第七話 呪われたホテルと聞くと怪談だがなんかコメディな現実
前回は数か月だったのが今回は一か月ちょっと! 偉い!
明日から実家へ法事へといく。外曾祖母というもう二度と法事に行かなくても文句は言われないようなところだけれど、新婚なのでいろいろと礼儀で。次からは行かない。面倒だ。
廊下を歩く。廊下を歩く。やっぱり廊下を歩いている。
念のために言うならば無意味に廊下を歩き続けているわけじゃない。
呪いの一つである永遠に続く廊下というやつを試しているのだ。
ほんの百メートルの間なのだがその間のせいで廊下の向こうにある客室に入れないのだ。実際に俺はこの廊下をかれこれ三時間は歩き続けている。
いい加減に喉も乾いたし足も痛くなってきたので戻る。戻りは普通なのでどっちかというと呪われているのは廊下ではなく部屋の可能性がある。
そもそも永遠と歩き続けてしばらくしてから、
「いつになったらつくんだ!」
と、廊下の床に向けてハリセンでひっぱたいた。
ひっぱたいたのだが呪いは解けなかったのだ。
「なあ。フルー。なんの呪いだ?」
「そうですね。おそらくですが封印系列の呪いだと思います。
呪いだけではなく守護の魔法ということもありますけれど」
俺の質問にフルーが考えながら答える中でローイが、
「珍しくない呪いだな」
そう断言した。
なんでもこういうふうに特定の場所に入るのが難しい呪いというのは珍しくない。宝物庫だったり王族のお墓用に建てられた建物。そういう場所には宝を奪われないように防衛システムとしてそういった術がかけられているそうだ。
「ファラオの呪いみたいな感じ?」
「ああ」
薫の言葉に俺も納得した。
ファラオの呪い。ピラミッドという古代エジプトの王のお墓。その墓にはたくさんの宝物が納められていた。まあ。お墓にお宝を入れるというのはエジプトだけじゃなくて世界各地にあった風習だ。日本でも昔の王族があの世で暮らしに困らないようにと装飾品などを渡したという。
今でも六文銭を入れるというのも似たようなものかもしれない。(ただし、最近は焼却することもあるので布に六文銭を描いているそうだ)けれども罰当たりというか墓荒らしというのは当然ながら存在する。
死んだ人間にお宝なんて持っている価値なんてないじゃないか。そんなある意味ではリアリスト。もう一つの一面では冷たい人。
そんな人間がわりとたくさんにいるのだ。
けれどもそれをそのままにされてはたまらない。
そのために防御用の罠がある。
魔法がない世界でも簡単に盗まれないようにしているのだ。それを考えるとそういう魔法があったとしてもおかしくはないよな。
つまり科学的な警備システムのようなものなのだろう。
「……ハリセンでも投げてみるか?」
しばらく考える。とはいえ、そこに命中せずに歩いてもハリセンも取り戻せなかったらどうしようか? いや、大丈夫だった。このハリセンはハリセンで呪われていて捨てられないのだ。……放り投げたとしてもある程度に離れたら勝手に飛んでくるのだ。
確か範囲は二百メートル離れるとだったから大丈夫だろう。
問題は、
「百メートル先の扉に当たるか? だよなぁ」
体は鍛えているし武道もしている。けれど、野球選手じゃないのだ。
俺たちは途方に暮れたのだった。
「しょうがないから他の異変の場所を見よう」
しばらく考えた俺はそう結論づけた。問題の先送りという。
日本人特有の文化みたいなものかもしれない。そう思いながら俺は他の場所へと向かう。ホテルの一室にあるバイキング形式じゃないレストランがある。
中華レストランは本格的でありテーブルが回る。丸いテーブルの中央にまた二回りぐらい小さな丸い机が乗っておりそれが回るのだ。そのうえに多種多様な料理を並べており好きな料理を自分の取り皿に乗せるやつだ。
料理メニューも多彩であり中華料理といえば思い浮かばれる家庭的な料理でもある餃子に焼売、春巻き。肉まん。更にちょっと手間がかかる麻婆豆腐にエビチリ、八宝菜や回鍋肉といった品々は当たり前。フカヒレや北京ダックに燕の巣等々といった高級料理などもそろえている。
「燕って鳥なんですよね。
鳥の巣が食べれるんですか!」
「……言っておくが普通にあるそこらへんの燕の巣は食べれないからな。
藁と泥の集合体で食べたら間違いなく腹を壊す」
俺も詳しくは知らないが限られた地域に住む鳥であり燕と呼ばれているが日本の燕とはかなり違う種類だそうだ。
ほとんど唾液を固めたものらしく高級品だそうである。
「中華料理とはおいしいのか?」
「中国という国の料理なんだが一口に中華料理といってもいろいろあるぐらい多種多様だ。けれど、おいしいな。作った料理人の腕が良ければだけれどな」
俺はそういう。
一口に中華料理といっても八つの地方に分けられている。(日本では基本四つに分けている)そもそも中国は日本と違って広く海に面した地域もあれば山に面した地域もある。更に寒い地域もあれば熱い地域もあるというわけだ。
まあ。狭い島国の日本でも元は別の国だったような北海道と沖縄を除いても地域で味付けが違うから当たり前かもしれない。
北京ダックや水餃子、ジャージャー麺といった味が濃く塩辛い山東料理。麻婆豆腐やエビチリといった香辛料使った辛い料理の四川料理。ふかひれスープや焼売やチャーシューといった素材の味を生かした薄味の広東料理。八宝菜や小籠包にワンタンといった甘味が強い上海料理とあるわけだ。
「まあ。料理談義は後にした方が良いと思うわよ」
そういった薫の視線の先にはそのレストラン。
そのレストランでは調理器具をはじめとしたあらゆる品々が飛び回っている。
「厨房は戦場だと聞いたことがあるが」
「そういう意味じゃないと思うぞ。まあ。普通でも怪我が足りないと思うんだけれどな」
ローイの言葉に俺は半眼で呻く。まあ。刃物はあるし炎はある。熱した油もあるし他にも肉をたたくハンマーなどもある。特に中華料理の包丁というのは途方もなくでかいものがある。そんな包丁やら思い鉄鍋などが飛び回っている空間は危険地帯だ。
「これでは料理が作れません」
「作ったとしても客も来ないだろうけれどな」
そうつぶやく中で周囲を見て回す。
しかしこれはこれでどうすればよいのだろうか?
「中心をはたけばいいんでしょうけれど」
「この中をか……」
飛び回る中華包丁は俺のこの細くなった首ぐらい胴体から切り落とせそうだ。
「後回しにしよう。……もとい、どんな呪いがあるのかを見よう。
核を解除すればよいんだからな」
本日二度目の先延ばしを決めた瞬間だった。
先延ばしの呪いホテル。
呪われたホテルといわれるとホラー映画のタイトル(それもありきたりなB級の臭いがする)みたいだけれど先延ばしをつけると斬新というかホラーテイストのコメディ作品みたいだ。
とにかく今のホテルは一言でいうならそうだった。
そこで泳ぐと半魚人になるという屋内プール。そこに入ると性別、年齢等がランダムに変化する温泉。両者二つとも一時的らしく短くて数十分、長くても三日もあれば戻るそうだ。俺は瞬時に一縷の望みをかけて温泉に入った。
……俺自身にかけられている呪いと類似した呪い。かつ俺の呪いのほうが上位に当たるらしく温泉の呪いは負けてしまい変化がなかった。
……子供になってもよい。老婆になってもよい。万が一にでも男に一時的にでよいから戻れていたら……。そう涙したのは内緒だ。
他にも入っているとどんどんと子供になってしまう迷子部屋。体が解けてしまうマッサージチェア。そんな使った人間に影響を与える呪いの品々。どれも幸いなことに数日で戻ってしまう者だという。
「ただでさえ、呪われているのに余計な呪いが入ると迷惑だよな」
「それは自分から温泉に突貫した人間が言う言葉か?」
俺の言葉にフィリアがあきれたように言う。
余計なお世話だ。それにプールには飛び込まなかったじゃないか。
とはいえ、そんな呪いだけじゃない。
違う場所へと繋がってしまうエスカレーター。便器から手が出て尻をなでる便器。そこで男女で歩くと頭からカエルや蛇にヘドロや生ごみが降りかかる教会。
「なんで宿泊する場所に教会があるんだ?」
ローイがきょとんとした顔で尋ねる。
「教会というか結婚式場だな」
この世界だと教会というのは神に祈るという神聖な宗教関連が強い場所だろう。ただ俺たちの世界だと教会はそれほど宗教の意味合いをもたない。
そもそも日本は宗教に対しては多彩すぎるのだ。クリスマスもお正月もお盆だって何かしらに祝うのだ。
「ここは神に祈るんじゃなくて結婚しますと宣言する場所だ。別に神に祈りをささげる必要はない。と、いうかここで神に祈る人間はいないと思うぞ」
「こんなに手入れされているのにか?」
「ボロボロで汚い場所で結婚をしようと思うのか?」
驚くローイに俺は言う。
「俺たちの世界じゃ宗教に関しては寛容というかいい加減な場所なんだよ」
そう説明をする。
ほかにもごみを捨てると逆にゴミを吐き出すゴミ箱。これは決まった場所ではなくランダムに移動している。背中を見せると人食い植物となって襲い掛かってくる花。そこの自動販売機でジュースを買うとかみついてくる自動販売機。
どれもどうすれば解除できるかがわからないという状況だ。
「やっぱりホテル全体の核をどうにかするべきだな」
ローイはそういって考え込むように言う。
「それはわかったけれどさ。
問題の核はどこだよ?」
「わからん」
きっぱりと言われて俺は頭を抱える。
「大丈夫です。ホテル内部にあるということだけは確かです」
「ホテルの外にある理由のほうがわからんわ!」
フルーの言葉に俺はハリセンでひっぱたいて叫んだのだった。
とにかく問題がある場所をホテルの地図で書いていく。
時間稼ぎもかねての仕事だがここできちんとしておくのには利点がある。フルーは今でも嫌われておりフルーのことを排除しようとする者は大勢いる。
ここで大きな仕事をしておけば人手不足のこの街にフルーが必要だ。そう表明することが可能となるわけだ。
そうなればフルーがあの善意で地獄の道を作り上げた王女様にどうにかされる可能性が低くなるというわけだ。
あの姫様は一応というか曲がりなりにも姫君だ。
国家問題になるような国に大きな不利になるようなことはしないはずだ。
つまりこの仕事をきちんとやり遂げることにもメリットがある。むしろ、失敗した方がいろいろと問題があるだろう。
そう思いながら俺は地図を見ながらルームサービスの料理を見る。
幸いにもすべての台所や食堂が使用不可能になっているわけじゃない。万が一にでもあの姫様と会わないようにと部屋で食べることにしているが仕事のためにこもっている。そう好意的に考えてくれたのも手伝ってかルームサービスで持ってきてくれた料理は豪華だ。俺はローストビーフ(スーパーで購入する出来あいものと違って柔らかくて美味)を咀嚼しながら地図を見る。
とりあえず場所だけを印をつけてみたのだが、
「なあ。なんか魔道的にわかったりしないか?
こう要所をまとめ上げると魔法陣になるとか」
漫画などではよくある話だ。
例えば、事件が起きるところを線でつなげると五芒星になるとか……。
そう思って聞けば、
「いや、そういうのはない。第一、これ立体的に見る必要があるだろう。
何しろこれはやたらと高い建物だからな。
なんでこんなに高い建物を建てるんだ?」
そうローイが言う。
まあ。そうかもしれないな。
「俺たちの世界の俺たちの国は狭い島国なんだよ。
世界一とまではいかないが狭いし島国だから簡単に領土を広げられないしな」
俺はそう答える。
考えてみれば日本は他国の侵略はめったになかった。それは一重に島国という孤立した島だから軍を派遣するのが大変だからという理由だろう。
だがそれと同時に他国に侵略も難しかったはずだ。
織田信長の後(の後というべきか)に天下統一をした(厳密に言えば織田信長は天下統一をしていない)豊臣秀吉は朝鮮を侵略しようとしたそうだ。
ただし当時の技術では船旅ですら命がけ。食料を得たりするのも大変だったりして実際のところは良い結果は出ずにいたそうである。
「領土を増えずに国を豊かにする。そして豊かにした国は人口が増える。
すると住む人が必要になる。そうなると建物の上に建物を建てる形のが必要になるんだよ。安心しろ。日本の耐震性は世界でも有数の安全保障だ」
俺はそう簡単に説明する。
狭い土地で住みよい環境を作るためにと最近では一階建ての家などあまりなく二階建ての家が多かったりするのも事実だ。
「そういうものなのか?」
「狭い日本。
家を作るなら広い家より高い家という言葉がないけれどできるかもしれないぞ」
「まあ。とにかく立体的に建物を見てみましょう」
俺の言葉にフルーはそういうと魔法を使い始めのだった。




