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悪役令嬢がいじめてこないのでストーリーが進まない! 〜もしかして私は、悪役令嬢がヒロインの物語で断罪される元ヒロインですか!?〜  作者: うみの もずく
破魔の聖剣

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29話:ならば悪役を演じてみようではありませんか

「アレン王子を振り向かせるための、とっておきを仕入れましたの!」


(来た……!待ってたよ……!)

 2ヶ月に及ぶ師匠の特訓がようやく一段落した頃。いつか聞いたのと全く同じ勧誘文句と共に、お目当ての人物たちが私の前に現れた。

 『破魔の聖剣』入手の手がかりを掴むため、次こそは話を聞こうと決めた途端に姿を消していた彼女たちを、私は今か今かと待ちわびていたのだ。


「とっておきとは、なにかしら??」

(魔物??リリアージュを消すために禁忌の召喚術を……とか言い出す??)


 はやる気持ちを抑えつつ、聖女らしい(?)優雅な微笑を浮かべて出方を伺う。

 彼女たちの1人が取り出したのは、キラキラした粉の入った小さな小瓶だった。


「体内に取り込んだ後、最初に見た相手を好きになるという『魔法の粉』ですの! これを是非アレン王子に……!」

「そ、そう……」


(魔物じゃなかった……)

 がっくりと肩を落とす私。小瓶を差し出そうとする彼女の手を、私はやんわりと押し戻した。


「そちらは結構ですわ。私、そういうものには頼りたくありませんの」

「いえいえ! 遠慮なさらず受け取ってくださいまし……!」


(いや、この効果が本物なら本格的に『断罪フラグ』になりかねないから、絶対手元に置きたくないのよ!)

 小説版のヴィリアリナが犯した罪の1つに、王子への「魅了魔法の使用」があった。この薬も、万が一効果があれば、せっかく遠ざけた断罪フラグが助走をつけてこちらに飛び込んでくるようなものだ。


「結構でしてよ……!」

 

 グイグイと小瓶を押し付けてくる彼女たちをなんとか振り切り、私は逃げるようにその場を離れた。

 

 *


 彼女たちが追って来れないよう、逃げ込んだ先は生徒会室だった。

 そこにはシルベール様とライオス様、それにアレン王子が居た。相変わらずシルベール様は高等部にいる時は「ジーク様」として扱われている。


「お!アリナちゃん、久しぶり!修行明けだっけ?」

「わぁ!ライオス様、焼けましたね!」

 

 こんがりと小麦色に焼けたライオス様が私に気づき、快活に笑う。夏休みにリゾート地の別荘でサーフィンを楽しんできたという彼は、お土産だという高級そうな菓子を勧めてくれた。


「美味しいです! ありがとうございます!」

「それは良かった。……そういえばアリナちゃん。夏休み明けから、女子生徒の間で『惚れ薬』なるものが流行っていると聞いたんだが、何か知らないかい?」

「物騒な話ですね。……あ、そういえば、さっき渡されそうになったものがそれかもしれません」

「えっ、さっき渡されそうになったって……?」

「はい。飲んだ後に最初に見たものを好きになるとか……」

「それだよ。受け取ってはいないんだね?」

「丁寧にお断りしました」

「はは、興味はなかったの?」


 ライオス様がどこか探るような、試すような視線を向けてくる。

 隣では、かつて私が「魅了魔法の使用」を検討していた過去を知るシルベール様の視線が、心なしか鋭くなった気がする。

 

「薬で手に入れた心に、何の意味があるんですか?」


 私はそんなことしません! 無害です! だから断罪しないで!!

 という必死のアピールを半分。そしてもう半分は、本心だった。

 魔王討伐のためという明確な目的があるならまだしも、恋路のために薬や魔法で心を縛っても虚しいだけだと思うのだ。

 

「はは、それでもと願う者が世の中にはいるんだよ。もし次その話を聞いたり、手に入れたりしたら、俺たちに教えてくれないかい?」

「分かりました!でも、私が手に入れるより、ライオス様が飲まされる方が早そうですけど……」

「縁起でもないこと言わないでよ……」


 肩を竦めるライオス様。数多の令嬢と浮き名を流している彼こそ、真っ先にターゲットにされそうである。


(次は、ライオス様に渡す名目で受け取っておこうかな)

 そうすれば、私が王子に使うという疑惑も持たれないはずだ。

 次また彼女たちに捕まったら、今度はサンプルとして確保しよう。そう心に決めて、私はライオス様のキラキラした夏休みの思い出話に耳を傾けた。


 *


「アレン王子を振り向かせるための、とっておきを仕入れましたの!」

(あれ……?この子たちは……)

 

 翌日の放課後、私は、昨日と全く同じ場所で、全く同じセリフを耳にしていた。


「それって……」

「体内に取り込んだ後、最初に見た相手を好きになるという『魔法の粉』ですの! これを是非アレン王子に……!」


 1人が取り出したのは、昨日見たのと同じ小瓶。

 一瞬、デジャヴかと思った。だが、彼女たちの表情も、小瓶を出すタイミングも、昨日と一分一秒の狂いもない。


(なんで……?昨日の話を忘れてる??)

 昨日の今日で、あれだけしつこかった会話を忘れることなんてあるだろうか。

 不可解に思いつつも、ライオス様への報告用に小瓶を受け取ることにした。


「ありがとうございます……あの、これってどこで手に入れたんですか?」

「ヴィリアリナ様を応援する、有志の方ですわ!では!いい結果をお祈りしてますわ!!」


 質問には答えず、彼女たちは機械的に去っていった。

 

 *


 さらに翌日の放課後。

 手に入れた怪しい小瓶をライオス様に渡そうと、生徒会室へ向かう私の前に、またしても彼女たちが立ち塞がった。


「アレン王子を振り向かせるための、とっておきを仕入れましたの!」

「!?」


 3日連続。全く同じトーン、全く同じセリフ。

 

「体内に取り込んだ後、最初に見た相手を好きになるという『魔法の粉』ですの! これを是非アレン王子に……!」

 

 そう言いながら、1人が粉の入った小さな小瓶を取り出す。


(どういうこと……!?)

 流石に恐怖を感じて身構えた、その時だった。

 私の脳内に、自分の声に似た、けれど感情の抜け落ちた「機械音声」のような響きが頭を掻き乱した。


《そ……なもので、は足りなくてよ……リリア……ジュを排除……くらいでないと……》

 

「ゔっ……?!」


 激しい頭痛と共に、同じフレーズが脳内でぐるぐると再生される。

(何……?このセリフを言えってこと……?)


 そのセリフはまるで、小説に出てきた悪役聖女ヴィリアリナそのもののようで。


(そう……。やっぱり悪役がいないと話が進まないっていうのね。だったら、やってやろうじゃないの!!)


 私は腹を括り、脳内で鳴り響く不快な音声を塗り潰すように、悪役味をたっぷり込めてその言葉をなぞる。


「——そんなものでは、到底足りなくてよ! リリアージュを排除するくらいでないと、お話になりませんわ!!」


 その瞬間、令嬢たちの表情がパッと明るくなった。


「そうですわよね! こんな回りくどい方法ではなく、もっと直接的な……。ヴィリアリナ様、この粉を融通してくださった方を紹介いたしますわ! きっと、貴女様のお力になってくれますわ!!」

「ええ!すぐにでも紹介してくださる??」


(そう!魔物だって、王都に現れる前に倒してしまえばいいんだ!)

 一度遠ざけた断罪の足音が、全速力で近づいてきた気がしなくもない。

 けれど、魔王討伐に必要なアイテムの収集が最優先だ。

 

(悪役がいないとストーリーが進まないというのなら、私がその役、演じきってやろうじゃないですか!)


 こうして私は、週末に「魔法の粉」の流通元への訪問を約束させた。

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