28話:やはり悪役がいないとストーリーは進まないもので
「アレン王子を振り向かせるための、とっておきを仕入れましたの!」
「いや、だから私は……」
夏休み明けの日の放課後。私は、アレン王子との恋路を(勝手に)応援するという、学園内でもかなりニッチな少数派生徒たちに絡まれていた。
(もたもたしてると、師匠の特訓に遅れる……!)
シルベール様が通う大学部はまだ夏休み中。私の授業が終わり次第特訓が始まる手筈になっているので、1秒でも早く演習場へ向かいたい。
「今日は急ぎの用事があるので!ごめんあそばせ!!」
「あっ……!お待ちくださいましヴィリアリナ様!!!」
適当な令嬢言葉で彼女たちを振り切り、私は王城の裏手に位置する演習場へと全速力で駆け出した。
*
「本日もよろしくお願いします!」
「今日も元気があっていいね」
演習場に着くと、師匠とシルベール様が既に待機していた。涼やかに微笑む師匠の隣で、シルベール様が猛烈な勢いで腕立て伏せをしている。どうやら1戦交えた後らしい。
(ただでさえシルベール様とはレベル差があるのに、遅れてられない!)
これまでの討伐隊への参加と師匠による特訓を経て、私のレベルは現在53。
この世界では「与えたダメージ」だけでなく「回復量」も経験値に換算されるため、先日の討伐隊での広域回復がレベルアップに繋がったようだ。レベル50で解放されるはずの固有スキルは未だに謎のままだが、いつか判明することを願って今は思考の外に置いておく。
「お待たせしました!よろしくお願いします!」
「そのやる気はどこから湧いてくるんだ……」
制服から運動着に超速で着替え、演習場に戻った私に、腕立てを終えたシルベール様が呆れ半分に呟く。
今日も今日とて黒焦げにされるのは分かっている。
けれど、私には「効率的なレベリング」以外にも、前線に立ちたい理由ができていた。
(私が前線にいることで、救える命があるかもしれない!)
討伐隊での負傷者の減少、そして魔王の早期討伐。そのために、最も死地に放り込まれるであろうシルベール様の隣に立つ許可を得ること。
それだけを目指して、全身を稲妻に焼かれる激痛に耐え、私は今日も魔力を練り上げる。
*
翌日の昼休み。
この世界に生きる人々の人生と、隣り合わせの死。
ゲームの「イベント」だと、どこか楽観的に考えていた魔王討伐の認識を改めた私は、魔王に関する正確な歴史を辿るべく、学園の図書室に籠っていた。
「やっぱり魔王の復活時期は、『聖女』がいる時だけ……」
改めて歴史書を紐解いても、魔王の復活期は聖女の存在時と完全に一致している。
聖女の召喚自体は不定期で、2人の聖女が同時に存在する時代もあれば、100年以上不在の時期もある。それなのに、魔王は決まって聖女がいるタイミングを見計らったように封印を破るのだ。そして最後は、聖女と相打ちになる形で再封印されるのが通例となっていた。
「唯一、相打ちでなかったのは初代の聖女様だけ……」
かつてこの地を支配していた魔王を封印し、この国を興した「建国の聖女」。彼女だけが唯一、命を落とさずに封印を成功させている。
「ゲームでは魔王はどうやって復活したんだっけ?」
原作では、闇堕ちしたリリアージュが封印を解くことで、ラスボスとしての魔王が降臨した。
奴が完全復活し、プレイヤーである私たちが到着するまでの間——
一体どれだけの命が、魔王軍の侵攻を防ぐ盾となり、散っていったのだろうか。
ゲームのテキストでは語られなかった無数の犠牲を想像し、胸が痛む。
「復活を待たず、討伐する方法はないの……?」
1つ希望があるとすれば、ゲーム版では「封印」ではなく「討伐」に成功しているという点だ。建国以来、500年続くこの国と魔王の腐れ縁を、今度こそ断ち切れるかもしれない。
「そのためには、まずはアイテムを揃えないと。……問題は、破魔の聖剣か……」
魔王討伐に必要な三種の神器のうち、リリアージュの聖書と照らし合わせても唯一入手方法が分からないのが、その聖剣だった。
ゲームではリリアージュが、小説版では「悪役聖女」である私が呼び寄せる中ボスである「黒龍」がドロップするその剣は、闇属性特効を持つ、魔王討伐に必須のキーアイテムだ。
しかし、お互いを害する気など毛頭ない今、魔物を呼び寄せるはずの「悪役」がこの世界には存在しない。
「そもそも、王都のど真ん中にどうやってあんな中ボス級の魔物を呼び寄せたの?」
ここは警備隊も騎士団も目を光らせる国の首都だ。
本来なら、アレン王子の目の前に魔物が現れるなんてあり得ないはず。
(魔物を呼ぶのには協力者がいた? でも、接触のトリガーは何……?)
『リリアージュ様がいなくなれば………なんて思うことはありませんこと?』
不意に、いつかの反リリアージュ派たちの会話が脳裏をよぎった。
「……次は、ちゃんと話を聞いてみようかな」
そういえば、昨日も何か言っていた。
もしかしたら、そこに聖剣入手の手がかり——あるいは「魔物を呼び寄せる何らかの要因」が隠されているのかもしれない。
邪険に振り払ってしまった彼女たちの顔を思い出し、私は次こそ真面目に話を聞いてあげようと心に決めた。
しかし、師匠の特訓が終わるまでの1ヶ月間、彼女たちが接触してくることは無かった。




