11話:聖女たちの女子会
リリアージュ様への聖書の説明と、ユリウス殿下への報告書をまとめていたら、すっかり外が暗くなってしまった。
リリアージュ様の好意で、今日は公爵邸に泊めてもらうことになった。
彼女の部屋で、リリアージュ様は今までのことをポツリポツリと話してくれた。
断片的な転生前の記憶から、転生直後のこと、王子との出会い、聖女としての修行など……彼女が一生懸命生きてきた軌跡が語られる。
その内容に私はただただ感服するばかりだ。
(いきなり知らない世界に来て、聖女としての務めを任されて、王妃教育までこなして……本当にすごい)
アレン様との婚約は、元々は病弱な娘に少しでも明るい夢を見せようと、両親が無理を言って通したものだったという。
けれど、その後莉愛ちゃんの転生によってリリアージュは聖女として覚醒し、体調も回復。さらに聖書に2人の姿が描かれていたことも手伝って、今やその婚約は「運命」として確固たるものになっていた。
与えられた環境にあぐらをかかず、努力し続けた莉愛ちゃん。そんな彼女から王子を奪おうとしていたなんて、我ながらとんでもない事を考えていたものだ。断罪されるのも当然の結果と言える。
彼女に請われて、私も日本人だった頃の記憶を辿った。
特筆することのない、平凡で、けれど少しだけ寒々しい人生。強いていうなら親がいない、捨て子だったことくらいしか特徴のない人生だったが、リリアージュ様は真剣に聴いてくれた。
「私ね、同年代のお友達とこうやってお泊まり会とかするのが夢だったの」
リリアージュ様がポツリとこぼす。
この国に4家しかない公爵家の令嬢。加えて聖女となれば、対等な同世代などそれこそ王子くらいしか居ない。
「よかったら……私と、『お友達』になってくれない……?」
遠慮がちな瞳で上目遣いをするリリアージュ様。――その破壊的な可愛さに、同性でも心臓が跳ねた。
「も、もちろん!…でも……私でいいんですか?」
(いじめられようとして、リリアージュ様が嫌がるようなこと考えてたのに……)
罪悪感で目を伏せた私の手をリリアージュ様は優しく包む。
「あなたがいいの。りあとお友達になって……?」
「よ、よろこんで……!」
「じゃあ、アリナちゃんって呼んでもいい? それから、敬語もなし!」
「わかった……!呼び方はなんでもいいです…いいよ!じゃあ私は……リリアって呼んでもいい?」
「もちろんよ!」
パッと花が咲いたような笑顔を浮かべるリリア。
貴族としての枷が外れたところで、私たちは普通の女の子として、そして魔王攻略の「パーティメンバー」として、ある話題に向かい合う。
「じゃあ早速! 女子会といえば恋バナでしょ!!リリア、実際のところアレン王子のことはどう思ってるの?」
「えっ!?ど、どうって……」
急な直球に、リリアは頬を林檎のように染めて沈黙した。もじもじと言葉に詰まるリリアを見る目が生暖かくなる。こうしていると、普通の年相応の女の子だ。
「魔王討伐のためには、リリアは王子に溺愛されて欲しいんだけど、リリア自身の気持ちはどうなのかなって。……まあ、今の顔を見る限り、心配なさそうだね」
「で、溺愛……っ!? そんな、私なんて……」
「謙遜はいらないよ。アレン王子は、今でもリリアのことが大好きだと思うんだけど、目に入れても痛くないくらいの溺愛まで持っていくには……」
真剣な私のトーンに、リリアが驚愕の声を上げた。
「ア、アレン様が私のことを……!? そ、そんなわけないわ。彼はただ、聖書に描かれていたから婚約を続けてくれているだけで……」
「……えっ。まさか気づいてなかったの?」
「……え?何に……?」
「アレン王子の目が、リリアを見る時だけとびきり優しいよ?」
「……えっ?」
「えっ??」
今度は私が驚愕に目を見開いた。
(ラブメーターも60を超えてるし、あんなにわかりやすく、リリアを見る時だけ目つきがとろけてるのに……!)
真っ赤になった顔を両手で覆うリリア。初心な反応が見ていて面白いけれど、これはなかなかの重症だ。
「アレン様は、お優しいから誰にでも気遣いができる方なのよ。私なんてそのうちの一人で……」
「いやいや、リリアは明らかに特別扱いだよ! いつも体調を気にしてるし、リリアがちょっと笑うだけであの方、顔が緩んでるもん!」
どうやらこの「溺愛作戦」、最大の壁は敵のガードの固さではなく、ヒロインの自己評価の低さにあるらしい。
夜はまだ始まったばかりだ。魔王討伐作戦(という名目の恋愛コンサル)で盛り上がる私たちの女子会は、朝日が昇るまで続いた。




