第五話 地獄への道は善意で舗装されている。一方的な正義は悪より質が悪い。
さて、この後にどうするか?
俺はしばらく様子を見る。ただし、スマホのライン(異世界でも使えて万々歳)で、薫に連絡をしておきフルーたちに隠れるように伝えておく。
時間稼ぎにもなるし、言っていることは正論……のつもりだ。
強行突破をしてきたら、その時はフィリアさんに頼もう。
まあ、さすがにそんなことは……
どっがしゃぁぁぁぁん!
「したよ」
しないだろうなぁ。と、思っていたら成大にドアを壊して入ってくる騎士。
思いっきり俺は顔を引きつらせているだろう。
現代日本じゃ考えられないお邪魔します。の、方法だ。
警察だって銀行強盗といった立てこもり犯への突入だってもう少し、いろいろと考えるぞ。強盗だって、ここまで派手なことをするやつはめったにいない。
そう思っている中、騎士たちは両側にたちそして真っ赤な絨毯が来る。
そしてそこを歩くのは純白の清楚なドレスを着た女性。
流れるような金髪に透けるような白い肌。青い瞳に派手ではないシンプルな化粧。
自分の家の玄関を盛大に壊して許可も得ずに入って来なければ見惚れていただろう美少女。まるで白百合のようだ。……人の家を壊して申し訳なさそうな顔もしてないという点を無視すればだけれどな。
よくアニメや漫画でヒロインがドアや壁をけ破って入ってくる。それを、主人公が起こったりするがサブキャラクターたちはヒロインが美人だから許す。
と、いうラブコメ系の作品がある。
よくモブたちは許せるものだ。と、現実逃避をしながらそう思ってしまう。
そんな中、
「まあ、ずいぶんと狭い玄関ですのね」
「帰れ」
「遠慮することはありません。
急に来たのはこちらです。
多少の無作法は気にしませんし、硬くなる必要もありませんわ」
「もう一度だけ言う。帰れ」
きっぱりと二度言うが、
「それでは、応接間はどこですか?」
と、たずねる美少女。
うわ。この女、人の話をちっとも聞いてない。
いらり。と、した不快感を覚える。
「いい加減にしろよ。帰れ! と、言っているんだ。
遠慮もかしこまっているわけじゃない。普通に嫌悪をしているんだ。
来るなら前もって来る。百歩譲ってもだ。こっちの都合も考えず、しかも人の家を破壊して突貫してくるのは迷惑なんだよ! それともなにか? あんたの家に来る客はみんなあんたの家を破壊してくるのか?」
「まあ、わたくしの家を破壊するようなものは当然、罪に問われるに決まっているではないですか? もう少し、頭を使って行動することをお勧めしますわ」
「あのな!」
うわ。こいつ、殴りたい。少なくとも、俺個人としては思いっきりグーで殴り飛ばしても許される気がする。ただし、それは俺の中だけだ。少なくとも周囲を囲んでいる騎士たちが許すとは思えない。かろうじて残っている理性でそれを抑え込ませる。
聖女と呼ばれているが、あの傲慢の猫よりも傲慢だな。と、俺は思ったのだった。
何を言っても無駄。どれだけ何を言おうと自分の都合の良いようにしか人は動かない。そう思っているような人間だ。
これならまだフィリの家族の方がまだ会話ができた気がする。
しょうがない。時間はとりあえず稼いだ。
「では、狭苦しいところですがどうぞ」
俺はそういうと応接室へと案内する。
応接室といっても簡単なソファーと椅子にテレビがあるという一般家庭のものだ。入るお客さんだって十人を超えることなんて想定していないような部屋だ。
当然ながら無駄にやたらとごつい鎧を着こんだ騎士団に豪華なドレスを着たお姫様を招待するような部屋ではない。と、いうかそもそもそういう家ではない。
不満を持たれるだろうなとは思っていたが、
「なぜ物置に案内するのです」
「すみませんね。何度も言いますがここは姫様が来るような場所じゃないんです。
あいにくと姫様にふさわしい部屋なんてないんですよ。
ここが一番、お客様を招待するための家なんですけれどね」
言外に不満があるなら出ていけ。と、伝える。
とはいえこの自分が迷惑をかけると思ったこともないお花畑脳みそが気づくとは思えない。
「それでは近いうちに用意しておいてくださいね」
「なんで俺の家にくるわけですか?
どんなご用件なんですかね?」
俺はそういってお茶漬けを出した。
京都などで一般的に伝われているお茶漬け……とっとと帰れ! という隠語だ。
異世界で意味が伝わるとは思っていないが、皮肉だ。
まあ。姫様がこんなもの。ごはんにお茶をぶっかけた品なんて口に会うとは思えない。まずいと言われたら貧しいものでしてね。
そう皮肉を言ってやるつもりである。
「この家に魔法使いが住んでいるそうですね」
「魔法使いですか……。まあ、この世界は魔法が使えるそうですからね。
家がない方と同居をしております。困っている人を見捨てることが正しいことではない。すくなくとも俺たち世界ではそう学んでおります。
ひょっとしてそちらの世界では困っている人を助けてはいけない。そんな決まりがあるんでしょうか?」
「そんなわけないでしょう。ですが相手が悪魔であるのです」
「悪魔なんですか?」
俺は驚いたように言う。
「はい。この世に絶望と邪悪を生み出す邪悪の根源です」
「ずいぶんな言いようだな」
そういって現れたのはローイだ。
「ローイ。お前、悪魔だったのか?」
「失礼な。正真正銘の人間だ」
俺の言葉に顔をしかめる。……実はスマホで通話状態にしており俺たちの会話は丸聞こえだ。どうやら狙いはフルーらしく同居人はローイだけという誤解を招くことにした。
女性の方に関しては俺やフルーの友人などが来ている。そのことからごまかす。
「だ、男性?」
「ええ。正真正銘の男です。ですが皇女様。
わたくしが違う国とはいえ貴族でしてそれなりの地位を持っております。そのことを考えてわたくしを悪魔とお呼びしたんでしょうか?」
ローイがとがめるようにそう尋ねた。
「皇女様。
おひとつ忠告いたしますが、この街の者たちは異世界のものです。
この世界に来ているのも、呪われてしまったのも我らが咎です。
呪いの魔女王という存在をこの世に生み出してしまった罪。
完全に呪いを解くことができずにいる罪です。
この世界に来たところで、この世界の常識を知らないのです。
なので、我々の行動は彼らにとって当然のことなのです。
皇女様。
あなた様の行動はあなた様祖国の品位。また、この世界全ての王族の行動。
それらを表現をあらわとすることになります。
それを踏まえて私は皇国について正式な抗議文を書こうかと思います。
聖女と名乗りながら呪われたもの達への対応の仕方を滾々と話し合います。
礼儀作法についてしらないようでしたら、お国を出ることはお勧めしません。
どうかお城にお戻りくださいませ。
あなた様の行いがあなた様の立場を悪くしてしまう可能性があります。
そして騎士の方々です。
あなた方は、皇女様をお守りするためにいるのではないのですか?
わたしの父は宮廷魔道士という立場ですが、それと同時に国を守るための騎士とも言えます。それゆえに問いかけますが、あなた方は本当に騎士のつもりですか?
少なくともわが国では騎士とは王族を守るための盾であり剣でもあります。
けして権力を見せつけるための装飾品でもなく衣服でもありません。
それを理解していますか?」
「失敬な!」
その言葉に騎士が起こったように怒鳴る。数名なんぞ、剣に手をかけている。俺はすぐに対応ができるように気を付けて、ローイも杖に手をかけている。
それでも冷静に話す。
「ならば、今は何をしているのですか?
守るというのは外敵から物理的な攻撃だけではありません。
名誉を守るために時に主君をいさめ悪評をしないように行動を制する。
名誉を守る盾となり、悪評を切り裂く剣となる。
それも必要なことです。
あなたの行動がどれだけ皇女に悪評を呼び名誉を傷つけると思っているのですか?
この行動で、皇女は突如として異界に来てしまった者たちの民家を破壊して横柄に行動する。そしてそこに住んでいる者たちを悪魔と呼び放つ。
そういうふうなものが王族と思われます。
はっきり言って迷惑です。
あなた方の国ではそれで構わないのでしょう。
ですが我が母国まで同じように思われるかもしれない。
それを考えるとひどく迷惑です! ひいてはあなた方の行動はあなた方の国をひどく被害を与えています。
国を守るはずの剣で自分の国を傷つけている。
騎士が聞いてあきれる。あなた方が突如として来て迷惑と思わない者たちはいません。
ただ寝言を言いに来たというならば早く帰ってください。
これ以上、この場にいるならば皇国の……皇帝陛下の政治能力や力を疑われます。
それを考えたならば、いい加減に出て行ってください」
「出口はあちらです。お互いに不愉快なので出て行ってください。
こちらの国ではどうやら、一般人でも大した豪邸に住めるようですがあいにくと、我々の世界の国土は狭い。家は小さく必要なものだけしかないのです」
ローイの言葉に俺もきっぱりとそう断言して追い出したのだった。
「塩をまくぞ。塩」
俺はそういって玄関に塩をまく。
「なぜ、塩をまく」
「二度と来るな! と、言う意味だ。
邪悪を払うという力があるのが塩だからな。
その塩だから、二度と来るな。と、言う意味になるんだよ」
お茶漬けよりも一般的な事だ。
とはいえ、実際にお客様が帰った後に塩をかける。と、言うような人なんて初めて見た。ちなみに、巻いた塩は百円ショップで買いだめしておいた安売りの塩である。
塩は調味料の中で最も大切な品だからな。まあ、この世界の文明はそれほどひどくない。識字率は低くないようだし、紙も塩も砂糖もきちんと広まっている。
まあ、胡椒は少々、高価らしいが……。それでも、昔のように金と同じぐらいの金額ではないそうだ。幸いである。
香辛料もあるので、食生活が困ることはないだろう。
問題は、みそと醤油である。
とはいえ、町にあるみそ工場と醤油工場に期待をしよう。
しかし、
「アリス」
「いやー。ごめんね。
うちの愚妹がねー」
そういってアリスが謝罪する。
「あの性格は昔からなのか?」
「そうよー。悪気のない上から目線の見下し宣言。
善意で言っているんだけれど、自分の行動が相手を不快にさせてしまうことがない。
そう本気で思い込んでいるのよ。
悪意無効という加護があるからさ」
「悪意無効?」
「悪意を持った魔法や攻撃、呪いを全て無効化にしてしまう。
当然ながら、悪意を向けて攻撃をしようと思った時点でアウトなのよ」
「俺、悪意を持ったけれど」
「平和的に解決しようとしたからね。
悪意を持って行動をしたら跳ね返っていたわ」
迷惑だな。と、アリスの言葉に俺はため息をつく。
「ある意味、呪いだな」
悪意に気づかない。
それは、人の心がわからないということだ。
そうなると、王族……将来的に人の上に立つものとしては問題がある。
「まさか、全員が全員、その加護をもっているわけじゃないよな」
「似たような加護なら持っているよ」
「マジか」
その言葉に俺は頭痛を覚える。
もはや、呪いかなんかじゃないのか? ある意味、国を緩やかに衰退させようとしているようにすら感じさせる。
いつから、そんな呪い……もとい、加護があるのかは知らないが……。
近いうちに、あのマリアンヌという人間は不幸になればよいな。と、少しだけ思ってしまうような相手だった。
外見は美少女な分だけ性格の悪さが際立つ。
際立ちすぎてむしろ、平均並みの外見のほうが……まだましだっただろう。
とはいえ、これで終わりそうにないのでため息をつくのだった。




