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悪役令嬢がいじめてこないのでストーリーが進まない! 〜もしかして私は、悪役令嬢がヒロインの物語で断罪される元ヒロインですか!?〜  作者: うみの もずく
この世界のヒロインは

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22話:聖女の初陣④ 本領発揮

「私が死なせません!!」

 

 気づいた時には、指揮官たちの前で啖呵を切っていた。

 静まり返る作戦室。驚愕に目を見開く公爵と貴族たち。

 

(……あ、やってしまった。不敬罪か?)

 凍り付いたような沈黙。けれど、一度口から出た言葉を繕うつもりは毛頭なかった。

 

「失礼します!」と言い放ち、私は作戦室を飛び出した。ついでに備品の魔力回復薬(ポーション)をちゃっかり1箱抱え、逃げるように傭兵隊の救護所へと急ぐ。


 辿り着いたそこは、まさに地獄のような惨状だった。

 

「包帯を早く!」「ポーションが底を突いたぞ!」「その人はもう……諦めるんだ!」

 

 悲鳴と怒号が飛び交い、テントに入りきらない負傷者が地面にひしめいている。

 巻かれた包帯に滲む血。平和な日本での生活では決して目にすることのない、生々しい「死」の赤に足がすくんだ。

 

「ちょっと! ぼさっと立ってないで、邪魔だよ!」

「すみません!!」

 

 走り回る水属性持ちの治療班に怒鳴られ、私は自分に喝を入れた。

(そうだ、呆けてる暇なんてない。助けに来たんだ!)

 

 私は大きく息を吸い、全魔力を練り上げた。


「—―(あまね)く癒やしを。範囲回復(エリアヒール)!」

 

 最大出力で放たれた柔らかな光の粒子が、雪のように負傷者たちへ降り注ぐ。

 

「なんだ、この光は……」

「傷が……塞がっていくぞ!?」

 

 驚愕の声が上がるが、まだ終わりじゃない。今のでは治し切れなかった重傷者がいる。私は真っ先に、死の匂いが最も濃いテントへと飛び込んだ。


 *

 

 鼻を突く鉄錆の臭い。

 隅では、青い髪の治療班の少女が、青ざめた顔で一人の男の手を握っていた。

 男は右腕と左脚を失い、死の淵にいた。少女は魔力が枯渇しかけているのに、必死に回復魔法を注ぎ続けている。彼女が手を離せば、この男は即座に絶命するだろう。

 

「もう大丈夫。代わるわ」

 

 絶望に沈む少女の手ごと、男性の手を包み込んだ。リリアージュに教わった、高純度の光魔法に聖魔法を上乗せする方法で、無理やりねじ込むように魔力を押し込む。

 

(間に合って……お願い!)

 

 ――眩い閃光のあと、男性がゆっくりと目を開けた。

 

「……俺は、死んだのか? 天使様が見える……」

「おい、お前……手が!脚も……!」

 

 失われたはずの手脚さえも魔力によって再構築されている。その「神の領域」の御業に、テント内に野太い歓声が爆発した。「奇跡だ」「聖女様だ」と拝む人たちを背に、私自身も内心で驚愕していた。

(欠損部分の再生!?こんなことまでできるの……!?……いや、今は驚いてる暇はない!)

 全員助ける。覚悟を決めた私はテント内を見渡して叫ぶ。

 

「次! 重傷者は誰ですか! !」

「……あ、赤い札が重傷者です!!」

 

 呆然としていた青い髪の少女が、目に光を戻して答えた。

 

「分かった!ありがとう!!」

 

 私は1分1秒を惜しみ、片っ端から赤い札の患者を完治させて回った。


 重傷者のテントを3つ回りきり、中傷者のテントに入ったところで、ようやく探していた背中を見つけた。

 

「シルベール様!」

 

 負傷者の手当てをしていた彼が、振り向いて驚愕に目を見開く。

 

「なぜここに!?貴族隊の配属だろう!」

「怪我人の手当てをするのは当然です。それより、シルベール様の怪我を――」

 

 背中の深い爪傷も心配だが、右腕にも応急処置の包帯が巻かれている。傷に触れようと手を伸ばすと、彼はそれを制した。

 

「俺は後でいい。先に彼らを治療してはくれないか。水属性では、傷を塞ぐのが精一杯だ」

 

 彼は自分よりも、隣で苦しむ患者を示した。

 

「もちろんです、でもまずはシルベール様の怪我を……」

「俺は大丈夫だ。彼らを頼む。次は隣のテントだ」

 

 彼は自身の傷など一顧だにせず、テントの出口へ向かう。

 

「え!? その怪我でどこへ!?」

「次の負傷者の運搬だ」

 

 そう言い残して、彼はテントから出ていってしまった。

(貴方も患者なんですけど!?)

 きっと全員の治療が終わるまで、自分のことは後回しにする気だ。あの頑固さは、優しさというより「自分への執拗な無関心」に見えて胸がざわつく。

 

(もう!!さっさと全員治して絶対に治療しますからね!)

 私は腹を括り、残り2本になった魔力回復薬を1本一気に飲み干し、テントの真ん中に立った。


範囲回復(エリアヒール)!)

 

 降り注ぐ光の粒に歓声が上がる。

 

「治ったぞ……!」

「聖女様、万歳!!」

 

 背後から響く歓喜の声を置き去りにして、私は全ての救護テントを嵐のように駆け抜けた。


 *

 

 全ての治療を終えた私は、肩で息をしながらも彼を探した。

 治療班の方に聞くと、「隊長なら先ほど、隊長室に戻られました」と教えてくれた。

 

 呼吸を整えて、私は隊長室のドアの前に立つ。

 まだ治療していない患者は、あと1人。


 誰よりも戦場を支え、誰からも顧みられなかった――1番傷だらけの英雄だけだ。

 

 ――私は大きく一呼吸おいて、逃がさないという決意を込めて、力強くノックをした。

 魔法は基本的にはなにも唱えなくても使えます。

 詠唱をすると、発動までに少し時間がかかりますが、効果も上がります。

 

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