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悪役令嬢がいじめてこないのでストーリーが進まない! 〜もしかして私は、悪役令嬢がヒロインの物語で断罪される元ヒロインですか!?〜  作者: うみの もずく
聖女の巡礼〜シルベール公爵領〜

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68話:『坊』扱いの最強騎士と不動のメーター

 用意された宿泊地は、貴族御用達の高級温泉宿だった。部屋付きの風呂はもちろん、立派な大浴場もある。巡礼期間中はなんと宿が丸ごと貸し切りだというから驚きだ。

 

 今日はリリアは部屋風呂を選んだため、広々とした大浴場を独り占めして来た。

 渓谷を眺める最高の立地の岩露天風呂。貸切状態にテンションが上がり、こっそり平泳ぎをした拍子に、足をぶつけたことはナイショだ。


 お風呂上がりにマッサージも受けられたのでお願いし、ツヤツヤになった肌に感動していると、ちょうど夕食の時間となった。部屋に運ばれてきた夕食に舌鼓を打っていると、配膳係と共にヴォルク様が明日の予定を告げにやってきた。

 

「ヴィリアリナ、明日は1日巡礼は休みだ。宿で休んでもいいが、行きたいところがあれば案内する」

「え!ほんとですか!?そうですね……」


 今日の浄化は、本来1週間のうち3日が割り当てられていた。その作業が1日で終わったため、急遽休日が貰えることになったらしい。

 移動の疲れと魔法の連続使用でリリアの体調が優れないとも聞いていたため、ここで一度体を休めることができてホッとする。

 

(この高級宿で1日まったり……っていうのも素敵だけど、せっかくならここでしかできないこともしたいな。シルベール領といえば……)

 

 私は事前に予習した領の特徴を思い浮かべる。一番楽しみにしていた食事のほかに、温泉や武器などの金属加工品も有名だった。


(温泉街巡りもいいな!でも、せっかくヴォルク様が案内してくれるなら、防具の製作過程とか見れないかな?防具に『聖域』付与とかできたら強いなって前々から思ってたんだよね)


「武器や防具を作るところを見てみたいです!鍛冶場とか……見学できそうなところはありますかね……?」

「鍛冶場か……一箇所あてがあるんだが、親方が貴族嫌いでな。荒っぽい口調なんだが、それでもいいか?」

「あ、全然大丈夫です!一応確認ですが、女性でも入れますか?」

「ああ。あの工房は能力主義で性別は気にしない。女性の職人もいる」

 

 火の神が忌み嫌うなどの理由で女性の立ち入りを禁じる鍛冶場もあると聞いていたので、胸を撫でおろした。


「ちなみに、親方はどうして貴族が嫌いなんですか?それに、ヴォルク様も貴族なのに、大丈夫なんですか??」

「親方は自分が納得したものしか作らず、認めた者にしか売らん頑固者だ。腕が確かだから貴族からの依頼も殺到するんだが、その性格ゆえに何度も揉めてな。今は公爵家のお抱えとして保護し、依頼はすべて公爵家を通させている。根は情に厚い男だから、金や権力を笠に着なければ問題ない」

「なるほど、気をつけます」

 

 確かにプライドの高い貴族との相性は悪そうだ。その後は明日の集合時間を決め、残りの夕食を堪能して部屋の温泉にも浸かり、心地よい疲労感と共に眠りについた。


 *


 案内された鍛冶工房は、冬の冷気を吹き飛ばすほどの熱気に包まれ、金属を打つ甲高い音が絶え間なく響いていた。

 

 入り口の職人にヴォルク様が声をかけると、奥から小柄な男性を連れて戻って来た。

 岩のように頑丈そうな体躯に、立派な髭。まさにファンタジーに登場するドワーフそのものだ。いかめしい顔つきだった男は、ヴォルク様の姿を認めるなり一気に表情を崩した。

 

「おお!ヴォル坊でねぇか!元気だったか?またデカくなったな!」

「フォル爺……もう『坊』なんて歳じゃないんだが……」

「今日は剣か?防具か?お前(め)さんは無茶して怪我が多いからな、背中を護る盾でも作ってやっか?」

「いや、今日は工房の見学に来……」


 珍しく押し込まれているヴォルク様が用件を伝えようとした時、フォル爺の鋭い視線が携える剣に留まった。

 吸い寄せられるように2歩、3歩と歩み寄り、その鞘に触れる。

 

「こ、これは……。……破魔の聖剣!?ヴォル坊、これをどこで……」

「討伐した黒龍から現れたものを授かった」

「こんな宝物を一体誰から……」

「こちらの聖女ヴィリアリナからだ」


 ヴォルク様が私を振り返る。フォル爺と初めて目が合い、私はぺこりと会釈した。


「初めまして、ヴィリアリナと申します。本日、こちらの工房を見学させていただけないでしょうか?」

「せ、聖女様……?なしてこげな(なんでこんな)とこに……」

「突然すまない。邪魔にならないよう見学させてもらいたい。それともしよければ、破魔の聖剣の状態を見てくれないだろうか?」


 そういってヴォルク様は腰から剣を外し、丁寧にフォル爺に渡した。

 聖剣を受け取ったフォル爺は、少年のようにキラキラと目を輝かせた。

 

「……!破魔の聖剣さ預けてくれっか!?工房なんぞ好きなだけ見てけ!良いもんさあったら持ってっていいぞ!」


 フォル爺は剣を大切そうに胸に抱えると、足早に奥へと戻っていってしまった。


「……すまない。鍛治のこととなると周りが見えなくなる人でな。ひとまず見て回ろう。気になったものがあれば言ってくれ」

「いえ、変に気を遣われるよりずっと居心地が良いです。それより……『ヴォル坊』って呼ばれているんですね?」

 

 ニヤリと口角を上げて見上げると、ヴォルク様は気まずそうに視線を逸らした。

 

「……幼い頃からの付き合いだからな。もう『坊』はやめてくれって言っているんだが……体格に合わせて何度も武具を作ってもらったから、幼かった頃の感覚が抜けないんだろう」


(討伐隊ではあんなに恐れられてるヴォルク様が、『坊』だなんて)

 

 案外かわいい一面があるのだと頬が緩むのを感じていると、ヴォルク様は居心地悪そうに背を向けてしまった。

 

「制作工程が見たいなら右、完成品への魔力付与を見たいなら左だ。どちらがいい」

「どっちも見たいので、まずは右からお願いします!」

「分かった。危険なものがそこらかしこにあるから、勝手に触るんじゃないぞ。特に足元、段差や道具に気をつけろ」

「はーい」


(私は子供かっ!)


 まるで保護者のような注意に内心ツッコミつつ、広い背中の後を追った。


 *

 

 赤く灼けた鉄が鍛えられていく様を見学していると、細身のブレスレットが無造作に積まれた一角が目に留まった。


(あのブレスレット……破魔の聖剣を取りに行った時に、ヴォルク様が私にかけた追跡魔法に似ているような。……そういえば、あの時どうやって呼び出せばよかったんだろう?)


 ふと浮かんだ疑問を解消したくなり、前を行く背中に声をかけた。


「ヴォルク様、以前私に追跡魔法をかけた時、『身の危険を感じたら呼べ』と言っていましたが、どうしたら良かったんですか?」

「?」


 だが、ヴォルク様は足を止めたものの、首を傾げるだけだった。響き渡る金属音にかき消されてしまったらしい。私は少し声を張り上げた。


「ヴォル……ま、前……時、『身のきけ……」

「す……ない、き……か(すまない、聞こえなか)った」


(……?『聞こえなかった』かな?)


 工房内の騒音で、互いの声が途切れ途切れになる。

 私はヴォルク様に近づき、彼が少し屈んで傾けてくれた耳元へ背伸びした。自分の口元と彼の耳を覆うように両手で筒を作り、至近距離で声を張る。


「ヴォルク様、以前私に追跡魔法をかけた時、『身の危険を感じたら呼べ』と言っていましたが、どうしたら良かったんですか?」


 瞬間、ヴォルク様の肩がぴくりと跳ねた。

 反射的に身体を離した彼からの答えは口からではなく、風魔法で直接脳内に届く。


『腕輪に魔力を注いで話しかければ通じる仕組みだった。あの時、ケルベロスの倒し方を教えてくれただろう』

(えっ!?あの時の独り言、全部筒抜けだったの!?)

 

 驚きで目を見開く私に、風魔法の声が重ねられる。

 

『まさか、知らなかったのか?』


 コクコクと首を縦に振る。


『そうか……説明が足りなかったな。すまない』


 とんでもないと首をぶんぶん横に振る。


(あの時はヴォルク様がいてくれて助かりました!)


 そう伝えようと再び耳元に近づこうとしたが、彼は今度は屈んでくれなかった。それどころか、びくりと一歩後ずさる。


(あ……そっか、攻略度(好感度)0だっけ。名前で呼ぶ許可も貰って、なんだか少し仲良くなれた気がしてたけど、勘違いだったかな……)


 そういえば彼は不動のメーターの持ち主。念のためチラリと彼の頭上を確認してみたが、そこには相変わらず無慈悲な『0%』が表示されていた。


 私は風魔法が使えないため、声の届かないここでは会話が続かない。気まずい沈黙が流れたその時、またもや直接脳内へ声が響いた。

 

『ここは周りの音が大きすぎる。あちらの区画へ移動しよう』

 

 私は頷くと、さっさと背を向けて歩き出してしまった彼の背中を追い、完成品への付与を行う工房の方へと向かった。

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