1話:魔王戦から逆算する異世界生活
セルフリメイクで再連載します!
初めましての方も、2度目ましての方もようこそ!
読んでいただきありがとうございます!
「私の人生、ずっとこんな感じなのかな……」
最近なんだか上手くいかない。スマホを覗けば、華やかな大学生活を送る友人や、恋人ができた報告ばかり。進学する余裕もなく、高校を卒業してすぐに就職した私は、変わり映えのない繰り返しの日々に、溜息をついた。
とぼとぼと夜道を歩いていると、スマホの通知が鳴った。画面を確認すると、高校時代の友人からだ。
「『救済の聖女』覚えてる??あのゲームを元にした小説見つけた!読んでみて!」
(うわ!懐かし!!)
脳内に高校時代の思い出が蘇る。当時ハマった乙女ゲーム『救済の聖女』。聖女として覚醒した主人公がイケメン達と共に魔王を倒す王道展開だが、戦闘部分がなかなかシビアな作りだった。
乙女ゲームは好きだが戦闘部分が苦手な友人のために、レベル上げやボス戦はすべて私が代行してクリアしたものだ。RPGは好きだが、甘いイベントは照れくさくてスキップしてしまう私と、ストーリーを楽しみたい彼女は最高のコンビだった。
そんな思い出のゲームを題材にした小説。どんなものかとリンクをクリックしようとした、その時だった。
――ドンッ!
「えっ!?」
真横から強い衝撃を受け、視界が回転する。突き飛ばされるようにして、私は道沿いの堀へと落ちた。
「ちょっと!? 誰……っ」
泥水を飲み込みながら叫ぶ。ここは酔っ払いがよく落ちる浅い堀のはずだった。だが、どれだけ足を伸ばしても底に触れない。
(まだ…こんな人生で終わりたくない……!)
何者でもないエキストラAのまま、行ってみたい場所もやりたいこともできず人生終了なんて嫌だ。しかしそんな願いも虚しく、意識が混濁し大きな気泡が溢れた。
*
「――おい! 聞こえるか!?」
次に目を開けた時、視界に入ったのは見知らぬ黒髪の青年だった。
「っ! ゲホっ、ゲホッ!」
「無理に話すな。大丈夫だ」
(助かった……、?犯人め、許すまじ…!絶対捕まえてやる……!!)
私は気力を振り絞って犯人が逃げた方向を指差し、再び意識を手放した。
*
「目覚めなさい、聖女ヴィリアリナ」
頭の中に響く声に目を開けると、そこは真っ白な空間だった。目の前には、ヴェールで顔を覆った神々しい女神。
(あれ!?私まさか死んだ!?犯人、末代まで呪ってやる……)
先ほど引き上げられた際には助かったと思ったが、手遅れだったらしい。復讐を誓う私を他所に、女神は淡々と告げる。
「あなたは聖女に選ばれました。5年後に復活する魔王を王子アレンと共に討ち、世界を救うのです」
(王子アレン?……待って、この台詞どこかで……まさか、『救済の聖女』のオープニングシーン??)
先ほど話題に上がっていた乙女ゲーム。何故だか分からないが、そのオープニングシーンに立たされていた。
(まさか噂の異世界転生!?チートとか、特別なスキルとか貰えるかも!?)
少しの期待を込めて口を開こうとしたが、喉が動かない。
(あれ…?話せない??)
その間にも淡々と説明されるHP・MPの概念、ステータスの確認方法。まるでゲームのルール説明のように、それらを機械的に話し終えた女神が微笑んだ。
「わたくしから祝福を授けましょう」
・初期レベル30
・護りの腕輪(即死防止機能付き)
(……これ、当時の予約特典じゃない!嬉しいけど……なんかもっと強そうなスキルとか、もらえないんでしょうか……!)
内心で突っ込んだ私に、女神は真剣な声を重ねた。
「1つ、注意があります。学園への入学まで、聖女と知られてはいけません。聖女特有の能力……解呪、浄化、闇ダメージ無効、範囲回復などは決して使わぬように。さもなくば――」
女神の声が止まる。
「あら? ……すでに使用したようですね?」
(えっ!?)
「わたくしの力で一度だけ隠してあげますが、次はありませんよ。」
待って、一体いつどこで使ったというのか。
「では、2年間のチュートリアルを与えます。魔王を倒せなければ世界は滅び、あなたの魂は永遠に時空の狭間を彷徨うことになります。励みなさい。」
「ちょっと待って! せめて何がアウトだったのかだけでも――!」
問いかけは届かず、視界は再び暗転した。
*
「お嬢様、起きてください。朝食のお時間ですよ」
目を開けると、アンナというメイドが立っていた。
促されるままドレッサーに座り顔を上げると、鏡の中にいたのは、透き通るような銀糸の髪を持つ美少女――『救済の聖女』の主人公、ヴィリアリナだった。
最近話題の異世界転生が、まさか我が身に起こるとは。驚きと動揺。しかし物語の主人公に抜擢された期待に胸が弾む。
(私はなんでゲームの中に?女神様は魔王を倒せって言ってたけど……)
朝食を終えた私は、自室にこもって情報を整理することにした。
「魔王はレベル90。開幕の即死攻撃を耐えるにはレベル80で覚える『即死無効』が必須。でも、レベル80への道は周回前提の鬼畜難易度だったはず……」
私が転生したこのゲームは、ストーリーをクリアするか途中で死ぬと、レベルを保持したまま振り出しに戻る仕様だった。だが、生き返る保証もない今、ほいほい死ぬわけにもいかない。
このゲームの恋愛要素は、スキルという形で戦闘に還元される。攻略対象ごとに攻略すると解放されるスキルが決まっており、中でも王子を攻略した際のスキル『リーダーシップ』は、パーティーメンバーのレベルを+20する破格の性能だった。
「5年後までにレベル80に達するには、攻略相手は王子に絞って、レベル60に自力で到達するしか道はなさそう……」
なぜ私が魔王討伐に指名されたのか分からないが、倒さなければ世界が滅ぶという。私も無事ではないだろう。せっかくもらった第二の命、今度はエキストラで終わらない人生を歩みたい。
私は高校時代の記憶を絞り出し、情報をノートに書き溜めていった。
*
翌日、屋敷の裏庭を散歩していると、木々の奥に小さな洞窟を見つけた。
(……ここは、もしかして?)
足を踏み入れると、ひんやりとした空気と共に、見覚えのある魔法陣が浮かび上がる。
「やっぱり! 『試練の間』だ!!」
ここは序盤のチュートリアル会場であり、クリア後のレベル上げ専用施設。女神が言っていた「2年間のチュートリアル」とは、ここで徹底的に鍛えろという意味だったらしい。
最初の扉は「レベル30以上」で解禁される。私は予約特典の初期レベルを武器に、その重い扉を押し開けた。
*
それからの日々は、『試練の間』に入り浸った。魔法を使えるという心躍る感覚と、モンスターを倒して得られる経験値に達成感を覚える。
魔力量には限度があるため、回復薬も欲しいところだったが、回復薬は近年の魔物の増加により高騰し、手が届かなかった。
レベル40になった頃、「先生」もできた。どこからともなく現れては、魔物への立ち回りや、光魔法の運用を叩き込んでくれる謎の人物。
入学式の前日、ステータスを確認した私は、満足気に頷く。
「よし!レベル49!3年後までにレベル60は射程範囲!」
チュートリアルは終わった。明日からはいよいよ、ゲームの本編が始まる。
目指すは王子の攻略と、その先にある魔王討伐。
不安がないと言えば嘘になる。けれど、2度目の人生をエキストラで終わらせるつもりはない。
私は決意を胸に、王都へ向かう馬車に乗り込んだ。
窓の外には、これから始まる波乱の予感をかき消すような、清々しい青空が広がっていた。
世界観補足
※読まなくてもOKです!
▪️レベル
一般の子供:レベル10~20
一般成人:レベル30
学園の入学要件:レベル30
貴族の子供:レベル20~40
貴族成人:レベル50
貴族エリート:レベル60~70
騎士団長:レベル80
魔王:レベル90
▪️一定レベルごとに解放されるスキル
レベル40:人のステータスが見える(自分よりレベルが10上の人まで)
レベル50:ステータス隠蔽・書き換えができる。固有スキル発動
レベル60:固有スキル発動2
レベル80:即死無効
▪️魔法
ヒトは魔法では殺せない。HPが1は残る。ただ、魔法でトドメをさせないだけなので、魔法で拘束して刺したり、凍らせて砕いたりすると普通に死ぬ。
ヒト以外は魔法で殺せる。
唯一ヒトを殺せる魔法が闇属性の魔法。
▪️属性
聖:聖女・聖人のみが使える。呪いの解呪、範囲回復魔法、闇属性無効など。
光:回復魔法が得意。光属性はほかの属性を持つことはほとんどない。攻撃・防御魔法も使えるが威力は弱い。
闇:唯一ヒトを殺せる魔法。ほかの属性を持つこともある。攻撃・防御魔法が得意。
火:攻撃魔法が得意。
風:変装や拡声など補助魔法が得意。
水:光属性よりは弱いが、回復魔法が使える。光属性は珍しいので、一般的には水属性がヒーラーを担う。
土:防御魔法が得意。
基本的には火・水・風のどれかは持つ。
貴族は複数属性持ちも普通。
光と闇の属性は珍しい。
聖女でなくとも光属性はいる。
▪️魔物
魔王城のある北の方で発生するパターンと、普通の生物が瘴気に侵されて発生するパターンがある。
魔王城は魔王が不在でも存在し、配下を生み出しながら主人の帰りを待っている。魔王は定期的に復活するとされているが、復活のメカニズムは不明。




