第3話-③
その後、病院内を歩き回りながらたくさん話ができた。
ただ、俺の進路はやっぱり見えないままだった。
まだまだ時間がかかるってことなんだろう。
今更考えると、中庭でのあの発言はまた告白じみたものだったなと恥ずかしくなる。
だけどお姉さんはあの後も、ずっと笑顔でいてくれた。
嬉しい限りだ。
そっ、それにお姉さんが俺のこと、すすす好きになりそうって……。
なんて考え始めると頭が爆発しそうになるのでなるべく考えるのをやめた。
こうして俺とお姉さんは、病室へと戻ってきた。
「たっくさん歩いたのだねー、お疲れ様でしたぁ!!」
「結構疲れましたね……あっ、飲み物は冷蔵庫にしまっちゃいますからね」
「あっりがとうなのだよ〜♪」
ご機嫌な声で返事をするお姉さん。
ベッドに顔からダイブして、足をパタパタしている。……いつも通り俺のベッドの上で。
とりあえず残った飲み物を備え付けの冷蔵庫に放り込もう。そういやなにが残ってたんだ?
ええと、オレンジジュースにお茶、コーヒーにトマトジュース。炭酸系も……ってすごい余ったな。
バタンと冷蔵庫を閉め、残ったお菓子の山をお姉さんの机に置いておいた。
「お姉さん、お菓子も置いておきますよー。てかあれだけ食べて夜ご飯食べれるんすか?」
「お菓子とお夕飯は別腹だからいいのーっ」
お姉さんは寝返りをうって、俺に視線を向けた。
「……」
ふと、お姉さんをじっと見つめてしまう。
気づいてしまった「好き」という感情を意識すると、色んなことを考えてしまうじゃねえか。
「なぁにタイヨウ君? そんなあっつい眼差しで見られちゃうと、目玉焼きになっちゃうのだよ??」
いつもみたいに、クスッと悪戯っぽく笑う。
からかいなのはわかっているけど、今の俺には冗談として受け取れなくなっていた。
「……タイヨウ君?」
「えっ、いや……んと」
そっぽを向いて、頭をガシガシと掻く。
一度、「好き」に支配されると他になにも考えられなくなっちまう。
俺はお姉さんにくるっと背を向け、両頬をぱしんと叩く。
後ろでお姉さんの「えっ」と言う声が聞こえてきて、多分驚いているのだろう。
……もう、この際伝えてしまおうか?
この気持ちを、この思いを。
告白なんてしたことねえし、なんなら年上のお姉さんになんて、人生で一度もあるわけがない。
なにを言うのが正解かもわからねえ。でも、じっとはできないし考えるのも性に合わん。
今の俺にブレーキをかけられるほどの理性は、もう「好き」に吹き飛ばされたみてえだ。
……よし、言おう。俺はお姉さんの方に振り向く。
「おっ、おっお姉さん!!」
「ふぁ、ふぁい!!」
なにやら口をもごもごさせていた。
またお菓子でもつまんでいたのだろう。けどごめん、今は止められない。
「どうしても言いたいことがあって……俺……俺はっ!!」
「タイヨウ、君……」
「あ……お……っ!」
ちくしょう上手く口が動かねえ……
いつのまにか、拳を痛いほど握りしめていた。
言え、言うんだ俺! 俺も、お姉さんが好――
「げっほぉぁっ!!!」
その時、思い切り咳き込んだお姉さんの口から赤い液体が飛んだ。
「……はっ?」
俺の目の前で飛び散るそれは、ゆっくりと俺の服やお姉さんの服にもたどり着く。
まるで時の流れが遅くなったみたいだった。
そして床に到達した時には、びちゃっと嫌悪感のある音を立てた。
「げほっ、がはっ……」
お姉さんの咳が止まらない。
しかも病室を出る前までの咳とは、明らかに違う。
破裂するような音が、病室に響き渡る。
待ってくれ、これって……血?
「はぁ、なっどうして。お姉、さん? えっ……」
頭が真っ白になる。
足もすくんで、まともに言葉も出てこない。
もしかして、お姉さんの体が悪く……なってて……。
待ってくれよ、嫌だ。嫌だよそんなの……!!
「たっ、タイヨウ君……」
「お姉さん!? ごめん、ぼーっとしてて……今ナースコールを!!」
お姉さんの声で、やっと我に帰る。
とりあえず看護師を呼ばねえと!!!
「まって……こっ……」
お姉さんは腕を震わせながら、ゆっくり上げようとした。
「この……」
「この? なんだ!?」
焦りで声が裏返ってしまう。そして――
「このトマトジュース、味濃過ぎてマズいのだね……」
お姉さんはなにかを指さしながら、そう言った。
「……はい??」
な……なにを言ってるんだ? トマトジュース?
「マズすぎて咳き込んじゃったのだよ。うぇ……服も床もベシャベシャなのだよ。もー」
状況が飲み込めねえ。
さっきとは打って変わって、お姉さんはしっかり言葉も話せている。
どう……なってんだ。
周りを見てみると、お姉さんの近くに口が開けられた缶ジュースがあった。
そのラベルには……。
「超濃厚……トマトジュース……?」
ってことは、さっきのは……コレか。
「はっ……ははっ」
俺の中の圧力が、勢いよく抜けていく。
いつのまにかぺたんと床に座り込んでしまった。
「あり? タイヨウ君どうしたのだね??」
お姉さんの反応を見る限りピンピンしてる。
そっか、俺の早とちりだったか……よかった。
本当に血だったら、手遅れだったならどうしようかと……。
「ちょっ、タイヨウ君!? なんで泣いているのだね!?」
「……えっ?」
頬に流れる雫の感覚。
色んなことを考えていたら、いつの間にか涙が溢れていたみたいだ。
「いやっ、なんでもねえから! それより心配しちまったぜちくしょう!!」
俺は心配させまいと、空元気で返す。
「そっそれより、服も汚れちまってるし着替えとか色々必要だろ? 俺取ってくるよ!!」
この場に留まるのが気まずくて、俺は病室を飛び出した。
その際、お姉さんに「タイヨウ君やーい!?」と呼び止められたが今は聞こえないフリしてナースステーションへ向かう。
よかった。お姉さんは元気なままだった。
もしものことがあったら、俺は――
いや、変なことを考えるのはやめだ。
今日は気持ちを伝える日じゃなかった。そういうことにしておこう。
だから次こそは、ちゃんと伝えられるようにしておかなきゃな。
俺は震える右手を押さえて、心に誓った。
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