最終話-③
温室ドームを見た後、バラ園や梅園だったりたくさんのチューリップが並ぶ花壇などを二人でじっくり見て回っていた。
どれもこれも見応えがあって、あっという間に時間は過ぎていく。
その時、ガーデン内にチャイムが鳴り響いた。
「あれ、なんのチャイムなのだね?」
と、お姉さんが不思議がっていた次の瞬間。
お姉さんから、くぅ〜とお腹のなる音がした。
「ありゃっ?」
「そうか、お昼の時間みたいっすね」
「あははっ、もうそんな時間なのだね。ならとうとう、それの出番なのだよっ!!」
と、俺が持っていたお姉さんのバッグをびしっと指さす。
すると「あっち行くのだよ!」とお姉さんに手を引かれ、満開の桜が目に入る芝生の広場にやってきた。
そこでレジャーシートを広げて、二人で腰を下ろす。
「ターイヨウ君! これなーんだっ!!」
満面の笑みで、お姉さんはバッグから大きなお弁当箱を取り出す。
「えっ……お姉さん、もしかして……」
「そのもしかしてなのだよ〜っ! じゃじゃーん!!」
楽しそうな声と共に、お弁当箱の蓋が開かれる。
そこには、たくさんのおにぎりと唐揚げや卵焼きなどが詰められていた。
「おおっ! これ、お姉さんが作ってくれたのかっ!?」
「へへーんっ! そうなのだよ!! タイヨウ君、食べたいって言ってたもんねっ♪」
お姉さんは腰に手を当て「えっへん!」と聞こえてくるように胸を張る。
どうやら、俺のために用意してくれたみたいだ。
手作りのお弁当なんて、嬉しすぎる。……夢じゃ、ねえよな!?
それに……。
「あの時の約束……覚えててくれたんすね」
約束を忘れないでいてくれたことが、なにより嬉しかった。
「当たり前なのだよ。私を誰だと思っているのだね?」
お姉さんは、俺のほっぺを指先でつっつく。
「……そうっすね。嬉しいぜっ」
涙が出そうになっちまうのをなんとか堪える。
俺も、お姉さんのほっぺをつっつき返す。
「えへへっ、さぁ食べよ!!」
「はいっ!!」
二人で手を合わせて、元気よく「いただきますっ!」と声をそろえた。
「あっ、ちなみにおにぎりの具はランダムなので当ててみて欲しいのだね」
「ランダム!?」
なんでおにぎりがくじ引き方式なんだよ。
「てなわけで、はいあーんっ!」
お姉さんは、おにぎりを手に持つ。
「よっしゃこい! あー…んぐっ!!」
勢いよく一口で受け取る。
今までみたいに、あーんごときで戸惑う俺ではない。……いやちょっとは恥ずかしいし、もちろん嬉しいけどね?
さてさて、最初のおにぎりの中身は……。
「もごごっ!はへはっ!! (美味いっ!シャケだ!!)」
「あははっ、なに言ってるかわからないのだよっ。いっぱいあるから、たくさん食べるのだよっ♪」
「ほふほ!! (おうよ!!)」
こうして賑やかなお昼が始まった。
おにぎりはシャケに始まり梅やツナマヨ、ふりかけの混ぜごはん。そしてまさかの中身が空洞なおにぎりなんかも入っていた。
……いや、それどうやって作ったんだ??
「んん〜っ♪ 我ながら美味しいのだよっ」
お姉さんも、おにぎりを手に取って頬張っている。
目をぎゅっとした笑顔をしながらもぐもぐしているお姉さんは、すげえ可愛すぎた。
俺はたまらず、お姉さんの頭にポンっと手を乗せる。
「ん? どしたのだね?」
お姉さんは首をかしげたまま、構わずおにぎりを頬張り続ける。
「……」
そのまま俺は、ゆっくり頭を撫で始める。
しっかりと手入れされているさらさらの髪の感触が、気持ちいい。
セットされた髪を崩さないように気をつけながら、しばらく撫で続けた。
「んひひ〜、どうしたのだねぇ? そんなによしよししたくなるほど私が可愛いのだね??」
お姉さんは気持ちよさそうに笑う。そうだね、めちゃくちゃ可愛いよ本当。
でもあれだな、そうだと簡単に答えるのもつまらない。
それなら……。
「……ひゃんっ!?」
頭を撫でていた手を、すっと頬へ滑らせる。
そして俺はゆっくり顔を近づけた。
「なになに、なんなのだね!? 待って、そんな急に、ううっ……!!」
今にも爆発しそうってくらいに、急に顔を真っ赤にするお姉さん。
なにかを覚悟したかのように、目をぎゅっと瞑ってしまう。
そして俺は――
「可愛いお口に、ご飯粒ついてますよっ」
と、お姉さんの口元についていたご飯粒を取ってあげた。
「……ふぇ、ごっ、ごは……」
ぱちっと目を開けるお姉さんに、そのご飯粒を見せる。そのまま俺は、ぱくっと口へ放り込んだ。
「ぁ……」
お姉さんは目を真ん丸にして、開いた口が塞がらない様子だった。
「あれれ、どうしたんですか? もしかしてなにか期待しちゃって――」
「うがーっ! このプレイボーイめっ!! この子はいつから私をたぶらかすようになっちゃったのだね!?」
ものすごい食い気味にまくし立ててきた。
「このっこのっ!! このお口がイタズラなこと言うのだね!?」
するとお姉さんは体を乗り出し、両手で俺のほっぺをむにーっと掴み始めた。
ちなみに痛くもなんともなく、ただただ可愛いだけだ。
とりあえず気が済むまでやらせておこう。
「まったくもうっ!! ご機嫌斜めなのだよもうっ!!」
手を離したお姉さんはそのまま腕を組み、そっぽを向いた。
「ごめんってお姉さん。可愛くてつい……ね?」
「もー、可愛いなんて通用しませーん!!」
いやその反応は可愛いって。
「困ったな……機嫌直してくださいよ〜」
「……じゃあ。あっー……」
そう言ってお姉さんは小さい口を開ける。
……なるほど、そういうことね。
「ふふっ、やっぱ可愛――」
「ははふっ!! (早くっ!!)」
「はいはいっ。じゃっお姉さん、あーんっ。」
俺は手に取ったおにぎりを、お姉さんの口元へ運ぶ。
小さい一口ながら、ぱくっと勢いよく頬張った。
「んぐんぐ……ん〜っ! おかかっ! 美味しいっ♪」
不機嫌そうな顔はあっという間に消えて、またいい笑顔になった。
そしてお姉さんは、俺の肩にこてんっと頭を預ける。
「……えへへっ、楽しいねっタイヨウ君」
「ええっ、とってもっ!」
俺たちは見つめ合って、一緒に笑い合った。
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