27話:怪しいお土産
さて、修行の修了から時間は少し遡り、夏休みが終わる1週間前。
「ただいま〜……って、アリナちゃん!? どうしたの!? なんだかボロボロじゃない!?」
「あ、カレン……おかえり……」
帰省していたルームメイトのカレンが帰ってきた。
今日も今日とて師匠にコテンパンにされた私は、ベッドに辿り着く気力もなくカーペットの上に転がっていた。
「ごめん……カレンがいない間、掃除とか全然できてないや……」
「それはいいんだけど……一体どうしたの?なんか焦げ臭いし……」
「ちょっと実力不足でね……訓練を……」
「魔法の実技テストで満点だったアリナちゃんが……? 討伐隊って、そんなに危険な場所なの……?」
こうなったのは討伐隊というより、私の考えなしの発言が原因だったのだが……。言い訳する体力も惜しいので、私は黙って床の冷たさを享受した。
「休み中、ずっとこんな感じだったの? 課題はちゃんとやってる?」
「え゙っ……」
「アリナちゃん、まさか……」
課題。
そういえば、学生では避けて通れないその3文字を、夏休みが始まってから一度も意識していなかった。私は虚ろな目で、休み中一切触れていない通学カバンを見やる。
「カレン……助けて……」
「もー、まずは起きて! アリナちゃんなら自分で解ける内容なんだから! 始めるよ!」
「はい……」
鬼師匠の特訓に夏休みの課題まで加わり、結果として、私の夏休みで一番忙しく過酷な1週間が幕を開けた。
*
「ま、間に合ったー!! 本当にありがとう!!」
夏休み最終日、なんとかすべての課題を終わらせた私は、カレンに抱きついた。
「もう! こういうのは計画的にやるんだよ!」
「はい! 次から気をつけます! お礼にご飯奢るよ、明日学食行こう!!」
「まったく!調子いいんだから!」
「えへへ」
軽口を叩きながらも、明日から始まる学園生活に備えて早めに寝支度をする。課題という重責から解放された私は、布団に入るとすぐに眠りについた。
*
夏休み明け、1ヶ月ぶりに見るクラスメイトの姿はなんだか新鮮だった。
日焼けした肌を誇らしげに見せる者、異国の珍しいお土産を配る者——休み中の冒険談がそこかしこで賑やかに響いている。
私もいくつかお土産をもらった。
異国のお菓子、伝統工芸のキーホルダー、願いが叶うという瓶詰めの粉など、その見覚えのあるラインナップは前世とあまり変わらない。
修行に明け暮れていた私は、もらう一方で申し訳なかったので、次の休みにどこかへ行ったらお返しを買おうと心に決めた。
昼休み、約束通りカレンを連れて食堂へと向かう。
「さあ! なんでも頼んで!!」
「アリナちゃんほどは食べられないよ……」
私のトレーにはステーキとカレー、それにデザートが3個。放課後には師匠の特訓が待っている。ここで腹ごしらえをしておかないと、あの稲妻に耐えられない。
対するカレンは、ヘルシーなサラダと白身魚のムニエルを選んでいた。
「それで足りるの? 遠慮しなくていいんだよ?」
「これで十分だよ……」
「ええ? そう??」
遠慮深いカレンの会計も済ませ、席に座る。
「いっただきまーす!!」
私はステーキを口いっぱいに頬張った。じゅわりと広がる肉汁の旨み。さすがは宮廷シェフが持ち回りで担当している学食。修行で疲弊した細胞に栄養が染み渡っていく。
「おいしー!!!」
「本当に幸せそうに食べるよね。見てるだけで、私までお肉食べた気になってきたよ」
「だって美味しいんだもん!!」
口にお肉を詰め込んだまま、満面の笑みで頷く。このひとときこそが、今の私の最高のご褒美だった。
*
ステーキに舌鼓を打つ私の後ろで、女子生徒たちが声を弾ませていた。
「見て、これ!この粉を食べたり飲んだりすると、直後に見た相手を好きになってしまうんですって!」
「ええ? そんな粉、怪しいのではなくって?」
「今、隣国で流行ってるそうよ! 私が行ったときに、ちょうど手に入ったって露天商が言ってたもの!」
「おまじないみたいなものかしらね……でも、粉を食べた直後に見てもらうって、調整が難しいのではなくって?」
「それがね、これに回復魔法をかけてから食べさせれば、好きになる相手を『回復魔法をかけた人』に限定できるんですって!」
きゃあっと盛り上がる女子生徒の手には、先ほどお土産として貰った「願いの叶う粉」とよく似た小瓶が握られていた。
だが、目の前のステーキとカレーをに夢中な私の耳に、その不穏な会話が届くことはなかった。




