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悪役令嬢がいじめてこないのでストーリーが進まない! 〜もしかして私は、悪役令嬢がヒロインの物語で断罪される元ヒロインですか!?〜  作者: うみの もずく
この世界のヒロインは

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25話:交差する思惑

 翌日。

 学園の特等室に呼び出された私は、同じく呼び出されたらしいシルベール様と、昨日の今日で激しい言い合いを繰り広げていた。

 

「シルベール様! 今後は私を正式に傭兵隊へ配属してください!」

「ダメだ! あそこは最前線、死が隣り合わせの場所だぞ!」

「だからこそ聖女が必要だとは思いませんか!? 闇属性を無効化する聖域に、瘴気の浄化と解呪。私以上に適任はいないはずです!」

 

 昨日、思わず口を突いて出た「シルベール様を死なせない」という言葉。

 彼はその言葉を教会派の前で宣言した重責を説き、「今ならまだ撤回できる」と私を安全な場所へ戻そうと促してきた。

 けれど、発言に後悔はない。

 彼は私の魔王討伐メンバーの主砲としてエントリー済みだ。勝手に死なれては困る。

 それに——私の頭からは、昨日見た負傷者たちの顔が離れないのだ。

 

 昨日は奇跡的に全員の治療が間に合った。けれど、それは本当に紙一重の幸運でしかなかった。

 聖女の奇跡を以てしても、死者を蘇生させた例はない。失われた命は、二度と戻らない。

 今までどこか「ゲームの世界」だと楽観視していたこの場所には、確かに血が通った人間が生き、それぞれの人生があり、そして呆気なく「死」が訪れる。その厳然たる事実が、今更ながら現実味を帯びて私に降りかかってくる。

 

(私の能力で死の運命を防げる人がいるなら、私は最前線にいるべきだ)

 

「最前線上等です!」と食い下がる私に、シルベール様の語気も険しさを増していく。

 

「「ユリウス(殿下)!!」」

 

 埒が明かないと悟った私たちは、同時に部屋の主へと向き直った。

 

「2人とも、一度落ち着こうか」

 

 ユリウス殿下が柔和な笑みを浮かべると、部屋の温度がスッと下がったような気がして、私たちは押し黙った。

 

「まずは良い知らせだ。ヴィリちゃん、昨日の功績により君は正式に『聖女』として認定されたよ。おめでとう」

「あ……ありがとうございます!」


(そういえば、正式には認定されてなかったんだっけ)

 聖属性の確認は取れたものの、何やら手続きとかで暫定聖女だったことを思い出す。


「聖女は王家に匹敵する発言権を持つ。本人が最前線を望むなら、正当な理由なく阻める者はいないよ」

「では……!」

 

 期待に顔を上げた私を、ユリウス殿下が笑顔で、けれど底冷えするような瞳で制する。

 

「ただし、聖女を失えば国益の損失だ。ヴォルクの危惧ももっともだね。……そこで提案なんだが、叔父上に君たちの稽古をつけてもらって、その結果で判断するというのはどうだい?」

「ユリウス……!」

 

 非難がましく声を上げるシルベール様を無視して、私は食い気味に返事をした。

 

「是非、お願いします!!」

 

 *


 稽古の約束を取り付けたヴィリアリナが部屋から出ていったのを確認したヴォルクは、ユリウスに詰め寄った。

 

「どういうつもりだ!俺と行動を共にすれば、彼女は教会派の反感を買う!それに、まだ高等部の学生だぞ!」

「まあ、いいじゃないか。本人の希望だし、最前線で聖女の力を発揮してくれるなら大歓迎だよ」

「これ以上強くしてどうする!」

「レベルが高い方が堕ちにくいって話もあるし、今までほとんど浄化の力は使っていない。まだまだ許容量はあるだろう。それに……」


 ユリウスは声を荒らげる友人にゆったりと微笑む。

 

「まだ、手こずる程度じゃないだろう?」

「それは……」

 

 急に歯切れの悪くなったヴォルクに、念を押すように告げる。

 

「ヴォルク、私だって彼女を堕としたいわけではないよ。それに叔父上も王族だ。様々な可能性を考えて、取れる手段は多いほうがいい」

 

 歴史上、王妃になった聖女は堕ちていない。ヴィリアリナを「王妃の可能性がある場所」へ置くことを、ユリウスは仄めかしている。

 

「君は監視役だ。頼んだよ」

「…ああ」

 

 いつもの返事より、わずかに間の空いた返答。ユリウスはその変化を見逃さなかった。

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