5話:悪役令嬢様!働いてください!
話はなんとかストーリーを進めたい、ヴィリアリナ視点に戻ります!
生徒会に入った翌日から、私の放課後は一変した。
イケメンに囲まれ、華やかなお茶会に参加する日々。
この世界の人々は皆整った顔立ちをしていたが、やはり攻略対象は別格だった。
「この紅茶はアンターナル領のオレトラかしら? 素敵な香りね」
「さすがリリアちゃん、気づいてくれて嬉しいよ。このサブレとの相性が抜群なんだ。ぜひ一緒にどうぞ」
「まあ! ありがとう」
「ヴィリちゃんも、良かったらどうぞ」
「ありがとうございます!」
サクリと小気味良い歯触りに、口の中でホロホロと崩れる濃厚なバターの風味。前世では拝めなかった「本物の貴族の味」が口内に広がる。
「美味しいっ!!」
日本だったら行列間違いなしの人気店になっているだろう。
美味しいお菓子と目の保養。ルームメイトも気の合う子で学園生活も順調。
(なんて平和で美味しい時間……
……なんて思ってる場合じゃなかった!!)
サブレの余韻に浸っていた私は、ハッと我に返る。
入学してから早1ヶ月。生徒会に入れたはいいものの、私のストーリーは一向に進んでいなかった。
それもこれも、悪役令嬢であるはずのリリアージュがいっこうにいじめてこないからである。
攻略対象の攻略度を上げるイベントや、魔王討伐に必要なアイテムを入手するためのイベントのいくつかは、悪役令嬢が起因で始まる。
最初のイベントは「池に落とされた主人公が、誰の差し伸べた手を選ぶか」というもの。そこでメインルートが決まるはずなのだが……。
(リリアージュ様が誰かをいじめるなんて想像がつかない……)
隣で上品に微笑む、淑女の鏡のような彼女。その華奢な腕で私を池に突き飛ばす姿など、一ミリも想像できなかった。
(イベントが起きなきゃストーリーが進まない。どうしたもんか……)
話しているうちに、公爵家3人の攻略度は15程度まで上がってきた。しかし、肝心のアレン王子の数値は0のまま微動だにしない。
(…それにしても、このサブレ美味しいな……)
私は、どうすれば彼女の逆鱗に触れ、池ポチャイベントを達成できるかに思考を巡らせつつ、4枚目のおかわりへ手を伸ばした。
*
(リリアージュ様を怒らせるには……)
魔王復活までの時間は刻一刻と迫っている。
好感度アップのイベントは果たして何回あるのか分からないが、王子の確実な攻略のために、できるだけ多くのイベントを経験したい。
(こんなことなら、恥ずかしがらずにメモの1つでも取っておけば良かった……!)
『救済の聖女』の乙女ゲーム部分を友達に渡していたことが今更悔やまれる。
恋愛方面は発生条件も、選ぶべき台詞も、覚えていることの方が圧倒的に少ない。
魔王討伐に必要なアイテムを守るモンスターの「倒し方」は完璧に分かっていても、物語の「章」自体が始まらなければ、その場所へ辿り着くことすらできないのだ。
(とりあえず、どうにかしていじめて貰わないと……)
ストーリー開始の数少ない手がかりである「悪役令嬢からのいじめ」を受けるべく、リリアージュがいやがりそうなことを考える。
(やっぱり、王子の略奪かな)
ゲームでもリリアージュがヒロインの排除を狙う理由は、王子の婚約者の座が脅かされたからだ。
(王子へのアピールって何が効果的なんだろう?まあ、そこはヒロイン補正でなんとかなるか……?ものは試しよ!)
ストーリーを進めるべく意気込んだ私は、まだ気づいていない。
理想的な淑女であるリリアージュの婚約者の地位は盤石。客観的には「幸せな婚約者たちの間に割り込もうとする悪女」という、もはやどちらが悪役か分からない悪役ムーブをかましていることに。




