第六話 不穏な予感がする中で起きる事件というのはある意味では予想通り
前回から二か月もたっていました。
妊娠してつわりがようやっと落ち着いて安定期に入りました。更新はゆっくりとなりますが気長にお待ちください。
さて、あのはた迷惑な聖女様が来られてから我が家は余計に騒がしくなった。毎日のように俺の家に来て一方的に善意を要求するのが良い根性をしている。
「と、いうわけで夜逃げしようと思う」
「どこに?」
俺の言葉にフールが尋ねる。
と、言うか夜逃げという言葉は知っているんだな。などと俺はそんなことを思ったが、それは今はどうでもよいことだろう。俺はそう思いながら話をする。
「薫のところだ。連絡はしている」
幸いにも電話は通じるので薫にSOSを出してしばらくの間、住みこむことを許可をもらった。薫の家に住み込むのは俺とフールにアリスにローイだ。
兄貴は職場に寝泊まりし、吉成は心花の家だ。吉成の方はどちらかというと拉致に近い形であったがそこはさておいておこう。
毎日のように来る失礼なお姫様。
いい加減に我が家はストレスが溜まってきているというのが現状だ。
何しろ昼飯時だろうが夕食時だろうがやってきて食事を当然に要求してやれ貧相だ。やれ犬の餌を食べていて健康は大丈夫なのか?
そりゃ一国の姫君が毎日食べているような宮廷料理なんぞ出せるか! そう叫びたくなる。もちろんこっちの世界にだって宮廷料理とか呼ばれるようなやんごとなき身分の方々が食べるような料理だってある。
とはいえそれを一般家庭の日常料理で要求するな。そう叫びたい。
朝は味噌汁、焼き魚に野菜のお浸し。炊き立て白米で十分だ。家によったらそこにフルーツを添えたり納豆や焼きのりや漬物に佃煮をつける。あるいは、焼き魚に大根おろしなんかもつけるかもしれないが、とにかくそれが基本だ。
いやこれでもわりと豪華な方かもしれない。
だというのに向こうが要求するにはまずシリアル。小麦を使ったやつに牛乳を注いだ品。それから始まりポタージュスープに焼き立てのパン。バター(マーガリンではない)にフルーツを使ったジャム。厚切りベーコンを焼いたものにお好みの卵料理、ゆで卵(君しか食べない食べ方をする)かスクランブルエッグかオムレツか目玉焼きだ。目玉焼きなら半熟、固焼きなどを選ばれる。皿にデザートにフルーツとヨーグルト。
朝ごはんですらこれなのだ。
夕食なんぞ、前菜にスープに魚料理、肉料理に口直しの後にメインその後にサラダを食べてデザート、果物、食後のお茶を真顔で要求しやがった。
そんな料理を一般家庭で要求するな! そう叫びたくなった。
日本人の一般家庭では白米に主菜である肉か魚の料理。そして副菜が二品。そして汁ものが一品というセットですら手間暇かかる豪華なのだ。
お城のように料理のことを作るだけのことをするわけじゃないのだ。掃除に洗濯をするしそもそも、お城の料理人というのは一人じゃない。
一般家庭だとたまに鍋や丼もの、カレーなどで一品で料理をおわらせることすらあるのだ。デザートだって毎日、用意できないしそもそも我が家の財政はそれほど豊かじゃない。
俺がコース料理を食べたのなんて親戚の結婚式だった。それだって肉料理は一品で口直しはなかったし、デザートはフルーツとお菓子がセットだったぞ。
世間知らずということばが良くも悪くも出ている。
異文化や自分の知らない文化を知識として知る。
そうしようとする努力すら感じられないし、そんなのが存在するとすら認識していない。まったくもって迷惑な客だ。
「あんなのにもうこれ以上、かかわっていられるか!」
俺は血反吐を吐く勢いでそう叫んだのだった。
「じゃあ。この家にはもう来ないんだね」
「いや、そうはいっていない」
フールの言葉に俺は瞬時に突っ込みする。
確かに世間で言う夜逃げで元居た家に戻るなんてことはない。けれどもそれはたいていは借金とかが理由だ。だが俺たちが逃げる理由は迷惑な客が来るからという理由だ。
「あいつらも永遠にこの街にいるわけじゃないだろ」
曲がりなりにも王族で皇女だ。
たとえ礼儀がなってなく高飛車で偉そうで不快感しか与えなくてもだ。
ならば必ず母国へと帰らなければならないはずだ。
「それまで雲隠れをするんだよ。
しつこいし不愉快だからな。表向きは仕事で出かけているだ」
俺はそう断言する。
そもそも学校は自由登校状態だ。
「どこへ隠れるの? 薫の家」
「いや、薫のことを知っている可能性もあるからな。
迷惑をかけられない」
なので、
「それに聞き込みされたりしてきたら厄介だからな。
本当に仕事を受ける。泊まり込みの長期の仕事という名目だ。
仕事ならすでに見つけている」
今まで日帰りでしていたが長期の仕事を見つけた。
「どうやって見つけたの?」
アリスが驚いたように尋ねれば、
「兄貴に頼んでこっちに回してもらったんだよ。
依頼料はあまり出ないが長期の仕事で泊まり込み。宿泊代と食事代は無料でホテルにかけられた呪いの解除だ。
調べてみると複数の呪いが入り混じっているらしい」
呪われたのは人だけではない。ある程度、大きすぎる建物となると建物にも呪いがあるそうだ。そしてうちの街には大きなホテルがある。
別に観光地というわけじゃないのだが駅前の近くにそれなりに大きなホテルがあるのだ。ビジネスホテルというわけじゃないのだが、宿泊だけではなくバイキングやレストラン、結婚式などが行われたりする。
豪華絢爛なホテルだ。だが今は呪われており人も宿泊が不可能の呪われたホテルとなっている。まるで怪談のような状況だがどっちかというとゲームに出てくるダンジョンに近いらしい。 足して二で割ってホラーゲームのダンジョンみたいなものかもしれない。
そんなことを思いながら俺たちは出かける準備をする。さすがに服の着替えは必要だ。食料もいくつか用意しておいて水がいらないシャンプーやボディーソープなども用意しておく。後は便利なナイフや携帯コンロなども用意しておく。
ただし荷物は最低限で見つかりにくいようにしておく。
そんな中でそろそろ来るだろうと思っていた呼ばれぬ客がやってきた。
「……迷惑だと思われてるということを理解する脳みそがないのか?」
こういうのを電波系……いやお花畑というのだろう。あらゆる出来事を自分に都合の良いように考えて自分が世界の中心。自分は世界が幸せである。
そう思っているようなおめでたい頭の持ち主だ。
ちなみに今日の夕食は一品料理のカレーだ。単に長期間、家にいないのでたまっている食料を消費したいからだ。その点ではカレーは便利だ。基本的な食材がそろっていればよほどの者じゃない限りはおいしく食べれる。俺の持論ではカレーにこんにゃくと大根とフルーツ類は邪道であるがそれ以外なら納得だ。大根はあったがサラダにしておく。リンゴと大根のサラダと大量のカレー。余ったのは冷凍庫で保存することにした。
さて夜逃げ結構の夜だ。俺たちは裏口から家を出て鍵をかけることになっているがその前に協力者である道場の門下生に協力してもらっている。車を運転してもらいうちの家の前に何度か止まって行き来をしてもらっているのだ。
さすがにないと思いたいが見張りがいる場合、ついてこられる可能性がある。だからこそ、目の前を相手には見慣れない車を運転してもらい気になるようにしたのだ。
ちなみに車はこの街ではもう運転する人間はそうそういない。何しろガソリンが無くなる可能性が高いのだ。それに呪いでまともに運転できる人間も少ないというのがその理由だ。それゆえに車に気がとられるだろう。試しに車の映像をテレビでみせたら魔法を使った道具か? と尋ねてきたほどだ。
魔法での移動方法があるせいか乗り物というのは基本的に馬車など動物が引くそうだ。人力車ならばまだ理解は可能かもしれない。
余談だが、自動車を見たときにどういう理屈で動いているんだ? そう尋ねられた時に困った。あいにくと俺は車を見たことがあるが、動かし方だってわからないのだ。(免許をとれる年齢じゃないし、免許を持っているのは兄と両親だが運転できない肉体だ)
そもそも運転できたとしてもどういうシステムで動いているのかは詳しくわからない。しょうがないのでエンジンで動いていると答えたらエンジンとはなんだ?
ゲームなどで魔法使いは知性が高い。そんな言葉を聞いたことがあるがなるほど知的好奇心が高いらしい。まあ。確かに脳筋の魔法使いとか筋肉マッチョという魔法使いよりも知的な魔法使いの方がイメージしやすい。
まあ。最近のマンガやアニメなどではたまにゴリゴリマッチョな魔法使いとかも現れるがあれは例外中の例外だろう。
そう思いながら俺はエンジンの説明をする。
簡単に言えばエンジンは内部で壊れない程度の小さな爆発が起きる。爆発の風で歯車を回しているんだ。そう答えたが理解したかどうかは謎だ。
詳しく知りたいならそれなりの本で読んで調べるように伝えた。とはいえ車のシステムやら動く仕組みなんて細かい情報をまとめているような専門書は俺はもっていない。
図書館にでもいかないとないだろう。そういえばここのところは図書館には向かっていない。図書館はこの世界にもあるらしく無料で行けるといったら目を輝かせていた。
どうやらこの世界では本は希少価値が高いらしい。
まあ。それはせめてあのはた迷惑な善意で迷惑をまき散らす姫さんが帰ってからだ。そういえば納得してくれた。
必要最低限の品を運び他のは車の時にいくつかを運んでもらう。何度か流通を繰り返して俺たちのもとへと運んでもらうようにするつもりだ。
カバンの中身を何度か入れ替えたりして荷物を置いたりロッカーなどで利用したりするのだ。気分はさながら麻薬の密売人か極秘諜報員、あるいは身代金を受け渡しを要求された我が子が誘拐された親か誘拐犯の気分だ。
ちなみにこうした夜逃げの方法は夜逃げなどを請け負う会社のドラマを見たのだ。かなり面白かったり俺はアクションと知恵を使うミステリーアクションドラマが好きなのだ。
そう思いながら俺は最低限の荷物を身に着けて出かける。
ふと思い出したのはアンネの日記という本だ。主人公はナチスからの迫害から逃れるために隠れることにしたのだ。隠れるときには荷物を最低限にしていたそうで何枚も厚着をしていたそうだ。俺たちもそうした。
まだ春先なので少し歩くだけで汗ばむ。
そう思いながら俺たちはホテルへとたどり着く。ちなみに歩いてではなく別口の車に乗っての移動である。夜でもにぎやかなのは幸いだった。
何しろ呪いはまだ世界に広まっているのだ。
夜に人狼になったりする解りやすい呪いを受けた人が屋根の上で遠吠えをする。コウモリの羽根が生えて空を飛んでいたりする。
魑魅魍魎の百鬼夜行のような街なので悪目立ちすることはなかったのだった。
やってきたのは駅近くのホテル。駅の近くには必ずホテルがある。小さな駅だとあるのはカプセルホテルと評されるような小さなものだがここのホテルは違う。
一階は喫茶店やコンビニがある仕組みになっておりホテルの一部は立派なレストラン。泊ってなくてもお金を払えば料理を食べることができる。レストランも三つほどあり和食のレストランもあるが洋食のレストランも存在している。
さすがに温泉や大浴場は存在していないが案内された部屋はかなり上等な部屋だった。
「うわ。すげー豪華」
両親がまともな人間だったころ(こういうと誤解を招きそうだが、正確に言えば魚じゃなかったころだ)にも家族旅行に向かったことがある。
特に兄の大学合格祝いの時はちょっと良い旅館に泊まったこともある。けれどもここまで豪華な部屋は初めてだ。
ちなみに一人、一部屋という状態にしている。俺は俺で女性と同じベッドで眠ることができるほど神経は図太くない。ローイだって女性と同じ部屋で眠れるほど神経は図太くないだろう。かといってローイにしてみたら俺だって女性なのだ。
元々、客がいないということから上等な部屋を一人一つの部屋にしてもらった。
しかし、
「これで代金もあちらもち。うわ。信じられねえ」
小市民の高校生としては信じられない世界だ。
まずホテルの部屋は大きく分けて三つに分けられた。
最初に見えたのはテレビがあるリラックスルーム。大型テレビの前には立派なソファー。その近くには小さな冷蔵庫。その隣には簡単な台所としてコーヒーメーカーに電気ポットがある。ペットボトルに入った水と紅茶と緑茶に烏龍茶のティーバック。それとコーヒーメーカー用の珈琲カップ。こちらもブレンドにエスプレッソ、モカと三種類ある。それと砂糖とミルクが用意されている。
俺が過去に泊まったホテルではせいぜいお茶は一種類。珈琲もティーバックだった。
冷蔵庫は冷蔵室と冷凍室の二種類が存在している。そして部屋はそれだけではなく足のマッサージとカオのマッサージ道具まである。
さらにマッサージチェアとクローゼット。クローゼットにはハンガーに寝間着にタオルとバスタオル。更にアイロンまである。
続いて寝室。ベッドがあるのは当然ながらでそこには服をかけるものもある。更に時計もあり音楽やラジオも聴くことができる。あと目覚まし機能がついている。更に枕は何種類かあり好きなものを選ぶことができる。
お風呂場もすごい。普通、こういう場所だとトイレとお風呂が一緒の場所にあることが多い。高校の修学旅行で泊まったホテルではそうだった。
だが違う。しかもその中間にある手洗いの場所。そこにはバスセットがある。体を洗うようのタオルだけではなく化粧落としに化粧水、乳液まである。さらに入浴剤も用意されておりお風呂の中でも見える小型テレビもある。お風呂も広く足を広げて伸ばすことができる。トイレは普通に水洗トイレである。
好きなだけ宿泊が可能であり料理も食べ放題。
「うわ。早く依頼を終わらせないと人間としてだめになるかもしれない」
レストランの説明が書かれているパンフレット読んで俺はそう思う。
レストランは中華と洋食と和食の三種類がある。
「早く帰ってくれよ」
仕事が終わっても家に帰れない。けれども贅沢すぎる環境に慣れるのも怖い。
複雑な心境を覚えながらもとりあえず依頼人である支配人のもとへと向かう。
依頼人のもとへと向かいどんな困ったことが起きているのか。
その詳しい事情を聴くのだ。
これだけ贅沢な環境を用意されているのだ。
真剣にやらないと罰が当たる。そう思うのは俺だけじゃないはずだ。




