第四話 聖女が来ると聞いてここまでうれしくないのはなぜだ?
聖女が来た。と、言うことが話題となりパレードが行われることになった。
「パレードね」
別にパレードは必ず行かなければならないわけじゃない。
俺たちが行くのはトラブルの元になる気がする。なので、地方テレビの放送を見ることにしている。
「あんな面倒なのどうしてやるのかしら?」
「まあ、しょうがないだろ」
アリスの言葉にローイが言う。
「王族が正式に来たんだ。
王族が来たと宣言をしなければならない。
また、その国の権威だ。パレードで来るほうは、自分たちの国の財力や権威を表明する。また、迎え入れる側もそれ相応の挨拶。つまり、自分が歓迎しているということを証明する。そのためにもパレードは必要なんだ」
「それだけじゃないさ」
と、ローイの言葉に俺は言う。ローイの意見は間違っていないがそれだけじゃないのだ。
「ストレス発散の娯楽。
お祭りをおこしてこの町の住民の元気を出させようとしているんだよ」
何しろ、突如として異世界に来てしかも呪われたのだ。
町の外にも出ることができずに軽い軟禁状態というか監禁状態。
不安や不満が積もっている。
それらで、ちょっとしたお祭り騒ぎをして空気を入れ替えよう。と、考えたのだろう。
「そろそろ、外からの輸入も考えているみたいだしな。
農業なども復旧しているみたいだし」
と、俺は言う。
幸いなことに、この町はそれほど大都会というわけじゃない。田んぼや畑もあるし、料理を家宝食品にする場所もある。どうにか、自力で多少の開発が可能となっている。
とはいえ、種を植えてすぐに実るわけがない。
魔法なども使い、この町をまともに回復させようとしているようだ。
兄貴からも話を聞いた。
問題は、真っ当な仕事ができる人間は全員じゃない。
むしろ、まともな仕事ができる人間は少ない。と、いうことだ。
それを、考えると不安が大きい。
「俺たちみたいに、高校生でも働くことになりそうだしな。
いろいろと生活が変わる。
それも納得できるように、ちょっと楽しいことを用意しようとしているんだろうな」
「それはよいけれどー」
俺の言葉にアリスは言う。
「あの子がいるのが大変なのよねー」
「あの子ってあのお姫様だよな」
と、アリスの言葉に俺はテレビを見る。
テレビには金髪に青ひとみをした白い肌の小柄な少女。少なくとも外見に非の打ち所がない愛らしいその外見は、さながら人形のようだ。
「美人だよな」
「兄さんの方が美しいよ。僕の恋人だもん。いつだって僕の№1さ」
「兄と恋人を同列視するな。弟」
と、寝言を言う愚弟の頭を俺はハリセンでひっぱたいたのだった。
「問題は、どれだけあの姫様がこの町にいるか? だよな。
まあ、公務があるから延々といるとは思いたくないけれど……」
だが、それは国王や王妃とかならば……だ。
王女であり、しかも王女でしかも、王位継承権は低い。お姫様というのは、言ってしまえば政略としては嫁に嫁ぐ立場だ。つまり、重要な人物であるが政治を自分で動かすことはあまりないのが基本だ。
まあ、俺たちの世界では女性政治家もいるが、少ない。
それが、この世界ではさらに低いという可能性が高い。
そう思いながら、俺は問題を口にする。
「あいつらの目的が、行方不明の娘。あるいは、呪いの魔女姫が狙いならば、そう簡単に帰ってもらえるとは思えない」
何しろ、いつごろ帰りますか? と、言う質問は今日するのだ。
下手をしたら、それで何やらどうのこうのと長期化になるかもしれないのだ。
俺はため息交じりで、警戒する。
「だが、大丈夫じゃないか?
まさか、一般家庭に住み着いているとは思わないだろう」
と、ローイが楽観視するが、
「あのなー。
今までなんだかんだと、大事件に俺達はかかわっていたんだよ。
ドラゴンとかな」
ドラゴン。その言葉に一気に視線を逸らすローイ。
「大丈夫です。
あの人たちは殺人はしませんよ。
生きたまま、熱湯をかぶせたり茨にはりつけにされて放置されるだけです」
「……」
フルーのにこやかな大丈夫じゃない大丈夫です発言に俺は沈黙する。
それは、大丈夫とは言わん。
と、言うかそれじゃ、昔の魔女狩りの魔女裁判と一緒だ。
魔女裁判。剣を指して、血が出なかったら魔女。生きたまま水に沈めて生きていたら魔女。等などと、そりゃ、当たり前だろうが! と、言いたくなるような条件を与えられていたのだ。死ななきゃ有罪。有罪なら死刑という状況なんだから、理不尽の権化だ。
さすがに、そんな目にあいそうになったら全力で逃げるぞ。
「まあ、話を戻すけれどな。
なにかが起きる可能性が高い。と、いうわけだ。
そもそも、この町は呪いがはびこっているだけじゃない。
いろいろと、この世界の因縁がまじりあってここに集結しているんだ」
と、俺は言う。
そう。呪いの魔女王が残した大量の呪いが集まった街。
呪いの魔女王を支援する一派。
呪いの魔女王を倒そうとする一派。
呪いの魔女王をどうにかしようする一派。
強硬派に穏便派。
更に、国の政治の思惑が動き出すという可能性もある。
「まあ、一国の姫君がドラゴンに憑依されて襲撃する。
と、言うことはさすがにないだろうが」
「……ドラゴンは忘れてくれ」
俺の言葉にローイが言う。だが、忘れたくても忘れられないぞ。
ドラゴンとの戦いなんて……。
俺はため息交じりに肩をすくめたのだった。
「まあ、何が起きるかはわからないのが事実だ。
気を付けないと、悲惨な結果だからな」
と、俺はいう。
甘めの砂糖菓子を食べながら、俺はため息をつく。
何しろ、相手は一国の姫君だ。下手なことをすれば国際問題だ。
俺たちが異世界人だということを無視したとしても、下手なことができない。下手をしたら国際問題? いや、世界問題になりかねない。
俺たちは異世界人という立場だが、それと同時に異邦人なのだ。
行ってしまえば、身元や身分を保証する国家や権力は存在していない。
俺たちを守っているのは、被害者という立場だけだ。例えば、何らかの形でどこかの国家が攻めてきて占領する。
そんなことが起きたとしても、俺たちを守る存在はいない。俺たちの攻撃を不当だ! と、主張して守ろうとする国家や国は存在しない。
何しろ、俺たちは税金は払ってない。まあ、一応というか町長ぐらいは存在をしているだろう。
だが、あくまで管理しているだけだ。それも、国から出された税金からのぶんだ。さらに、町のシステムは呪われているのでの方も機能が八割ぐらい停止しているようなものだ。代用として、魔法協会が手助けをしているが、あくまでその程度だ。
完全な復旧になっているわけじゃない。
それに、この世界は当地国家ではない。行ってしまえば、軍隊もないのだ。何しろ、日本には自衛隊があるがきちんとした基地があるが、場所が限られている。
俺たちが住んでいた街には市役所もない。
そのために、まとめ役のリーダーもきちんといない。
まあ、たとえ市役所があったとしても呪われて機能停止していただろう。
そのために、今は魔法協会の庇護下にあるのだ。
だが、協会はあくまで自治組織。国家権力に対抗できるわけではない。
それを考えると、厄介なことこの上ない。
まあ、フィリアさんの人柄を考えるとおそらく守ってくれる。
だが、それはフィリアさん個人だ。
魔法協会全体がどうなのかはわからない。
フィリアさんが何らかの形で失墜した場合、あるいは何か不幸が起きたら死亡。それによって、協会のトップが変わったら協会の方針が変わる。
下手をしたら、呪いの研究材料として生きた実験場になりかねない。
それを考えると、俺はぞっとした恐怖を覚える。
「何事も起きなければよいんだけれどな」
「それで、どうするんだ?」
俺の言葉にローイは言う。
「下手に動き回らずおとなしくしているさ。
それだけだ」
と、俺が言う中で、
「失礼する!」
と、いう声が響いた。
「…………嫌な予感がする」
「俺もだ」
「大丈夫です! 出会いがしらに刺されたりしたとしても、すぐに死ぬことはありません」
「……それを聞いて大丈夫。と、いえるほど俺は神経は図太くないなぁ」
ローイの言葉に笑顔でいうフルーに俺はつぶやく。
「とにかく、フルーとアリスは奥にいて呼ぶまで出てくるな」
俺はそういって玄関へと向かったのだった。
「……どちら様でしょうか?」
と、俺は仮面をつけた状態で目だけ除く。
もちろん、それには理由がある。何しろ、この呪いだ。仮面で顔を隠しているのだが、それでも頭がおかしくなったストーカーは存在している。
ストーカーが現れて求愛したり、いきなりバラの花束で求愛を通り越して求婚する。そんな人間もいるのだ。と、ちゃんと説明ができる。
ちゃんと、その理由もあるのだ。
そう考えながら見れば、
「わおう」
と、呻く。
予想通りというか、純白の軍服を着た集団がいた。
筋骨隆々というムキムキマッチョではない。だが、引きしまえた活動的な体つきをしている軍服。それも、式典を思わせる品でシミ一つのない純白の布地、金色のボタンや赤い飾り紐。そして、細かい刺繍まで施されている。
それらを考えると、式典用だろう。
軍人ではないが、俺でも多少は常識がある。実践で考えると、俺はまずそう簡単ではないのだ。あんな豪華絢爛というか派手な服を身に着けていると、実践では役立たずだ。
腰に剣を指しており、立派な服は見た目は豪華絢爛だが実践向きではないだろう。
「どちら様でしょうか」
「失礼ですが、ここに入らせていただきたい」
「……すみません。
あいにくと、名前も目的も名乗らない初対面の人間を家に入れる気がないんです」
と、俺はそう答える。
嘘ではない。現代日本は平和ボケと言われているが、常識というのもある。
知り合いなどならともかく、いきなり見ず知らずの人間が集団で武器付きでやってきた。せめて、身分などを証明しろ。と、言いたい。
警察官だって、少なくとも自分が警察だ。と、いうことや用件を簡単に言うぞ。
その言葉に、彼らは顔をしかめる。
「我々は聖近衛騎士団だ」
「すみません。知りません」
と、即答する。
「無知な女だ」
男だよ。
「あいにくと、俺たちは元からこの街に住んでいたんだ。
あんたたちの世界のことなんて知るわけがないだろ」
と、俺は反論する。
「ついでに、騎士団と名乗っているようですが……。
いきなり初対面の家にやってきて高圧的に対応する人間。
それを、騎士とは思えません。
あなた方が、騎士のふりをしている詐欺師の可能性もあります。この街に騎士団が来ることは有名ですからね。そのふりをしての詐欺師が来たとしてもおかしくない。
本当だというなら、俺たちが信用させれるような人間を連れてきてみてください」
と、俺は言う。
「貴様! 何様のつもりだ」
「そっちこそ、何様のつもりだよ?
騎士だからって偉そうにしているな。
俺たちはあんた達に守ってもらった覚えもない。
ついでに、そんな無知な人減がいる家に来る用事が岸にあるわけないだろ」
俺はそういうと、ドアを閉めて鍵を閉めてやった。




