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悪役令嬢がいじめてこないのでストーリーが進まない! 〜もしかして私は、悪役令嬢がヒロインの物語で断罪される元ヒロインですか!?〜  作者: うみの もずく
聖女の巡礼〜シルベール公爵領〜

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46話:書き換わる「聖書」と変わらない運命

「ジーク様!左から来てます!」

「アリナちゃん!こっち回復お願い!」

「任せてください!」


 建国祭も無事に終わり、その後僅か3日の短い冬休みを終えた私は、次の討伐隊に向けて騎士魔導部の練習に参加させてもらっている。

 ロッテンマイヤー先生からも無事に解放され、おかわりも解禁された私は今、圧倒的な万能感に包まれていた。


範囲回復(エリアヒール)!)


 味方チームの切羽詰まった声に、反射的に広範囲へ光の雨を降らせた私は——次の瞬間、その判断ミスを後悔した。


「アリナちゃん!これじゃあ敵も回復しちゃうよ!!」

「はっ!!間違えた!!」


 調子には乗るものでないのである。


 *


 今日は部活終わりに、リリアの家へ行く約束をしている。なんでも、魔力干渉の痕跡が見つかったとして教会で調査を受けていた例の聖書(ラノベ)が、ようやくリリアの手元に戻ってきたというのだ。

 唯一その内容を解読できる私に、「何か変わったところはないか確認してほしい」との依頼が舞い込んできたのである。


「リリア!お待たせ!」


 生徒会室で待っていたリリアと合流し、ローゼンラーク公爵家の立派な馬車に乗り込む。

 道中は、もちろん建国祭の話で持ちきりだ。


「『安寧の儀』の水瓶が割れるほどの魔力だったと聞いたわ。アリナちゃん、一体どれほどの魔力を注ぎ込んだの……?」

「いやぁ、全魔力量の7割くらいかなぁ……」

「アリナちゃんの全魔力の7割……?それは水瓶も保たないわね……」

「そんなことより!アレン様とは無事に花火見られた!?」

「ええ……!アリナちゃんが安寧の儀を早めてくれたおかげで、初めて花火を最後まで見られたわ!ありがとう! フィナーレってあんなに綺麗なのね……!」


 あの日を思い出してうっとりと呟くリリアの乙女な横顔を微笑ましく見つめていると、あっという間に馬車はリリアの公爵邸に到着した。


 相変わらず迷子になりそうな広大な敷地を走り抜け、本邸の前で止まった馬車を降りる。

 リリアの自室にお邪魔して少し待っていると、彼女が聖書(ラノベ)を抱えて戻ってきた。


「おかしなところがあったら、教えて欲しいの」

「分かった!どれど……れ……?」


 リリアから受け取った表紙を見た私は、早速一つの違和感に気付いた。

 

(アレン様、剣なんか持ってたっけ……?)

 

 表紙に描かれた、幸せそうに見つめ合うリリアとアレン様は以前のまま。しかし、そのアレン様の腰には、見覚えのある白亜の鞘が携えられていた。

 その剣は、どう見ても『破魔の聖剣』にそっくりで……。

 私は焦る気持ちを抑え、食い入るようにページを捲り、リリアとアレン様の物語を読み進めていった。


 *

 

(話の内容が……変わってる……)

 

 最後のページを閉じた私は、愕然とした。

 ストーリーの大部分は変わらない。この物語はどこまでもリリアとアレン様の恋物語であり、相変わらず私は断罪される。そして本当の魔王戦が書かれているはずの後半の三分の一はやっぱり白紙のままだ。

 しかし、僅かに、だが確かに。内容が書き変わっているのだ。

 

 それを確信に変えたのは、破魔の聖剣だった。

 前回読んだ時は物語に登場すらしておらず、この世界でどうやって入手すべきか頭を悩ませたアイテム。ゲームの知識をフル稼働し、わざわざ危険を冒して獲得しにいったあの剣を——今の聖書(ラノベ)の中では、アレン様が振るっていた。

 

(どういうこと……?しかも、入手方法が、私を捕える時に没収したって……?)


 物語の中のアレン様は、悪役である私を断罪して地下牢に捕らえる際、没収という形でその剣を回収し、闇堕ちして魔王化した私を討つ際に武器として使用しているのだ。

 更に嫌なことに、物語の中の私は前回の聖書よりも強くなっており、アレン様たちはその討伐に苦戦していた。この部分も、レベリングだけは順調な今の私の状態を反映しているようで、気味が悪い。


「アリナちゃん……?何かおかしなところがあったのね……?」

「う、うん……。内容が少し変わってる気がするんだよね……」


 私は不安げに瞳を揺らすリリアに、なんと説明したものか迷いながら、慎重に口を開いた。

 そもそも、彼女には「私が断罪されて闇堕ちして魔王化すること」など、伝えていないことが山ほどある。私は、前回語った内容から大きく矛盾しないように気をつけながら、変わった部分をかいつまんで話していった。


 書き換わった詳細な内容については、後日ユリウス様へ提出する報告書も修正することとなり、変わった部分が正確に比較できるように写しを取る話も進められた。


 リリアに出してもらった帰りの馬車に一人揺られながら、私は書き換わった聖書(ラノベ)の内容を頭の中で反芻していた。

 

 アレン様が破魔の聖剣の所有者になることは、リリアにはなんとなく言い出せなかった。

 これを伝えてしまえば、聖書の予言通り「破魔の聖剣をアレン様に献上する」流れになってしまう。そんな気がしたからだ。

 渡せと言われれば、シルベール様は王族の命令に背くことなく大人しく従うだろう。アレン様も魔王討伐戦のメインメンバーだ。彼が持っていても、本来の目的である魔王討伐に何の問題もない。

 けれど私は、なんだかあの聖剣はシルベール様に持っていてほしかった。

 

 そして、そのシルベール様は、やっぱり聖書のどこにも登場しなかった。まるであの世界には存在すらしないかのように、その名が出てこないのだ。


(なんであんなに強いシルベール様が、聖書に出てこないんだろう……)


 深まる疑念を解消する手立てはなく、私はすっかり日の落ちた窓の外を、ぼんやりと眺めるのだった。

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