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悪役令嬢がいじめてこないのでストーリーが進まない! 〜もしかして私は、悪役令嬢がヒロインの物語で断罪される元ヒロインですか!?〜  作者: うみの もずく
この世界のヒロインは

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26話:鬼師匠による特訓

「師匠! お久しぶりです!まさか王弟陛下だったなんて!」

「やあ、ヴィリ嬢。君こそまさか聖女様だったなんてね」

 

 試練の間で私を鍛えてくれた謎の師匠との再会。

 正体を知ってから初めて会う師匠は、ユリウス殿下がそのまま優雅に歳を重ねたような、柔和な雰囲気の美丈夫だった。

 

「ヴォルクも久しいね。また背が伸びたんじゃないかい?」

「……閣下におかれましては、お変わりなく」

「いいよ、そういう堅苦しいのは。ヴォルクも彼女みたいに『師匠』と呼んでくれていいんだよ?」

「畏れ多いことです」

 

 真面目すぎるシルベール様を苦笑いで見送り、師匠はスッと空気を変えた。

 

「さて、実力査定だ。2人まとめてかかっておいで」

 

 師匠は指を2本立ててルールの説明をする。

 

「ルールは簡単。10分間で君たちの体力が1割を切った回数が10回以下か、あるいはヴィリ嬢が私に一撃でも入れられたら君たちの勝ちだ」

「それ、私たちに有利すぎませんか……?」

「ふふ、どうかな?」

(そういえば師匠、レベルが見えないな…いくつなんだろう?)

 

 指定された開始位置に向かう途中、私は隣を歩くシルベール様に小声で尋ねた。

 

「シルベール様は師匠と戦ったことはありますか?」

「ああ」

「なにか作戦はありますか?」

「……始まった瞬間に目を瞑り、全力で防御壁を張れ。自分1人分だけでいい、今持てる最大火力の壁だ。そして、そのあとは1秒も止まらずに逃げろ」

「えっ、なんで……」

「始まれば分かる」

 

 不穏な助言に冷や汗が流れる。

 開始位置に着くと、審判を務める魔道具がカウントダウンを始めた。


 5.4.3――

 数字がが0を示した瞬間。

 

 バァアアアン――!!! ッバリバリバリ!!

 

 固く閉じた瞼越しでも失明しそうな白い閃光と、鼓膜を破る程の轟音。

 シルベール様の教え通りに展開した渾身の防御壁が、初手の落雷1発で木っ端微塵に粉砕された。

 

「……っ、え!?」

 

 衝撃波が脳天を貫く。

 熱い、なんてレベルじゃない。

 全身を焼かれるような激痛に、叫ぶことすらできない。

 

体力(HP)が……残り1……!?)

 

 この世界の「魔法では死なない」というルールがなければ、今の一撃で消し炭になっていた。

 

 空からは、無慈悲なまでの稲妻が降り注ぎ続けている。

 師匠の猛攻を紙一重で捌くシルベール様でさえ、すでに体力(HP)は3割を切っていた。

 

(回復を……でも、このままだと回復した瞬間にまた撃たれる!)

 

 私は林の中へ逃げ込み、落雷を木々に散らしながらシルベール様に回復魔法を飛ばした。

 

 2人の戦いを観察すると、師匠は防御壁を一切使っていないことに気づく。

 全て魔法の剣の斬撃だけでシルベール様の攻撃を叩き落としているのだ。

 

(なら、わざと防御を捨ててカウンターを狙えば……!)

 私はシルベール様に1発当てた時の戦法を思いつく。

 

 ちょうどその時、師匠がくるりとこちらに向き直った。標的を私に変えた師匠が一直線に向かってくる。

 師匠から繰り出される斬撃をなんとか防御壁で受け止め、カウンターを繰り出す機会を伺う。


 (今だ!!!)

 

 チャンスは一度きり。

 私は脇腹への一閃をあえて防御せず、至近距離での攻撃魔法に全魔力を込めた。

 魔法では死なない(HPが1残る)。この世界のルールに賭けた、決死の一撃――。

 

 だが、師匠の攻撃が届く前に、脇腹を斬撃とは別の衝撃が襲った。

 

「見誤るな!! 死ぬ気か!!?」

「シルベール様!?」

 

 私はシルベール様の腕に掻っ攫われ、小脇に抱えられていた。そんなシルベール様へ師匠の猛攻は続く。

 

「降ろしてください!私は大丈夫です!」

「待て、暴れるな!もう少し安全な場所で……!」

「そんな場所、どこにもないです! 降ろしてください、2人まとめてやられます!」

 

 言い合う私たちに、師匠が涼やかに微笑む。

 

「随分と余裕そうだね?」

 

 ドォオオオン!!

 

 直撃。

 地面に叩きつけられた私たちの残り体力は、2人揃って1割を切っていた。

 

「あと8分、頑張ろうか」

 

(つ、強い……)

 汗一つかいていない師匠の姿に、私は絶望を覚えた。

 

 結局、私たちは制限時間を待たず、10回以上の敗北判定を受けて地面に膝をついた。

 

「まだまだだね。2人とも1人で戦おうとしすぎだ。ヴォルクは捨て身すぎるし、ヴィリ嬢は聖属性の練度が足りない」

「はい……」

 

 師匠の指導は最もだ。手も足も出なかったことに打ちのめされる私に、師匠が言葉を続ける

 

「少し試したいことがあるんだ。2人とも、立ってもらえるかな?」

「……?、はい」

 

 言われるがまま立ち上がった私は、ある異変に気づいた。

 シルベール様が、片膝をついたまま動かないのだ。

 その膝においた手が、見たこともないほど震えている。

 

「シルベール様……? どこか痛みますか?」

 

 手を貸そうと屈むと、シルベール様は苦しそうに、絞り出すような声で言った。

 

「……なぜ……平気なんだ……」

「え?」

 

 怪訝に思う私に、師匠がポンと手を叩く。

 

「やっぱりね。ヴィリ嬢、君には威圧が通じないんだ」


(もしかして……私の魅了を威圧に変換してるから……、?)

 ラブメーターが表示される相手といる時は、無意識に漏れ出る魔力を威圧に変換するように意識している。それが私自身にも威圧が効かない原因になっているのかもしれない。

 

「威圧を感じないのは、機動力が落ちない大きなメリットがあるけれど、戦ってはいけない相手を感じ取れない。無闇に突っ込んではいけないよ」

「……師匠、ちなみに今のレベルは?」

「私かい? 私は今91だよ」

「きゅう……っ、91ぃ!?」

 

 規格外の数値だ。ゲーム版のラスボスである魔王すら凌駕する数値に、顎が外れそうになった。

 

「この国で1番だ」

 

 威圧を解かれたシルベール様が補足する。

 

「さて、そんなわけで君たちの合同訓練を開始する。互いの得意を活かし、バディとして体が勝手に動くようになるまで、頑張ろうね」

 

 その日から、鬼師匠による2ヶ月間の特訓が始まった。

 夏休みの残り全てと、学校が始まってから1ヶ月の深夜まで続く師匠の特訓。

 

 師匠が再び旅に出るというその日。

 私はボロボロの体で、けれど確かな手応えと共に、ようやくシルベール様の隣に立つための「合格」を勝ち取ったのだった。

 師匠は40代前半くらいです。

 レベルが10以上上の人のステータスは見えない仕様です。

 威圧は、レベルが10以上離れた格上の強敵から殺気を放たれると、本能的に身体がすくみ、呼吸さえ困難になる状態を指します。レベル差が大きいほどその影響も大きいです。

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