34話:破魔の聖剣⑤ 漆黒の咆哮
「うーん、天井に不自然な継ぎ目があるように見えるんだけどなぁ……」
檻の中を徘徊すること3周。未だ脱出の糸口が見つからない私は、首が痛くなるほど天井を見つめていた。
私の光属性と聖属性は、高所へ干渉する手段に乏しい。風属性なら自身を浮かせることも、土属性なら足場を作ることもできるだろうが、私1人ではそのどちらも不可能だった。
「シルベール様を呼ぶしかないのかなぁ?でも、2人とも閉じ込められちゃ笑えないし……」
しかも、肝心の呼び出す手段もはっきりとは分かっていない。
左手首の銀の腕輪を眺め、困り果てたその時だった。
カチッ、ヴヴン!
何やら仕掛けが解けるような音と共に、寄りかかっていた右側の壁が唐突に消失した。
「うわっ!?」
よろけた拍子に踏み出した先は、石造りの一本道だった。右側は闘技場へ通じているのか明るいが、左側は奥を見通せない闇が広がっている。そして、その闇の奥から、かつての特訓で潜った『試練の間』すら凌駕する、圧倒的な数の魔物の気配が押し寄せてきた。
グルルル――
ギャギャギャギ――!
不快な咆哮が耳を突き刺す。どうやら全ての魔物が闘技場に向かって解放されたらしい。
「なんで急に!?何この膨大な数は!?」
即座に光の槍を練り上げ、迎撃する。槍が命中するたびに魔物は経験値へと変わっていくが、通路が狭すぎて範囲魔法が使えない。
「1度広い場所に出ないと……!」
魔物を引きつけようと闘技場側へ駆け出そうとしたその時だった。
「そのまま抑えろ!」
「シルベール様!?」
前方から現れたシルベール様が、鮮やかな一閃で魔物を押し返した。彼は通路を塞ぐように強固な氷の壁を張り、私も重ねて『聖域』を展開して闇属性の攻撃を遮断する。
「何があったんですか!?」
「別ルートから警備隊の強制捜査が入った。……焦った奴らが、観客の魔力を触媒にして強引な召喚を始めたらしい」
聞けば、闘技場の観客たちの魔力を強引に吸い上げ、召喚の糧にしているという。術を途中で遮断すれば観客の命が危ういため、容易には手を出せない状況のようだ。
「この魔物たちが闘技場に出れば、さらに召喚の勢いを強めてしまう。ここで食い止めるぞ!」
「分かりました!!」
2人で魔物の波を押し返していた、その時――。
「「……っ!?」」
禍々しい、本能的な恐怖を呼び起こす気配が背筋を走った。
「……シルベール様」
「ああ。『神のお告げ』は真実だったようだな」
私たちは顔を見合わせて頷く。
(黒龍だ……!)
先ほどのケルベロスとは比較にならない強敵の気配。脳内ではボス戦のBGMが鳴り響く。
「行きましょう……!」
私たちは、静まり返った闘技場へと走り出した。
*
闘技場は、先ほどまでの熱狂が嘘のように静まり返っていた。
客席には魔力を吸い取られた人々が折り重なり、中央では漆黒の鱗を纏った巨龍が、どす黒い焔を喉元で燻らせている。
「さあ!!全て破壊し尽くせ!!」
闘技場の最上階でマレナが叫ぶ。
「危ない!」
応じるように黒龍が漆黒の焔を放ったが、それが客席に届くより早く、私の展開した『聖域』が黒炎を霧散させた。
攻撃を阻まれたことに気づいたマレナは、忌々しげにこちらを睨んだ。
「なぜ邪魔をするのです。あなたとは協力関係が築けると思いましたのに」
「何が目的で私に近づいたの!?」
「あなたと同じですよ」
「同じって……」
(破魔の聖剣?な訳ないし……まさか、リリアージュの排除!?)
思考を巡らせる私の横で、シルベール様の魔力が冷たく練り上げられる。
「後で詳しく聞かせてもらおうか」
瞬時に放たれた極低温の魔力が、マレナをその場に氷漬けにした。
捕らえられたマレナを確認した私は、黒龍に向き直る。
「シルベール様。神のお告げが、今ここで黒龍を討てと言っています。戦ってもいいですか?」
「やむを得ん。だが、上は市街地だ。被害は最小限に抑えろ」
許可は得た。私は身体強化魔法を全身に巡らせ、感覚を研ぎ澄ます。
「さあ! 行きますよ!! 特訓の成果、見せてやりましょう!!」
「……ほどほどにな」
覚悟を決めた様子で剣を抜くシルベール様を、私は2ヶ月間で練度を上げた『聖域』で包み込む。
さらに、2人分同時に継続回復のバフを付与し、視線の先の敵を見据えた。
漆黒の鱗を纏った巨大なドラゴンの赤く燃える双眸が、こちらの出方を伺うようにギラリと光った。
(修行の成果をぶつけて、この中ボスを完封する! そして――『破魔の聖剣』を手に入れる!)
一呼吸、深く吸い込み、私たちは同時に大地を蹴った。




