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改 悪役令嬢がいじめてこないのでストーリーが進まない! 〜もしかして私は、悪役令嬢がヒロインの物語で断罪される元ヒロインですか!?〜  作者: うみの もずく
この世界のヒロインは

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17話:シルベール様の謎

「いったぁぁ……っ!?」

「アリナちゃん、大丈夫!?」

 

 翌日、私は強烈な筋肉痛に見舞われていた。回復魔法をかけてみるが、全く手応えがない。どうやら「怪我」ではない生体反応は、魔法の治癒対象外らしい。

 

「あ、足が……!」

 

 カレンに支えられ、産まれたての子鹿のようにプルプルと震える足でなんとか寮の階段を降りる。

(身体強化魔法って偉大だったんだなぁ…)

 1日中試練の間で魔物と戦ってもへっちゃらだった身体強化魔法の恩恵に改めて涙しながら、私は這うようにして教室へ向かった。


 *


 明日から夏休み。学園の空気は、どこか浮き足立っていた。

 領地へ帰省する者、演劇を観に行く者、旅行の計画を立てる者……あちこちから楽しげな声が聞こえてくる。


「アリナちゃんは休み中、実家に帰るの?」

「うーん、どうしようかな。討伐隊以外、何も決まってないや。カレンはどこか行くの?」

「私はね、なんと王立劇場のチケットが取れたの!! しかも『シガレット』よ!」


 王立劇場と言えば連日満員の超人気劇場。中でも切ない恋と復讐を描いた『シガレット』は、今一番の話題作である。


「色んなツテを頼って、やっと手に入れたの。劇中歌も素晴らしいって評判だし、もう本当に楽しみ!!」

 

 音楽に造詣の深いカレンは、キラキラとした瞳で舞台の見どころを熱弁してくれる。


「カレンの話を聞いてるだけでも凄く面白そう!!帰ってきたら感想聞かせてね!」

「もちろん!!」


 そんな賑やかな会話を遮るように教室の扉が開き、大量の書類を抱えた先生が現れた。


「皆さん、明日から夏休みですが、勉強もお忘れなきように。課題を配ります。休み明けに必ず提出してくださいね」

「「ええええ……!!」」

 

 一瞬で教室のテンションが氷点下まで下がる。

(なんでゲームの世界にまで宿題があるのよ……!)

 変なところで現実に忠実なこの世界に、心の中で机を叩いた。


 ――実はゲームではこの課題が、「勉強会」という攻略対象と仲を深めるイベントに繋がるのだが……恋愛イベントをすっ飛ばしていた私には知る由もなかった。


 *


 夏休み初日。

 さて、夏休みに入ると言うことは、討伐隊の参加も近づいてきた。

 騎士魔導部では、2年生から討伐隊への参加が許されている。聖女として同行する私は、今、2年生の精鋭たちに混ざって強化練習の真っ最中だ。

 

 ドドドドドド――ッ!

 演習場に、絶え間ない衝撃音が響く。

(満遍なく、均一に……魔力の揺らぎをなくして……!)

 

 ドドドドドド――パリンッ!

 

「うぐっ……!」

 

 徹底的に叩き込まれるのは防御と撤退。不測の事態が発生した時に、怪我をして逃げ遅れるのが1番の足手纏いになるということで、まずは「絶対に死なない立ち回り」を体に叩き込むのだ。

 シルベール様の容赦ない集中砲火。わずかな魔力の乱れを突かれ、私の光壁が砕け散った。

 

「視界の情報に左右されるな。魔力の密度を一定に保て」

「はい!」

 

 シルベール様は固有スキルの「クリティカル」で弱点を見抜く力を持っている。少しでも壁が薄くなれば、そこを確実に撃ち抜かれるのだ。

 

「君が崩れれば全体が崩れる。まずは防御を極めろ」

「分かりました!」

 

 次は私の攻撃の番だ。シルベール様の防御は、氷の壁を風が覆う二重構造。

 

「行きます!」

 

 私はありったけの手数で魔法を叩き込む。光属性は一撃が軽いため、手数で圧倒しろ——。それが、私の師匠である王弟陛下の教えだ。

 けれど、制限時間の5分が過ぎても、彼の鉄壁が揺らぐことは一度もなかった。

 

(く、悔しい……!)

 圧倒的な実力差に項垂れる私だったが、心は折れていない。

 私の脳内「魔王討伐パーティー」のメイン枠には、既にシルベール様がエントリー済みだ。この至宝、何としてもスカウトせねば。

 

(……そういえば、なんでこんな逸材が、ゲームにも小説にも出てこなかったんだろう?)

 

 ユリウス殿下は、小説版では「隠し攻略対象」として登場したし、ゲームでもその存在は仄めかされていた。

 けれど、シルベール様はどうだろう? 弟のジーク様ルートにも出てこなければ、そもそも「ジークに兄がいる」という設定すら、私の記憶にはないのだ。

 

(新キャラだったのかな……?それとも、私が設定を忘れているだけ? この強さで『モブ』はあり得ないしなぁ……)

 

 現状、好感度「0」の彼を、魔王戦までにどうにか仲間に引き入れたい。

 他の生徒への指導に移った彼のラブメーターを、熱烈な視線で見送った。

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