61話:巡礼前夜 真剣に選ぶおにぎりの具
遂に、明日からはリリアが合流し巡礼が始まる。私はシルベール公爵邸での夕食に舌鼓を打っていた。
「今日のご飯もどれもこれも美味しいですね〜!」
「ふふ、ヴィリアリナちゃんがそう言ってくれるから、料理長が張り切ってるわ。ほら、うちの人たちは……反応が薄いでしょう?美味しい美味しいって食べてくれるのが嬉しいみたいで……」
セレナ様が頬に手を当てため息を吐く。話題の先にされた男性陣は、おのおの呟き出した。
「もちろん、美味しいですよ」
「ああ、美味い」
「うむ」
ジーク様以外のほぼ頷くだけのような反応に、「ほらね?」というようにセレナ様が眉を上げた。
思わずふふ、と笑いを溢した私のもとに、料理長が次の料理を運んできてくれた。
「今日の焼き物は、銀たらの幽庵焼きにございます」
「わぁっ!美味しそうですね!ゆうあん焼きってなんですか?」
「醤油ベースに柚子を合わせたタレに漬け込んで焼いたものにございます。ご飯によく合いますので、おかわりの際は遠慮なくお申し付けください。本日は『つやひかり』を炊いております」
お米も特産品に数えられるシルベール領では、銘柄米も生産されており、それがまあ抜群に美味しい。お米をおかずにお米を食べられる程である。
「こんなクールな反応をしているけど、ヴィリアリナちゃんがすき焼きと夕飯を食べてくれた日に、感動して泣いていたのよ?」
「お、奥様……その話は……」
思わぬ暴露をされた料理長が恥ずかしげに帽子を深く被った。
「料理長!私、毎日すごく楽しみにしてました!今日のお魚もとっても美味しいです!」
「ありがたき幸せにございます、ヴィリアリナ様……!」
料理長が深々と頭を下げて下がり、私は早速、目の前の銀たらの幽庵焼きに箸をつけた。
香ばしい醤油と爽やかな柚子の香り。脂の乗った身は口の中で柔らかく解け、上品な旨味が広がる。すかさずツヤツヤの『つやひかり』を頬張れば、もう口の中が幸福感で満たされる。
「美味しい〜っ!やっぱりここのお米とお魚は最高ですね!」
「ふふ、美味しそうに食べてくれて何よりだわ。そういえば、街は楽しめたかしら?」
「はい!カニや帆立にフグ、あとは商店街のシュークリームが絶品で……!」
そうして和やかな夕食はあっという間に過ぎていった。
*
翌朝。
私たちはしっかりと旅の支度を整えながら、リリアの到着を待っていた。
今日は彼女と合流した後、最初の巡礼地である魔力回復薬の原料となる薬草の生産地に向かう。
「魔物も出やすい地域だ。騎士団の編成は……」
「あまり武器を持っていっても重い積荷は雪に足を取られる」
「闇魔法に対する防具はヴィリアリナがいれば最小限で済む。防具を削った場合の積載量は……」
「防寒着はどのくらい持っていくのがいいか……」
ヴォルク様と公爵閣下が、道中の安全確保なども含めて、手際よく荷造りの指示を出してくれている。
土地勘もないので、あまり役に立てない私が手持ち無沙汰にしていると、セレナ様が素敵な提案をしてくださった。
「ヴィリアリナちゃん、おにぎり持っていくかしら?」
「いいんですか!?もちろん持っていきます!!」
真剣に荷物の手配をするシルベール親子の隣で、負けないくらい真剣におにぎりの具を吟味する。
(梅に鶏そぼろ、塩……昆布も捨てがたい……)
熟考していると、純白のハトが公爵邸に舞い込んできた。
ハトは公爵閣下の手に留まり、彼がハトの脚に括ってある手紙を外すと、光の粒となって消えた。
その残滓の美しさに感動していると、手紙を読んだ公爵閣下が顔を上げた。
「巡礼用の馬車が領地に入った。そろそろローゼンラーク嬢が到着するそうだ」
(ついに、初めての巡礼が始まる!)
私は、弾む胸と共に、リリアの到着を待つのだった。




