14戦目 絡め手
稽古中のフェスとアネリーの元へある人物が来ていた。
「本当にフェスが戻って来ていたとは……」
「ん?髭もじゃの知り合いはいないんだけど?」
「忘れらていたか……槍の技術と才能はこの国一と言われているが他はからっきしだな。メアリーはいるか?」
「メアリーの知り合い?生憎と副官と外出中よ!」
「なんと……ついとらんなぁ……」
髭もじゃのおじさんは頭を抱えます。
「はぁ……中で待ってて下さい。第1騎士団団長、クルス・エイム殿。」
「なんだ!覚えてるじゃねぇか!いや、また来るさ。メアリーによろしく頼むわ!」
「了解……じゃあ続きやるよ!アネリー!」
「うん!」
クルスは後ろを向いて帰って行った。その後ろを2人がぶつかり合う音がした。
(それにしても……)
フェスと稽古をするアネリーを一瞥して思う所があるクルス……
(あのフェスが認めるアネリー・サーシャ。こちらでも欲しかったんだがなぁ……フェスが育ててるならこちらに来るより良かったかもな……)
クルスは馬に跨り帰って行った。
その頃コーネリア達は医療機関に来ていた。
「手に重度の傷です。化膿も少し見えますね。傷を洗浄してから縫いますから我慢して下さい。」
「そんな金はない!帰る!」
そんな立ち上がろうする彼女を停めたのはコーネリアだった。肩をしっかりと掴んで椅子へと戻します。
「大丈夫ですよー。お金は私たちが経費として出しますから。」
「しかし……」
「安心して下さい。主人であるメアリー様は貴女の様な方を見捨てたりしませんから。」
「あの娘がお前の主人なのか?」
「はい、大恩人であり、良い上司です。」
彼女はコーネリアを見て観念した様に力を抜いた。そしてそこに私も到着します。
「遅くなりました。怪我の具合はどうですか?」
「最悪の一歩手前だった様ですが、なんとかなりそうです。」
コーネリアから状態を聞きました。そして私は彼女へ向き直ります。
「剣の修繕は受けて頂きましたよ。その代わり怪我が治ってから取りに来いとの事です。」
「じゃあ今日には治さんと!」
この方は本当に剣の事しか考えてない様ですね。
「その怪我では7日は治らないでしょう。それまでは私達の拠点で休んで下さい。」
「そんな……ここまでしてもらっておいて宿まで貸して頂く訳にはいかん!」
すると医者から声がかかる。
「その話は後にして貰えますか?先に処置しますので。」
「あ、申し訳ないです。」
私とコーネリアは一旦外に出る事にした。
「あの、メアリー様……」
「言いたい事は分かるわよ。あの傷だと相当な処置になるはずよ。コーネリアが背負って帰って貰えますか?」
「そのつもりです。」
そして案の定処置室から悲鳴が上がった。傷を洗うという事は患部に水で洗うなんて物じゃない。殺菌するためにアルコールで擦るのだ。大の男ですら悲鳴を上げるのだからこれは正常である。が、しかし……
「悲鳴が止みましたね。」
「もしかしたら気絶してしまったのでは……」
私たちはそっと病室を覗きました。するとそこには痛みを必死に堪える彼女がいました。そう、気絶などしてませんでした。ただただ耐えていたのです。私たちはそっと扉を閉めました。
「なんて精神力でしょう……」
「ええ、戦場で傷を洗い縫い合わせる。男の人ですら失神する痛みを耐えるなんて……」
私たちも一度は経験しています。痛みは想像を絶します。それを耐えるなんて最早言葉に出来ませんでした。
「コーネリア、マーヤさんの迎えを頼めますか?」
「かしこまりました。」
医療機関からコーネリアはマーヤの迎えに行きました。私はその間彼女をどう私の騎士団へ加入させるかを考えました。
「メアリー様、処置が終わりました。こちらへお越し下さい。」
「はい。」
私は医師に呼ばれ処置室に入ります。
「すまんな……大それた医療をしてもらって……」
「いえ、お気になさらず……」
少しの沈黙が流れます。それを見かねたのか、医師から病状とこれからの医療方針について説明を受けました。
「メアリー様、まずこの方の手はかなり重症です。皮下組織まで菌が入っていた為、肉も少し削りました。今縫い合わせた傷は包帯で巻いていますが常に菌が入る可能性がある事をお忘れなく。」
「分かりました。私たちは何をすればよろしいかしら?」
「まずは栄養のある食べ物を食べさせて下さい。少し栄養失調気味です。そして包帯はこまめに変えて下さい。まだ血は止まってませんからしばらく通院して貰います。」
「分かりました。請求は騎士団へお願いします!」
「かしこまりました。薬を出しますので服用してください。」
たぶん最善策は打っただろう。さて、ここからだ。医療機関を出た私たちは近くのベンチに座りました。
「そう言えばまだ自己紹介がまだでしたね。私はメアリー・バーン。この国の第21騎士団の団長を務めております。」
「知っとる。お前さんの部下から名前などは聞いたからな。わっちはソラじゃ。よろしくな。」
こういう時は本来握手をするのだろうが生憎とソラの手はボロボロなので出来ない。
「なぜ助けた?」
「……理由は言ったはずですよ。努力してる者への報酬です。」
「お主に見返りがないが?」
「見返りなどいりません。ソラは真っ直ぐ進んで下さい。私はソラが技を成功させるのをみたいだけなのです。」
ソラが目を見開いた。こんな事言うのは恐らく私くらいだろう。
「はっはっはー!お主面白いのぅ!分かった!しばらく厄介になるぞ!あの技が成功するまでだがな!」
「まずはその手を治す事ね。」
「う、うぬ……」
「お待たせしました。」
声のする方を見るとコーネリアとマーヤが居た。
「お疲れ様です。コーネリア、マーヤ。今日から一時ですがこちらで世話をする事になるソラさんです。」
「ソラじゃ!よろしくのぅ!」
「よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
2人が頭を下げる中ソラはかなり軽い挨拶だった。これは恐らく性格の違いだろう。私たちは第21騎士団の拠点に帰った。
拠点に戻ると早速フェスとアネリーがソラと話始めた。この2人は人見知りをあまりしないから助かる。逆にレイは私の後ろかコーネリアの後ろ、もしくは姫様の後ろに隠れている。
「ねぇねぇ!それなぁに?」
「これか?これは手裏剣というやつじゃ!こうやって飛ばすんじゃ。見ておれー……よっ!」
四方に出っ張りのある鉄の塊はソラが軽く投げただけで壁に突き刺さった。恐らく暗器の類だろう。有益な武器の情報は私にとっても有用だが……
「部屋を壊さないで下さいね。ソラは怪我人ですから安静にお願いします。」
「分かってます!」
「りょーかい。ねぇソラ!手治ったら私と手合わせしてよ!」
「フェスだったか?いいぞー。手合わせは久しいから怪我せん様にせねばな。」
「ソラが?」
「お互いにじゃ!カッカッカー!」
これにはフェスも大喜びだ。対戦者として油断されてないという証拠であり、それは戦士だからこその誉でもある。現にフェスは小さいからと女だからと油断されてきた。初めて対等と見てくれた証なのだから喜ぶ他ない。
「明日やろ!明日!」
「だから怪我が治ってよ!」
私は興奮気味のフェスの頭を撫でてあげます。昔からなぜかこうすると喜んで落ち着いてくれます。するとフェスが思い出した様に話始めます。
「あっ、そう言えば髭もじゃの人が来てたよ!あのー……なんだっけー……第1騎士団の……」
「クルス団長ですか?」
「そう!それそれ!なんかメアリーに話があるって言ってたよ!」
「話……ですか?分かりました。明日私から第1騎士団へ赴きましょう。コーネリア付いて来て下さい。マーヤ、ソラさんの通院は貴女に任せます。多少の仕事の遅れは大丈夫なのでここに帰って来るまでの付き添いをお願いします。」
「かしこまりました。」
「私たちは?」
「明日も訓練をお願いします。今の所この騎士団の戦力はコーネリア、フェス、アネリーの3人です。人員はまだ探してますが見つかっていませんので引き続きレベルアップをお願いします。それか雑務もありますが?」
「訓練でお願いします!」
「訓練で!」
2人は雑務は嫌なようだ。
「メアリー様も戦力ですよね?」
「私はあくまでも指揮官です。先陣切って向かう事はありませんから。」
「な〜に言ってるのよメアリー!貴女が先陣を行ってない事なんて見た事ないよー!」
この発言はフェスである。
「そうなのですか?」
「そうそう!大体私が1番槍のはずなのに先に中枢を叩いてるんだから私が倒した先にはメアリーが居てその横ではコーネリアが縄で縛り上げてるのよ」
「そう言えばそうですね。フェス達が先陣を切って荒らしてる間に先回りして敵の中枢を荒らした挙句尋問までしてますからねメアリー様。」
「…………記憶にございません。」
あるけれど恥ずかしくなるので記憶にない事にしましたとさ。
翌朝、私はマーヤとソラを見送りました。そして私とコーネリアはフェスとアネリーに見送られて第1騎士団へやってきました。
「やぁ、メアリー、コーネリア……」
「久しぶりですね。イェーガー殿……」
イェーガーは第1騎士団の副官だ。武術より知性で登り詰めた人だ。
「クルス団長はいますか?」
「生憎と席を外しております。昨日の件ですよね?」
「はい。いきなり押しかけて申し訳ありません。」
「いえ、こちらこそ団長がいきなり訪れてしまい……」
お互いに頭を下げ合うシュールな絵になってしまったが私たちは奥の応接室に通されました。するとイェーガー殿は箱を持って応接室へ入ってきた。
「すいません。まだ団長が帰って来ないので先に話をしておきますね。」
「はい。」
そう言って箱の中から取り出されたのはヴェルシキニアで使われてた武器だった。
「見覚えがある物ですね。」
「あの戦いで回収した物ですか?」
イェーガー殿は首を横に振りました。
「これは上層部からです。私どもも目を疑いました。つい先日敵が使ってた武器を仕入れて来たのですから……」
イェーガー殿は本当に困惑していました。私たちも困惑を隠せないでいます。
「つまり……これが何かの罠ではないかと思っているのですね?」
「はい……意図が読めないのです。武器を渡すということは戦争を起こそうとしているのか?はたまた政治に我々を使おうとしているのか……」
イェーガー殿がそこまで言った時に部屋の扉が開きました。
「すまん!遅くなった!」
そこには息を切らして入って来るクルス団長でした。私とコーネリアは立ち上がり一礼します。
「いえ、こちらこそ急に押しかけてしまいました。」
「硬くならんで下さい。アンタには貸ししかねぇーんだ。」
そう言ってクルスも座り私たちも座ります。
「イェーガー、どこまで話してるんだ?」
「上層部の見解を考えておりました。」
「なるほどな。して、メアリー指揮官はどう見ておられる?」
「まだなんとも……線としては新たな戦がある為の準備ですかね……この国は資源の宝庫、欲しい国は山ほどあります。外交に失敗した為急遽仕入れたか……或いは私たちに新たな武器を渡す……これこそが賄賂という可能性もあります。」
「賄賂だと?」
「何かしら仕掛けてくる可能性はあります。武器を与える代わりに人員を削減するなど多々あります。特に今外への政策が強くなってます。諜報部が中にいるならそのくらいの工作はするかと……」
「では、突き返した方が……」
クルス団長の言葉に私は首を振ります。
「それは国に対する反逆とも取られます。上が調達した物を使わない即ち戦力を削ろうとする者が騎士団内にいると知れば断罪して来るでしょう。」
「では、どうするのがよろしいと?」
イェーガー殿の眼光が鋭くなりました。彼は優秀です。否定するなら代案を出せ。彼は何かしら代案を考えてから発言します。それを他者にも徹底しているのです。
「今は角を立てずクルス殿とイェーガー殿2人が使うのがよろしいかと。それに使える武器かどうか判断も必要です。実践で使えなければ武器に意味はありません。これは弓矢より速い速度で真っ直ぐ飛びます。」
イェーガー殿とクルス殿は顔を横に振りました。
「我々では使いこなせんよ。」
「?どういうことですか?」
私たちは疑問に思います。彼らは第1騎士団。あらゆる部隊の精鋭部隊です。その彼らが使えないとは一体なぜなのか分からなかったのです。
「はぁ……こういう事だ。」
クルスは武器を手に取り引き金を引きました。しかしカチンと言うだけで何も起こりませんでした。
「弾が入ってないんです。」
「……は?」
「つまり武器はあるけど弾はないと?」
「そういう事です。」
「……何かの罠ですかね?」
「……総指揮官からですかね?」
「はい、我が父からです……」
「相変わらずですね。本当に……」
私たちはため息を吐きました。これから先あの総指揮官について行かねばならないのかと……
「意味はないと思いますか?」
「恐らく弾がどこからか湧いて来るとでも思っていたのでしょう。突き返しておいて問題ないかと……」
「そうか……ありがとう。これからもお前達を頼ると思うがよろしく頼むよ。」
「あら?良いのですか?総指揮官に伺わなくても?」
「はっはっは!ここにいる者は皆メアリー殿の作戦で命を救われたのだ。お主が失敗したのなら責める事はなく地獄に行くさ!」
クルス団長の豪快な笑いにイェーガー殿もコーネリアも頷きました。私の仕事は変わらずという事なのかもしれませんね。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
次回更新もお楽しみに!
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