見学することができた。また、ここではガラスも扱っており、繊細なガラス細工に目も楽しむことができた。
一通り見終えたところで、フォル爺が破魔の聖剣を抱えて戻ってきた。
「素晴らしい代物を見せてもらった、どうもな。材質が特殊なもんで、今日は刃を研ぐ程度しかできんが、もし欠けるようなことがあれば持ってこい。手入れはこれまでと同じで構わん」
「ああ、助かった」
ヴォルク様が剣を鞘から少し抜くと、刃は鏡のように光を反射し、彼の眼差しを映し出した。
「それと、これだ。頼まれてたもんも出来たぞ」
続いてフォル爺が差し出したのは、2本のペンダントだった。中央のひし形ガラスの中で、神秘的な青い液体がゆらゆらと揺れている。
「……!流石だなフォル爺、感謝する」
ヴォルク様はフォル爺に目線を合わせて屈み、それを丁寧に受け取った。
「強い衝撃を与えんと割れん作りにしてある。誤作動はないと思うが、扱いは慎重にな」
「ああ、承知した」
やり取りを終えたフォル爺が、こちらへ向き直った。
「聖女様、ヴォル坊は筋はいいんだが、昔から自分を後回しにして怪我ばかりするでな。どうか見張ってやってくだせぇ」
「フォル爺、だから俺はもう……」
「はい!ヴォルク様は私がちゃんとお守りします。それに、今のヴォルク様は昔みたいに無茶な戦い方はされませんよ」
胸を張って答えると、フォル爺は顔に刻まれたシワを深くして笑顔になった。
「頼もしい聖女様だ。良かったらこれさ受け取ってくだされ。転ばねよう、おまじないをかけてある」
「わぁ……!素敵なアンクレット!ありがとうございます!フォル爺さんもお怪我をされたらすぐ治しますから、いつでも呼んでくださいね!」
鈍い銀色に輝く華奢なそれを受け取り、温かい気持ちで工房を後にした。
*
帰り道の馬車の中。早速もらったアンクレットを身につけていると、向かいに座るヴォルク様が、静かに口を開いた。
「ヴィリアリナ、これを受け取ってほしい」
「あれ、これってさっきの……」
差し出されたのは、先ほどフォル爺から受け取っていたペンダント。澄んだ青の液体が揺れるたびに光を反射して美しい。
「これは対になる転移の魔道具だ。片方を割ると、もう片方の所持者の元へ一瞬で転移する。……俺と共に出陣するなら、討伐隊では常に最前線だ。万が一はぐれたり、危険が迫った時は迷わず割ってくれ」
(すごい!なんて便利アイテム……!)
私はその性能に感動しつつ、彼の手から慎重にペンダントを受け取ると、その場ですぐに首にかけて見せた。
「ありがとうございます!どうですか?」
「その……きれいだと、思う」
「ですよね!深海みたいな深い青で、本当に綺麗です……!転移魔法を液体に封じ込めるなんて、どういう仕組みなんでしょう?」
「…………フォル爺の企業秘密だそうだ」
なぜか複雑そうな顔でため息混じりに答えたヴォルク様も、お揃いのペンダントを首から下げると、シャツの中にしまい込んだ。
(ん……?なんでため息……?)
謎のため息の理由に思考を巡らせかけたその時、ふと視線を向けた窓の外に広がった活気ある街並みに私の心は奪われた。
「わぁ!立派な温泉街……!えっ!?玉こんにゃくに、おでん!?…………ヴォルク様……!」
「……寄って行こうか」
「はいっ!お願いします!!」
(リリアにお土産も買ってこーっと!)
停めてもらった馬車から踊るように飛び降り、賑やかな温泉街を指差す。
「あのお店に行きましょう!」
後ろを歩くヴォルク様を振り返りながら、初めてもらったプレゼントを、何度も何度も無意識のうちに握りしめていた。




